作品を読み解きながらアートと街を冒険しよう! 世界水準の芸術表現に出合う「岡山芸術交流」。

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    岡山駅に掲げられた、リアム・ギリックによる「ビジュアルメッセージ」。作家名の最後にYouとあります。

    ギリックが「観客へのプレゼントのようなもの」と語る、不思議なミニゴルフが楽しめる作品『開発』。

    荒木悠『利未記異聞』。学校の一室を舞台に、虚実入り交じるインスタレーションと映像作品を展開します。

    日本各地で芸術祭が乱立するなか、はたしてどれを見に行くべきなのか……そんな悩みを抱える人にこそおすすめしたいのが、現在開催中の国際展「岡山芸術交流」です。

    本展のアーティスティックディレクターを務めるのは英国の現代美術作家、リアム・ギリック。90年代に注目を集めた「YBA(Young British Artists)」草創期のアーティストであり、作品制作の過程で構築されるさまざまな関係性に重点を置く「リレーショナル・アート」の代表的な作家として知られています。社会的な考察をもとに作品を展開するギリックは、彼らしい国内外30組のアーティストを選定。岡山城周辺の小さなエリアで濃密な作品展示を行っています。展覧会のテーマは「開発 Development」。意味合いとしては「展開」「発展」「発達」と捉えてもよいかもしれません。

    本展の作品を鑑賞していくと、作家たちの多くが作中に「誤読」や「境界」といった表現を潜り込ませているように感じます。作中で描かれる内容ははたして真実なのか、フェイクなのか。判断の揺らぎが鑑賞者を刺激します。たとえば、岡山名物「下津井のタコ」をモチーフにした荒木悠(過去のインタビューはこちら)の作品『利未(レビ)記異聞』は、キリスト教伝来の時代にさかのぼり、宣教師とともにやってきた悪魔をタコに見立てて物語を展開します。

    固定概念を揺るがす、力強い現代アートの数々。

    サイモン・フジワラによる『ジョアンヌ』。ビルボード広告のような写真と映像で構成されます。

    下道基行による新作『14歳と世界と境 岡山』より。社会の構築とともに、境界が生まれることを示唆します。

    荒木がフィクションであることをほのめかすのに対し、完成度の高さから事の真偽がまったくわからないのがサイモン・フジワラの『ジョアンヌ』です。ファッション広告のような写真と、とある事件によって仕事を失ったジョアンヌなる美術教師が再起にかける思いを描くドキュメンタリー調の映像。フジワラ自身の美術教師であった彼女の身に起こった出来事をモチーフにしているといいますが……。フィクションとノンフィクション、メディアと個人、そしてそれに傷つきながらも再びソーシャルメディアを利用する振る舞いなど、幾重にも社会的な問いかけを織り込みます。

    もうひとつの重要な表現が「境界」。地元・岡山出身の作家、下道基行は、代表作『torii』とともに、新作『14 Years Old & The World & Borders, Okayama』を発表しています。14歳の中学生たちが「自分が境界と感じるもの」を作文を書き、そのテキストを作品化。これらの作文は地元紙でも連載されています。将来の夢や学校のルールなど、子どもたちの日常に引かれた境界線が作品によって顕在化しますが、鑑賞者がそこに見出すのは普遍性なのでしょうか、それとも違和感なのでしょうか。

    岡山市立オリエント美術館は、ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイスやジョーン・ジョナスらを展示。

    地元の養蜂場が協力したという、ピエール・ユイグの『未耕作地』。ガラス越しでの鑑賞です。

    昨年、フリーズ・アーティスト・アワードも受賞したレイチェル・ローズの『すべてそしてそれ以上』。

    また建築好きには、その会場も見逃せません。岡山県庁舎、岡山県立天神山文化プラザ、そして林原美術館は、前川國男の設計によるもの。コルビュジエの影響を色濃く感じる空間や、独自の表現を模索する姿などを感じることができます。また、岡田新一による岡山市立オリエント美術館も細部まで行き届いた美しさに息をのむことでしょう。

    前川の設計による林原美術館の庭に横たわる裸婦像が、「人工物と自然の境界の揺らぎ」をコンセプトにしたピエール・ユイグの『未耕作地』。ミツバチが巨大な巣をつくる頭部はまるで肥大化した脳みそのようで、不安と違和感を与えます。ユイグは来年1月まで、エスパス ルイ・ヴィトン東京でも個展を開催中。あわせて観るとより理解が深まることでしょう。一方、記録と考察による映像作品を発表するアメリカの現代作家がレイチェル・ローズ。86年生まれの彼女は、昨年ホイットニー美術館の移転オープン時に初の個展を開催した注目すべき新世代の作家です。本展では、セルアニメーションとコマ撮りアニメーションを融合させ、さまざまな絵本のイメージをモンタージュしたような新作『レイクヴァレー』を発表しています。

    ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス『よりよく働くために』

    左から、マイケル・クレイグ=マーティン『信号所』、リアム・ギリック『Faceted Development』

    ジョルジュ・ヴァントンゲルローの彫刻をもとにした、ライアン・ガンダーの『編集は高くつくので』。

    建設現場の仮囲いのような空間を組み、鏡貼りの茶室をグリッド内に設けたリクリット・ティラヴァーニャ。

    青木淳によるパビリオンでは、今後整備されるプロジェクト「A&A」の概要を発表。

    ジャン・プルーヴェが1952年に手掛けた移動式教室建築「Dieulouardの学校」の1室も展示されています。

    さて、街中を散策してみましょう。すべての会場は徒歩で移動ができる距離感で、その道すがらにも見逃せないアート作品が展開されています。ホテルの壁面に巨大な電球のグラフィックを描いたマイケル・クレイグ=マーティンは、ディレクターであるギリックの師にあたる存在。それに隣接する採光塔には、ギリックの『Faceted Development』が施され、いままで街のひとたちが気にも留めなかった建造物に光があたったと言います。アート作品のほかにも、メイン会場の旧後楽館天神校舎跡地ではジャン・プルーヴェの学校建築が、市内には青木淳によるパヴィリオンや学生が参加した仮設建築物なども並びます。会場を移動しながら、そこに広がる景色に飽きることはありません。

    ここにある作品の多くは、インスタグラムにアップして多数の「いいね」が得られるわかりやすさはなく、エンターテイメント性の高い快楽も提示していません。ただ、どの作品にも通じる「違和感」や「気づき」が、私たちの価値観や社会性に揺さぶりをかけてくれます。アートのもつ力強さを体感させる、実に刺激的な国際展なのです。(文・写真:Pen編集部)

    岡山芸術交流 2016

    旧後楽館天神校舎跡地 岡山県天神山文化プラザ 岡山市立オリエント美術館 旧福岡醤油建物 シネマ・クレール丸の内 林原美術館 岡山城 岡山県庁前広場 岡山市内各所

    開催期間:~11月27日(日)
    開催時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
    ※ただしシネマ・クレール 丸の内会場は12時15分~13時45分の1日1回上映
    休催日:月曜日
    入場料:一般1,800円
    www.okayamaartsummit.jp