石岡瑛子のレトロスペクティブで、果敢に挑んだ“感情のデザイン”に圧倒される。

  • 文・川上典李子(エディター/ジャーナリスト)

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映画『ドラキュラ』(フランシス・F・コッポラ監督、1992年)衣装デザイン。ドラキュラが飛び回るとガウンの7mのトレーンが風を孕んで波打ち、血の海にも見える。 ©David Seidner / International Center of Photography

【Penが選んだ、今月のアート】

石岡瑛子が資生堂宣伝部での活躍を経て自身のデザインスタジオを設けたのは、1970年。服を着る人のありようそのものに目を向け、「裸を見るな、裸になれ」とのコピーとともに女性の裸を示したパルコの広告キャンペーンをはじめ、鮮烈なメッセージのアート・ディレクションで注目を集めた。

ショーのアート・ディレクションも手がけ、グレイス・ジョーンズも登場したイッセイミヤケのショーも歴史に残る出来事だ。既存の概念から解放された女性像を描き、民族、文化の違いを超えて新しい時代を示した作品の数々。果敢に社会を変革した表現は、時を超えていまの私たちも刺激する。

80年にニューヨークに拠点を移した後には、マイルス・デイヴィスの『TUTU』のアートワークでグラミー賞を受賞。映画監督から直に声がかかり、フランシス・F・コッポラ監督の『ドラキュラ』の衣装デザインではアカデミー賞に輝いた。サーカスの衣装も手がけ、北京オリンピック開会式での衣装デザインも記憶に新しい。

未知の視覚領域に挑んだ石岡。この回顧展では、「瞬発力と集中力と持続力を身につけて、知性と品性と感性を磨く。磨いて、磨いて、磨き続ける」との考えをもち続けた人物の、人生そのもののパワーをも感じるだろう。

国や性別を超え、妥協知らずの人々との創造的なスクラムを組みながら、刺激的な仕事を展開していったことも石岡の特筆すべき点だ。映画を例とする巨大な産業の中で個の力をいかに発揮していったのか、取り組みの様子はデザインプロセスに浮かび上がる。

「感情をデザインできるか」と問い、挑戦の求められる大海を恐れることなく泳ぎ続けた人物の熱気と、信念を貫く執念にも似た姿勢にも触れることのできる本展。本人がしばしば述べていた「エモーション」の深い意味と魅力が、鮮明に伝わってくる。

映画『白雪姫と鏡の女王』(ターセム・シン監督、2012年)、衣装デザイン。©2012-2020 UV RML Films dba Relativity Media. All Rights Reserved.

ポスター『西洋は東洋を着こなせるか』(パルコ、1979年)アート・ディレクション。衣装を手がけた三宅一生との会話で挙がったのは観音像のイメージ。

『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』
開催期間:11/14~2021年2/14 
会場:東京都現代美術館 
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※入場は閉館の30分前まで 
休館日:月(1/11は開館)、12/28~1/1、1/12 
料金:一般¥1,800(税込)
www.mot-art-museum.jp
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。