遅咲きの作家、その絶大な影響力。

  • 文:赤坂英人

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『TOPコレクション アジェのインスピレーション ひきつがれる精神』

東京都写真美術館

遅咲きの作家、その絶大な影響力。

赤坂英人美術評論家

ウジェーヌ・アジェ『日食の間』1912年。アジェがその後の写真表現にどのような影響を与えたか、彼とアジェ以降の写真家たちの作品から探る。

森山大道『ポスター(中野)』「東京」より。1968~80年。

ウォーカー・エヴァンズ『写真家のウィンドウディスプレイ』1936年。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、変貌するパリの風景を約8000枚の写真に収めた写真家ウジェーヌ・アジェ。彼は「近代写真の父」と言われ、20世紀のシュルレアリストをはじめ、現代の写真家にもインスピレーションを与え続けている。いったいなぜなのか。その謎に迫る展覧会が、東京都写真美術館で開かれている。 

アジェは1857年、フランスのボルドー近郊の町リブルヌで生まれた。幼年時に孤児となり、叔父に引き取られパリで育つ。神学校を中退して船乗りとして世界を旅した後、パリに戻り役者を目指すが挫折。画家になろうとしたが芽が出なかった。しかし、41歳のこの時期に写真を撮り始めた。モンパルナスのアパートに「芸術家の資料」という看板を出して。アジェは旧式の大型カメラで、近代化の中で消えていくパリの街とその周辺の風景をストレートに撮影した。 

その後の1925年に偶然、近所に住んでいた写真家のマン・レイがアジェの写真に注目。翌年、彼の作品を『シュルレアリスム革命』誌に掲載すると、アジェの写真は一躍、賞賛の的となった。だが27年、アジェは不遇のうちにパリで没した。 

その後、マン・レイの助手だったベレニス・アボットがニューヨークのギャラリストのジュリアン・レヴィの助けを借りて、アジェの写真を買い取り、散逸を防ぎ、研究を進めた。彼をモダン・フォトグラフィーの先駆者と位置づけたのである。 

アジェはいったいなにを考えていたのか。自分を無にして、ひたすら記録に徹したのか。それともなにかを写そうとしたのか。謎は解けてはいない。 

アジェの写真を考える時、僕はよく森山大道のエッセイ集の題名を思い出す。『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』だ。謎を解くヒントがそこにありそうで。

『TOPコレクション アジェのインスピレーション ひきつがれる精神』

開催期間:~2018年1月28日(日) 
東京都写真美術館 
TEL:03-3280-0099 
開館時間:10時~18時(木曜・金曜は20時まで。2018年1月2日~3日は11時から)
※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(2018年1月8日は開館)、12月29日~2018年1月1日、1月9日 
入館料:一般¥600 
www.topmuseum.jp