子どものころに誰もが読んだ、ロングセラー絵本、『ちいさいおうち』が伝えるメッセージとは?

  • 文:内山さつき

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『ちいさいおうち』のダミーブック(試作絵本)。バートンは、絵本制作にあたって何度も試行錯誤を繰り返し、構図やデザインなどを検討しました。

青い表紙とひなぎくの花に囲まれた赤い小さなおうち。幼いころに手に取った方も多いでしょう。絵本『ちいさいおうち』は、アメリカの美しい田園風景の中で幸福そうにたたずむ小さな家が、次第に開発の波に呑まれ、超高層ビルの谷間に取り残されてしまう姿を描いたロングセラーの絵本です。大都市で廃墟同然となってしまった「おうち」は、元の持ち主の「孫の孫のそのまた孫」に見出され、静かな田舎に移築されることになって再び穏やかな幸せを取り戻します。20世紀に急速におこった都市化と工業化を物語の中で見事に描き切ったこの作品は、社会学や建築学など、子どもの本の分野以外でも高く評価されてきました。

作者のヴァージニア・リー・バートンは、1909年にアメリカのマサチューセッツ州に生まれた画家。二人の子どもを育てながら、『ちいさいおうち』のほか『せいめいのれきし』や『マイク・マリガンとスチームショベル』などの絵本を手がけました。絵本作家としてだけでなく、テキスタイルやグラフィックデザインにも才能を発揮し、近所の主婦たちを率いて立ち上げたクラフトのデザイン集団「フォリーコーブ・デザイナーズ」は、アメリカの老舗デパートがそのデザインを買い上げるまでに成長しました。機械を用いて大量生産される製品が氾濫していくなか、バートンが生涯大切にしつづけたのは、日常生活で感じる自然の豊かさや、強い意志と鍛錬をもってなされた手仕事の美しさでした。

絵本『ちいさいおうち』の原画をはじめ、フォリーコーブ・デザイナーズのためのテキスタイル、絵本やデザインのアイディアスケッチなど日本初公開となる貴重な資料が集う今回の展覧会。時代を超えてなお生き続けるメッセージを発信しつづけたアーティスト、ヴァージニア・リー・バートンに焦点を当てた見逃せない内容です。

アトリエでのバートン。マサチューセッツ州・ボストン郊外の美しい村で暮らしたバートン。朝は暗いうちからアトリエに入り、主婦としての仕事もこなしながら、絵本やデザインの仕事を続けました。

フォリーコーブ・デザイナーズのディプロマ(卒業証書)。バートンがデザインを教えた「フォリーコーブ・デザイナーズ」では、質の高いデザインを作ることができるようになると、商品を売ることができました。一人前になった証に渡されたディプロマには、デザインを考案し、テキスタイルを完成させるまでの過程が描かれています。

テキスタイル『Little House』。絵本『ちいさいおうち』に出てくる「おうち」がデザインされたテキスタイル。図案はリノリウム板に描かれ、プレス機で押して布に転写されています。

ヴァージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』
――時代を超えて生き続けるメッセージ――

開催期間:6月1日(木)〜8月9日(水)
開催場所:ギャラリーエークワッド
開催時間:10時~18時(最終日は17時まで)
休館日:日曜・祝日
入場料:無料

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