吸収力と焦燥感が、 圧倒的な作品を生む。

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アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
小川知子・文
text by Tomoko Ogawa

吸収力と焦燥感が、 圧倒的な作品を生む。

松居大悟 Daigo Matsui
映画監督/劇作家/俳優
1985年、福岡県生まれ。劇団「ゴジゲン」主宰、全作品の作・演出・出演を担う。2009年、NHK『ふたつのスピカ』で同局最年少ドラマ脚本家デビュー。12年に『アフロ田中』で長編映画初監督。その後も、映画『ワンダフルワールドエンド』『私たちのハァハァ』などを発表。

意外にも、デブで天パといじめられた小学時代、引きこもりで漫画家を目指していた中学時代、芸人を目指した高校時代、とコンプレックスにまみれた青春時代を過ごしていた松居大悟。大学のサークルで演劇世界にどっぷり浸かり、当時は番組に自ら企画書を売り込んだり、劇団「ヨーロッパ企画」の公演を手伝ったりしていたという。

「やってはいたんですけど、その姿は全然アクティブじゃなくて。たとえば、プロデューサーに企画をメールした後も、『あ〜、送信押しちゃった……』みたいな。でも1、2本出すのも中途半端だから、一度で伝わるように10本書いて送る。ペコペコしながら図々しくいくような学生でした」 

やがて、主宰する劇団「ゴジゲン」が2000人以上を動員し、あれよあれよという間に映画監督デビューした彼の7作目となる映画が、山内マリコ原作の『アズミ・ハルコは行方不明』だ。

「山内さんのデビュー作『ここは退屈迎えに来て』が、ものすごい衝撃で。僕は、福岡の街なかの家から山奥の学校に1時間半かけて通っていたので、なんであの頃の景色を知ってるんだ!とすごく共感したんです。それから玄関に常備して、地方出身の友達に配ってました。誰のためでもなく、山内さんと知り合いでもないのに(笑)」 

本作は、独身OL・安曇春子の失踪を軸に、異なる世代の女性たちの葛藤と解放を描き出す。現場でも、よりたくましいのは女性たちだったという。

「プロデューサーも脚本家も原作者も主演も女性という中で、僕がこれまで何度もやってきた女性を描くということを、今回はもっと肩まで浸かってできたら面白いのではと。結果、現場では、意見を言ってくれる強い女性たちにコテンパンにされました。脳みそがバーストしかけて、どうやってつくったのか、もう思い出せない(笑)」 

彼の武器は、人の声に耳を傾ける「吸収力」にある。そこに焦燥感というアクセルを加えることで、自身の想像をも超えるオリジナル作品へと昇華していく。また、映画、MV、舞台のつくり手、役者としても活躍する松居は、「マルチと呼ばれるのはちょっと嫌です」と苦笑い。

「どれかひとつを無心に愛しすぎていないから柔軟でいられる反面、どこにいても共通言語がなくて寂しい!というのが弱みというか、最近の悩みですね」

works

2016年12月に公開された『アズミ・ハルコは行方不明』。出演:蒼井優、高畑充希ほか。配給:ファントム・フィルム©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

舞台『イヌの日』は、2000年に阿佐ヶ谷スパイダースが初演した長塚圭史の作品。2016年8月に松居大悟演出・出演で再演された。

※Pen本誌より転載
吸収力と焦燥感が、 圧倒的な作品を生む。