二人の巨頭が案内する、絵本の世界 「高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ/ 奈良美智がつくる茂田井武展 夢の旅人」

  • 文:内山さつき

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いわさきちひろ 小犬と雨の日の子どもたち 1967年(会場では、この絵は約6倍の大きさ:H1979×W2025㎜で高精細に拡大して展示されています)

日本が世界に誇る数々のアニメーション作品を作り上げてきた高畑勲。そんな高畑氏が、自身の作品を創作する上でインスピレーションを受けてきた画家の一人、いわさきちひろの世界を案内する展覧会が開催されます。

画家・いわさきちひろは1918年に生まれ、74年に55歳で亡くなるまで、子どもを生涯のテーマとして描き続けました。その観察眼と高いデッサン力によって、ときにはやわらかく繊細に、ときには力強く描かれた94,000点を超える作品は、自らも母として子育てをする中で生まれました。

1988年に公開されたアニメーション映画『火垂るの墓』を制作するにあたり、高畑氏は戦争を知らない若いスタッフに、ちひろがベトナム戦争のさなかに描き上げた絵本『戦火のなかの子どもたち』を見せ、想像力を高めてもらったといいます。「僕は、この絵本をはじめて見たとき、描かれた子どもたちが、まさにあのときの自分だ、姉だ、と思わずにはいられなかった」

「ちひろさんは、子どもがしっかりと内面をもって懸命に生きている自立した存在であることを私たちに気づかせ、見事に子どもの『尊厳』をとらえた稀有な画家です」

多大な影響を受けたいわさきちひろの作品世界を、高畑氏自身の視点を通して体感することのできる貴重な展覧会です。

また、同時開催となるのが、絵画や彫刻など幅広い表現で現代アートを牽引する奈良美智氏がつくる、「茂田井武展 夢の旅人」。茂田井武は、戦後日本で活躍した童画家の一人で、48歳で早逝するまで、『セロ弾きのゴーシュ』をはじめとする数々の子どもの本の作品を手がけました。現在も多くの画家たちに影響を与え続ける茂田井作品の中から、奈良氏が今も「新しい」と感じるものを選んで、展覧会が構成されています。

「茂田井さんの絵をみると/おじいさんの子どものころの写真をひきだしから見つけたような/忘れかけていた宝物に出会ったような感じになる」

21歳の若い時代、鞄一つでパリやジュネーブなど欧州放浪の旅に出た茂田井武は、滞在先で印象に残った光景を日々画帳に描きとめていました。そうした異国の豊かなイメージの断片や、夢の中から生まれた絵物語、戦時中の絵日記など、作家の内面を描き出した作品は、奈良氏の視点から読み解くことでまた新たな魅力をまとうことでしょう。

第一線で活躍してきた表現者二人が敬愛する、20世紀の日本を生きた二人の画家。改めてその魅力に触れられる、またとない機会です。

いわさきちひろ 焼け跡の姉弟 『戦火のなかの子どもたち』(岩崎書店)より 1973年
映画「火垂るの墓」の制作にあたって、高畑氏が大きな影響を受けた作品。この絵本で描かれた姉弟は、岡山空襲の焼け跡にたたずんでいた高畑氏自身と姉を思い出させたといいます。

茂田井武 クマ、ジープ、デンシャ、ハネ 1949年
茂田井武は、異国で出会ったワンシーンや子どもの頃の記憶、夢の中の光景などを描き続けました。

茂田井武 『セロ弾きのゴーシュ』(福音館書店)より 1956年
子どもの頃に親しんだ人も多い宮沢賢治の童話『セロ弾きのゴーシュ』は、茂田井の最晩年の傑作。

「高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ/

奈良美智がつくる茂田井武展 夢の旅人」


開催期間:5月19日(金)~8月20日(日)
開催場所:ちひろ美術館・東京
開催時間:10時~17時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(祝休日は開館、翌平日休館 ※8月1日〜20日は無休)

入場料:一般¥800
http://www.chihiro.jp/tokyo/