音楽は開かれたものとして、 多くの人に届けたい。

Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
三宅正一・文
text by Shoichi Miyake

音楽は開かれたものとして、 多くの人に届けたい。

原 摩利彦 Marihiko Hara
作曲家/ピアニスト
1983年、京都府生まれ。京都大学教育学部卒業。「質感/静謐」を軸にさまざまな形態で制作活動を続ける。これまでに坂本龍一との即興セッションやダムタイプ高谷史郎プロジェクト・メンバーへの参加、NODA・MAP『足跡姫』などの舞台音楽、歌舞伎『男の花道』の編曲を務めている。

ピアノを軸に、プログラミングやサンプリング、フィールドレコーディングなども取り入れながら創造する原摩利彦。彼の音楽が息づく場所は多岐にわたる。美術館や博物館でのサウンドインスタレーション、舞踏、演劇、歌舞伎、映像作品、パリコレのショー。そして、京都を拠点にするアーティスト集団であるダムタイプや彼が音楽家として憧憬の念を抱く坂本龍一とのコラボレーション。その音の在り方は対峙するシーンとシチュエーションに応じて変化する。

京都在住の原は前出のダムタイプを筆頭に地元のアーティストたちと親密な交流を重ねつつ、国内外問わずすべての現場がシームレスにつながり、そこで得たものが自身の音楽表現へフィードバックされていることを実感しながら、さまざまなフィールドへ赴く。

「現場によって求められる音も演奏も異なるので、日々鍛錬しておかないと対応できないですね。それと同時に、それぞれのパフォーマンスやお仕事でタイム感が全然違うのも面白いんです。僕は大学で生涯教育を学びました。人はいくつ年を重ねても学び続けるべきであるという学問を通して、大人になり仕事をしながら新しいチャレンジをしていくことに違和感を覚えない考え方を得ることができたんです。さらに、僕がつくる音楽が一定の人にしか理解されないものではなく、開かれたものとして多くの人に届けられることが重要だと思っています。たとえば、普段は音楽やアートに積極的に触れることがない方にも」

原の人柄はとてもチャーミングだ。奥ゆかしい語り口の中に時折ジョークを交え、小さく笑う。最新ソロアルバム『LandscapeinPortrait』は、原がピアノを主役に据える自身の本質的な音楽表現と真摯に向き合った、ポスト・クラシカルに位置づけられる作品だ。劇伴然としたピアノの旋律の輪郭が際立つ楽曲もあれば、リラックスできるアンビエントな楽曲もある。

「自分の根本的な音楽性を示すような作品をずっと発表したかったんです。環境音楽や電子音楽的な方法論も取り入れていますが、あくまでスタンダードな領域に作品を届けたい。『宣伝するなら光っていろ』という言葉を聞いたことがありますが、多くの人に自分の音楽を聴いてもらうためにも光っていようと思います」

works

最新作『Landscape in Portrait』(ビート・レコーズ)。美しいサウンドスケープによって、原独自の世界が描き出された。

7/23には京都文化博物館別館ホールにてボヴェ太郎の舞踊公演『百代の過客』に作曲、ピアノ演奏参加。

※Pen本誌より転載
音楽は開かれたものとして、 多くの人に届けたい。