歴史的建築空間に、ボルタンスキーが仕かける“亡霊たちのざわめき”を感じ取る。

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    《アニミタス》(小さな魂)、2014年 Photo: Angelika Markul Courtesy the artist and Marian Goodman Gallery
    地球上で最も乾燥しているチリの砂漠にかすかな音色を奏でる無数の風鈴(日本製)は、いつかは消滅することを前提に設置された「歌う魂」たち。今回13時間を超えるビデオで時を映す空間として再現されています。

    フランスの現代アーティスト、クリスチャン・ボルタンスキー。彼は初期から現在まで、⼀貫して歴史に積まれていく記憶や、喪われたものへのまなざしをテーマに制作を続けています。近年は、直島や越後のトリエンナーレにも出品しています。彼の東京での初の個展が、目⿊の東京庭園美術館で開催中。国内美術館での個展はおよそ26年ぶりと、新作を含む、6点のインスタレーション作品が展示されています。

    ユダヤ系フランス⼈の出⾃を持つボルタンスキーの作品は、⾃⾝の幼年時代の再構築から始まりました。それは近代戦争による⼤量の無名の死、そして⼈類最⼤の犯罪と⾔われるホロコーストも想起させます。写真や⾐服、電球など、⽇常に目にするささやかな素材を使い、⽣と死に向かい合う契機を与えるインスタレーション。ひそやかに、哀しげに、そして⼩さな希望とあたたかさを持った空間は、観るものを包んで感情を揺さぶり、世界の新たな認識のあり⽅を提⽰します。

    展覧会のテーマは「アニミタス―さざめく亡霊たち」。
    「アニミタス」とはスペイン語で「⼩さな魂」を意味し、その語源は「霊魂」とともに「⽣命」も表すそうです。

    会場は、本館と新館にわかれており、本館1階の各部屋にはどこかにスピーカーが設置され、そこからさまざまな⼈のつぶやきが聞こえてきます。脈絡のない⼩さな「ことば」の断⽚は、いろんな物語を紡ぎだし、部屋そのものが別空間として⽴ち上がってきます。また、本館2階には、影絵が浮かび上がります。声ならぬ声は、そのシンプルさゆえにさまざまな「死」の物語を思わせます。

    新館の見どころは、《帰郷》・《まなざし》
    さまざまな人の眼がプリントされた何枚もの薄紗のカーテンと処々にともされる電球の迷路。わたしたちは観ていると同時に彼らに見られている気持になります。中央の巨大な黄金の山《帰郷》は、エマージェンシー・ブランケットに覆われた大量の古着。生と死を等分に、冷静に見つめるボルタンスキーの意識に満ちた空間です。

    ⾒慣れたはずの場所が異なるものとして現れ、そこに在る「何か」のざわめきを全⾝で感じられる、ボルタンスキーが仕かける劇場空間。ぜひ⾜を運んでみてください。(坂本裕⼦)

    同時開催の「アール・デコの花弁」展で、修復・復刻された調度品が各部屋に置かれ、いつもよりも当時の面影を強くしている空間にポツポツと響く声...

    《影の劇場》1984年 Photo:André Morain Courtesy the artist and Marian Goodman Gallery 会場では2カ所に分けて設置される影絵の空間。

    《まなざし》 ぼんやりとした誰ともわからない人々の眼差しの中、さまようわたしたちもまた、亡霊のような存在となっているのかもしれません。

    《ささやきの森》 今年香川県豊島の山中に設置された数百の風鈴が、木漏れ日と風に揺れて密やかな音を立てている風景。《アニミタス》とは対照的にみずみずしい空気に満ちています。

    「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス_さざめく亡霊たち」
    「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」
     ※同時開催

    開催期間:~12月25日(日)
    開催場所:東京都庭園美術館 
    東京都港区白金台5-21-9
    開館時間:10時~18時(11/25、26、27は20時まで/最終入場は閉館の30分前まで) 
    休館日:第2第4水曜日 ※祝日の場合は開館、翌日休館
    料金:一般¥900
    TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)

    http://www.teien-art-museum.ne.jp/