生き物に宿る不変の命を描いた、グラフィック・デザイナー永井一正。

  • 文・川上典李子(エディター/ジャーナリスト)

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「LIFE」(2017年)。本展はポスター26作品と多数の言葉、180もの作品を紹介する映像で構成。永井一正、永井一史、河尻亨一の3人によるトークイベントを、会期中にYouTubeで公開予定。永井作品をモチーフとしたオリジナルグッズも多数販売される。

「I’M HERE」(1992年)

「あらゆるものに宿る いのちそのものを捉えたい」。今年4月に刊行された本『いきることば つむぐいのち』に、永井一正の作品とともに収められている言葉のひとつである。同書では、地球上の生き物と人間の関係に目を向けた言葉にも出合う。「共に生きていく。すべてはつながっているから」

1929年生まれの永井は、グラフィック・デザイン界の最前線で表現の可能性を拓いてきた重鎮のひとり。80年代後半から一貫して取り組んでいるのが、動物や植物をモチーフとしたポスターであり、ライフワークとなっている「LIFE」シリーズだ。

こうした作品と本人の言葉で構成する本展は、アート・ディレクターとして活躍する息子の永井一史の監修で、絵と言葉が織りなす異空の森となっている。作品が巨大サイズの映像で投影される展示空間では、フリーハンドによる点描や有機的な線に満ちるエネルギーがひしひしと伝わってくる。動物たちが生きる森の中にいるかのような音響効果にも、命の手触りを感じる。

「生物はどれもが神秘的で美しく、リアルに描こうとはどうしても思えない」。そう述べ、いまも新作発表のたびに変化を遂げている豊かな創造の世界もLIFEシリーズの大きな魅力。描かれているのは不変の命そのものだ。永井は本展に際してこう記している。

「すべての生物に共通する『命』を生物の姿を借りながら、時として可愛かったり不気味だったりする生そのものをもっと自由に勝手に描いてきた。私の心の奥底に眠る生物共通の宇宙を深く掘っていく作業でもあった。それは私に出来る生きる意味を問い続けるようになったように思う」

長年の創作活動から生み出されたさまざまな命と言葉は、いまを生きる私たちへの問いであり、祈りのようにも感じる。そして私たちへの大きなエールにも感じるのだ。

永井一正『いきることば つむぐいのち』(芸術新聞社、2020年)より。

永井一正『いきることば つむぐいのち』(芸術新聞社、2020年)より。

『いきることば つむぐいのち 永井一正の絵と言葉の世界』
開催期間:10/9~11/21
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー
TEL:03-3571-5206
開館時間:11時~19時 
休館日:日、祝
入場無料
https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/