プールでしか撮れない、
特別な一枚を追求する。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    泊 貴洋 ・文
    text by Takahiro Tomari

    プールでしか撮れない、
    特別な一枚を追求する。

    西川隼矢Junya Nishikawa
    フォトグラファー
    1982年、香川県生まれ。国立鹿屋体育大学卒業後、水泳インストラクターやSEを経て、水中フォトグラファーに。2017年はAPAアワード広告作品部門優秀賞と写真作品部門奨励賞をW受賞。プールスタジオ「TOKYO POOL LABO」は時間貸しも可能。

    http://tokyopoollabo.com/

    あなたにとって、プールとは? そう質問し、「アート空間」と答える人は、彼くらいだろう。「プール専門」の水中フォトグラファー・西川隼矢だ。

    「小学生の頃から競泳を始めて、夢はオリンピック選手。大学の頃にはアテネ五輪の日本代表選考会に出場して、22位に入ったこともありました」

    大学卒業後は水泳インストラクターになったが、体調を崩し退職。IT業界に転職して始めたのが、写真だった。

    「プールに通って親友のスイマーを撮影していたら、『水中をのぞける小窓があるよ』と。撮った時はただの青白い写真に見えたんですけど、パソコンでレタッチをすると、綺麗なファンタジーの世界が現れて、驚きました」

    すぐに機材を購入し、自らプールに潜って水中撮影を開始。写真をSNSにアップすると、「私も撮ってほしい」「ウチの子も」と依頼が相次いだ。

    「もともとプールが好きで、被写体に喜んでもらえるのも嬉しかった。プールを専門にしたのは、キツイ、オシャレじゃない、というプールのイメージを写真の力で変えられるんじゃないかと思ったから。水中カメラマンは海で撮影する人がほとんど。新参者が海に行っても勝ち目がないとも思っていました」

    海では撮れないアーティスティックな写真が撮れることも、プールの魅力。たとえば海中は自然光が中心だが、プールなら、プールサイドから多灯ライティングが可能。また、布を垂らして背景の色を変えたり、水面を鏡のように使い、幻想的な写真を撮ることもできる。一方で、持ち込めるものが制限されたり、メイクや着衣がNGといったデメリットがあったが、昨年、自身のプールスタジオをもって解消した。

    「私はよく『これを沈めてみたらどうだろう』『これを浮かべてみたら?』と考えるんですが、自分のプールなら、なんでも沈められる。水に色を付けることもできるので、誰にも撮れない、私だけの水中写真を追求できると思っています。目標は、オリンピックのポスターと、生のオリンピックを撮ること。水中からスイマーを撮って、カッコイイ写真に残したい。最終的には、『水中ポートレートといえば、西川』というポジションに行きたいですね」

    昨年は、北島康介を撮影した「水中ポートレート」で日本広告写真家協会主催の「APAアワード」で2冠の快挙に輝いた西川。今日も水面下の「アート空間」で、新たな写真への扉を、探し続けている。

    works

    北島康介の水中ポートレートの一枚。水中で「あ・うん」と声を出してもらい、気迫や音を視覚化した。
    photo by Junya Nishigawa

    「スイマーがいちばん格好良く見える」というお気に入りのアングル。選手だったからこそ知っている「西川アングル」だ。photo by Junya Nishigawa

    ※Pen本誌より転載