風船にカメラを付けて、 遥かなる宇宙を撮影する。

Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
泊 貴洋・文
text by Takahiro Tomari

風船にカメラを付けて、
遥かなる宇宙を撮影する。

岩谷 圭介 Keisuke Iwaya
ふうせん宇宙撮影家
1986年、福島県生まれ。2011年から風船を使った宇宙撮影に挑戦。12年に上空30㎞からの撮影に成功し、脚光を浴びる。現在は企業などからの依頼や研究協力でも宇宙撮影を行う。『情熱大陸』などテレビ出演も多数。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。』(キノブックス)がある。

肩書は「ふうせん宇宙撮影家」。その名の通り、風船を宇宙に飛ばして写真や動画を撮影する、世界でもおそらくただ一人の表現者が岩谷圭介だ。「科学が好きで、機械を分解しては中身を調べるような子どもだったみたいです。憧れは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドク(ブラウン博士)。将来は、ドクのような発明家になれると信じて疑いませんでした」

北海道大学で宇宙工学を学んでいた頃、偶然、海外のニュースサイトで目にしたのが、「アメリカの大学生が、風船で宇宙を撮影した」という記事。「宇宙開発は、何千億というお金をかけて行う国家プロジェクト。学生にできるわけがないと思いました。でも、記事を見ると、ぼんやりとした宇宙が写っていて。『自分でもやってみたい!』と強く思ったんです」

100円ショップやホームセンターで材料を調達しながら、自力で風船カメラを設計・開発。何百回という実験を繰り返し、時には立ち直れないほどの失敗を重ねながらも、約1年半後、上空30㎞からの宇宙撮影に成功した。「自分の手で上げた風船が、雲を抜け、空を通過し、宇宙空間を見て帰ってくる。その一連の景色を見た時、宇宙というものが本当に空の上にあって、自分と地球、宇宙は全部つながっているんだと実感しました。その後もさまざまな改良を重ねていまに至ります」

当初、小型カメラを使っていたが、2014年には日本初となるデジタル一眼レフによる宇宙撮影に成功。さらに世界で初めてシネマカメラでの動画撮影にも成功した。目指すのは、誰が見ても美しいと思える、心を動かす写真や映像。現在、宇宙を体験できるアートの制作にも意欲を燃やす。

「エレベーターに乗ると、全面に映像が投影されるんです。エレベーターが上昇すると、雲を抜け、空を越えて、最上階で宇宙への扉が開く。たとえば、そんな仕掛けで、日常空間を宇宙につなげてみたい。頭に被るような巨大なランプ、という作品を街角に置くのも面白いかなと思います。端から見た人は、『なんで、ランプに首を突っ込んでるんだろう』と不思議に感じると思うんですけど、ランプの中には、宇宙を実感できる空間が360度広がっている。そういう装置もつくれたらいいなと、妄想しています」

すでに、プラネタリウムを使った作品も展開中。これからどんなアートを発明するのか、楽しみだ。

works

風船カメラを飛ばして撮影した地球と宇宙。低温の上空でも作動するバッテリーなど、開発途中でさまざまな発明品もつくった。Photo by Keisuke Iwaya

大きく膨らむ風船に、発泡スチロールで保護したカメラを吊り下げて放つ。30㎞まで上昇しパラシュートで帰還する。Photo by Keisuke Iwaya

※Pen本誌より転載
風船にカメラを付けて、 遥かなる宇宙を撮影する。