銀座メゾンエルメス「シャルロット・デュマ」展で紡がれる、馬と人間を巡る...

銀座メゾンエルメス「シャルロット・デュマ」展で紡がれる、馬と人間を巡る静かな時間。

文:はろるど

テキスタイルデザイナーのキッタユウコとのコラボレーション。青色に染め上げられた36枚のオーガニックコットンが美しくなびき、与那国島の澄んだ海を想像させる。© Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

シャルロット・デュマ(1977年、オランダ生まれ)は、アムステルダムを拠点とするアーティストだ。幼い頃から乗馬に親しんでいた彼女は、社会における動物と人間の関係性をテーマに、約20年にわたり犬や馬などの動物のポートレイトを発表してきた。2014年からは日本を訪問し、いずれも固有の在来馬が生息する北海道、長野、そして沖縄の与那国島など8カ所で撮影を続けている。

銀座メゾンエルメス フォーラムで開催中の『ベゾアール(結石)シャルロット・デュマ展』では、デュマが日本とオランダを行き来し、在来馬を取材して制作した作品を展示。各地の馬を被写体にした写真や映像だけでなく、埴輪や木馬、それに腹帯といった馬にまつわる資料を見ることができる。

『ベゾアール(bezoar)』とは、動物の胃の中に形成される結石を意味する。そもそも馬はあまり水を飲まないために大きな結石がつくられやすく、最大でサッカーボールほどのサイズに膨れ上がってしまう。現代では獣医師による手術で取り除くことも可能だが、かつてのヨーロッパでは解毒の効果があるとされ、砕いて飲むと薬になるとして重宝されていた。パリの博物館で結石を目にしたデュマは、動物の腹の中にあるにも関わらず宇宙からやって来た惑星のように見えたとして、馬の一生についての考察を巡らせたという。

与那国島を舞台としたふたつの映像にも印象的だ。ひとつは沖縄生まれの少女、ゆずと愛馬うららを題材とした『潮』。島の波の際でゆずがうららに乗る姿は互いの息が合っていて、人と馬の親密なつながりが伝わる。ふたつ目の『依代』は、デュマの娘アイヴィがオランダからひとりで与那国島へと旅するロード・ムービーだ。ともに少女を主人公とした『潮』と『依代』は対のような関係にあるが、元々デュマは短編三部作として構想しており、三作目も待たれる。

テキスタイルデザイナーや建築家と協働したインスタレーションや、大胆な空間構成も目を見張る。自然の貴石のように白い光を放ち、ため息が漏れるほどにまばゆい『ベゾアール』は、同時に馬を死に追いやる恐ろしい存在でもある。人間との関わりを紐解きつつ、馬の生死を詩のように紡いだデュマの作品世界を追っていくと、生命の儚さと神秘がひしひしと感じられる。

馬の頭蓋骨とともに並ぶのが、大小さまざまな結石『ベゾアール』だ。フランスでは18世紀頃まで薬として水に浸して飲んだり、粉末にして解毒剤の精製に使用する習慣があった。© Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

藁で編んだ馬沓(うまぐつ)や腹帯など、人間と馬の関係を表す用具が展示されている。防波堤のような円弧状のベンチを活用した空間デザインは、建築家の小林恵吾と植村遥が担当した。photo: Harold

忍ヶ丘駅前遺跡(大阪府四條畷市)から見つかった『子馬形埴輪』。古墳時代中期の集落跡からほぼ完全な形で出土された。四條畷(しじょうなわて)は日本で最初に馬を連れた渡来人が住んだ場所とされている。まるで子犬のようにずんぐりとした形が可愛らしい。photo: Harold

シャルロット・デュマ『依代』2020年 これまで馬と出会ったことのなかったデュマの5歳の娘アイヴィが、馬の衣装を身に纏い、オランダから東京、京都、そして与那国島までを旅していく。長い旅を終え、島で自生する馬と出合うラストシーンは静かな感動を呼ぶ。photo: Harold

『ベゾアール(結石)』シャルロット・デュマ展

開催期間:2020年8月27日(木)~12月29日(火)
開催場所:銀座メゾンエルメス フォーラム
東京都中央区銀座5-4-1 8・9階
TEL:03-3569-3300
開館時間:11時~20時(日曜は19時まで)※入場は閉館の30分前まで
会期中無休
入場無料
※会期は延長の可能性あり。詳細は公式ウェブサイトにて要確認
※銀座店内混雑緩和のため、ソニー通り側のエレベーターより入館
※マスク着用や入館前の検温、手指消毒液の設置を行うなど、新型コロナ感染拡大防止のための対策を実施
https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/200827/

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