光学装置となった空間で、光と陰と戯れる知覚の実験。

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    『みえないかかわり イズマイル・バリー展』

    銀座メゾンエルメス フォーラム 

    光学装置となった空間で、光と陰と戯れる知覚の実験。

    川上典李子エディター/ジャーナリスト

    『Apparition』 3分間のビデオ作品。逆光の中で手が動く場所にのみ像が出現する。イズマイル・バリーは偶発的な光と陰の戯れを活かし、知覚への実験的なアプローチをとる作家。また、会場となる銀座メゾンエルメスの建物は出現しては消滅する、一種の光学装置のような変貌を遂げるという。 © Ismaïl Bahri.Courtesy of the artist

    『Nest』2018年 © Isabelle Arthuis, Courtesy of Fondation Hermès

    『Gesture #1』2018年 薄い紙がかすかに動く作品。 © Isabelle Arthuis, Courtesy of Fondation Hermès

    紙を手でくしゃくしゃに揉んでいく作業を繰り返すなかで、印刷された画像が徐々に手に移っていく。一本の細い糸の上を伝わる水滴が、ゆっくりと水たまりをつくっていく。空気によってわずかに動く薄い紙、腕の動脈上の水滴が脈と同時にかすかに動く様子を捉えた映像作品など、イズマイル・バリーの作品はどれも、静謐さに包まれた動きとともにある。
    バリーは1978年にチュニス(チュニジア)に生まれ、故郷とパリを拠点に活動している。ブリュッセルのギャラリー、ラ・ヴェリエールでも注目された彼の世界を、同ギャラリーのキュレーターであるギヨーム・デサンジュとの意欲的なアプローチで満喫できる、日本初個展が開催中だ。
    作家本人の直観的な行為や発見も背景にしている作品は、観る人間が自ら動くことで生まれる距離の変化によって像を知覚できるもの。「みえないかかわり」という展覧会名には、世の中の現象や不明瞭で不安を含む事象といかに適切な距離を保ちながら関わるべきか、といった問いが重ねられている。
    作家の想いを象徴するさらなるひとつが、今回の展示空間。カメラオブスキュラさながらに、空間そのものがひとつの光学装置に見立てられた。光や陰と戯れる空間で披露される映像や繊細なインスタレーション。わずかな開口部から差し込む光の中で、私たちは自らの「ピント」をあわせながら、どう作品を目にできるのだろう。
    予期していないアクシデントやある瞬間の出来事、そんな偶然にも神経が配られた、知覚の実験とも言える作品の数々。デサンジュが口にする言葉から引用すると、それらは「見えないざわめき」「微かな痙攣」を引き起こすためのものであると言う。可視と不可視の間の不安定な関わりを露わにする、イズマイル・バリーの世界を感じてみよう。


    『みえないかかわり イズマイル・バリー展』
    開催中~2020年/1/13 
    会場:銀座メゾンエルメス フォーラム 
    TEL:03-3569-3300 
    開館時間:11時~20時(12/12~12/25は11時~16時30分) 
    ※入場は閉場の30分前まで 
    入場無料 不定休 
    www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza