ベトナム戦争、民主化運動……1960年代から激動の30年に焦点を当てたアジア現代美術展。

  • 文:はろるど

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ワサン・シッティケート『私の頭の上のブーツ』1993年、作家蔵。軍人用のブーツを頭に載せたシッティケート本人が、バンコクの街を散策する様子が映されています。1960年代以降、アジアの現代美術家は、美術館やギャラリーを飛び出し路上などの公共空間で創作活動を行いました。撮影:マニット・スリワニチプーン

第2次世界大戦後、ベトナム戦争や民族間の対立、民主化運動など、波乱に満ちていたアジア。この激動の時代、アートはどうだったのか?  東京国立近代美術館で始まった『アジアにめざめたら』展は、1960年代から90年代まで、激動の30年に焦点を当ててアジアの美術を過去最大のスケールで紹介する意欲的な展覧会です。

1960年代がアジアの現代美術の黎明期。従来の美術の概念が問い直されます。韓国のイ・ガンソ(李康昭)は『消滅―ギャラリー内の酒場』(1973年)で、ホワイト・キューブに酒場を設置し賑わいを表しました。「もの派」のリ・ウーファン(李禹煥)の、綿に包まれた巨大な『関係項』(1969/1988年)にも目を奪われます。さらにアートは公共空間へ。中国の林一林(リン・イーリン)は、道路にブロックの壁を積み上げて渡るパフォーマンスを行い、都市と人間の関係を再考します。絵画、彫刻、写真、パフォーマンス、映像と、ジャンルを問わずに並ぶ光景は、もはやカオス。「これは一体、なんだろう?」と、思わず立ち止まってしまう作品も少なくありません。

展覧会は日本、韓国、シンガポールの各国立美術館と、国際交流基金アジアセンターによる5年間の共同プログラムの集大成。東京で開幕した後、韓国とシンガポールにも巡回します。
10以上の国と地域から集まった作品は全142点。矛盾を抱えた社会と向き合い、ときに体制を批判し、変革しようとしたアジアの現代美術家たちは挑戦的で、なによりも熱意があります。この展示の主要テーマは、「美術」「都市」「連帯」。国の枠組みを取り払い、アジアを丸のみするかのような熱気が漂う展覧会です。会場内に作品の詳しい解説はなし。入口横にあるリーフレットをお取り忘れなく!

ナリニ・マラニ『ユートピア』1969/1976年、作家蔵。2面の映像プロジェクション。都市を理想化した抽象パターンと、窓から外を見下ろす女性。近代化の進む都市における社会矛盾を表しました。Courtesy of the Artist and Vadehra Art Gallery

パブロ・バエン・サントス『マニフェスト』1985~87年、ナショナル・ギャラリー・シンガポール蔵。作家は「連帯」を意味する芸術家集団「カイサハン」の中心的な人物。メキシコの壁画運動の影響も受け、マルコス政権を打倒した「ピープル・パワー」を躍動感のある構図で描きました。「カイサハン」は社会体制の矛盾をリアリズム絵画で提示するべく1976年にマニラで結成。

FXハルソノ『くつろいだ鎖』1975/1995年、ナショナル・ギャラリー・シンガポール蔵。FXハルソノはインドネシアで1975年に誕生した「ニュー・アート・ムーブメント」の作家のひとり。日常的な素材で新たな表現を試みました。

『アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる 1960-1990年代』

開催期間:2018年10月10日(水)~2018年12月24日(月、休)
開催場所:東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~17時(金曜・土曜は20時まで)※入館は閉館30分前まで
休館日:月(12/24は開館)
入場料:一般¥1,200(税込)
www.momat.go.jp