繊細な感性で世界に挑む、 若きスター指揮者。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    小田島久恵・文
    text by Hisae Odashima

    繊細な感性で世界に挑む、 若きスター指揮者。

    山田和樹Kazuki Yamada
    指揮者
    1979年、神奈川県生まれ。東京藝術大学音楽学部指揮科在学中、藝大有志のオケ(現在の「横浜シンフォニエッタ」)を結成。現在スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督兼芸術監督(9月~)、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者。

    海外のトップ・オーケストラを次々と振り、国際的なスター指揮者として活躍する山田和樹。「ヤマカズ」の愛称で日本のクラシック・ファンからの人気も高い。現在37歳。90代の現役指揮者も珍しくないこの世界では、かなり若い世代に属する。「音楽は生ものですから、リハーサルと同じことを本番でやってもうまくいかないことはありますし、0.1秒ごとに取捨選択を迫られるようなところがあります。国によっては4時間前にリハーサルが始まってすぐに本番、なんてこともありますし。オーケストラは集団ですから、全員が敵に回った時がいちばん辛いですね。指揮者として受け入れられるかどうかは、リハの最初の30分間で決まってしまうんです」

    2009年に、若手指揮者の登竜門ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。その後まもなく、ヨーロッパでの華やかなキャリアがスタートする。苦労知らずの天才タイプにも見えるが、下積み時代は長かったという。「20代の頃は、アマチュア・オケを100団体くらい振っていました。その頃にビールの注ぎ方も覚えたんです(笑)。アマチュアと世界の超一流オケには共通点があって、譜面が読めない人もいるオケと、全員が譜面を理解しているオケは、どちらも指揮者に『目に見えないものを見る目』を求めてきます。拍を指揮したり音楽用語を説明したりではなく、音楽をどう表現するか?がいちばん重要になるんですね」 

    正指揮者を務める日本フィルハーモニー交響楽団とは、30代の若さでマーラー全曲演奏会を敢行。全9曲のうち6番まで演奏した。「9番を終えて達成した時に、お互いに見えてくる真実があると思っています。日本フィルとは、第1000回の定期演奏会を指揮したいと公言しています。69歳になる計算です(笑)」 

    ヨーロッパと日本を行き来する多忙な日々が続く。西洋をルーツにもつクラシックというジャンルで、日本人が生き残る秘訣は何なのだろう?「(西洋人に)絶対にかなわないのは体力。でも繊細な感覚をもつ日本人だからできるクラシックを、21世紀はどんどんやっていく時代になると思う。世界でいちばんおいしい料理をつくるのは日本人ですし、日本人の感性をもってすれば、本場を凌ぐ音楽表現は可能だと思います」

    works

    3年間で9曲の交響曲全曲を演奏する「マーラー・ツィクルス」(Bunkamura主催)は、正指揮者を務める日本フィルとの挑戦。©Atsushi Yamaguchi

    柴田南雄生誕100年・没後20年記念演奏会を、11/7サントリーホールで自ら企画。写真は東京混声合唱団との「追分節考」。

    ※Pen本誌より転載