2つの展示で見る、建築家の思考。

  • 文:川上典李子

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『田根 剛│未来の記憶 Archaeology of the Future − Digging & Building』

東京オペラシティ アートギャラリー

2つの展示で見る、建築家の思考。

川上典李子エディター/ジャーナリスト

『エストニア国立博物館』タルトゥ、2006~16年。東京オペラシティ アートギャラリーで模型を展示。滑走路跡地に設計した全長1.5kmの施設。photo: Eesti Rahva Muuseum / Courtesy of DGT.

建築家・田根剛(1979年生まれ)が拠点とするパリのアトリエは、どこか発掘現場のように思える。リサーチの過程で出合い、収集した古今東西の膨大な資料が壁一面を埋め尽くしている。
「その場所にしかない記憶を掘り起こすことから始める」のが田根の建築手法だ。「場所とは唯一のもの。空間とは無限。時間とは連続性。記憶とは意味。そしてこれらの中央に位置するのが建築」。田根はそう考え、探究を続ける。  
同世代の建築家ふたりとエストニア国立博物館の国際設計競技を勝ちとったのは、26歳の時。10年後の2016年に竣工すると世界が注目した。新国立競技場基本構想国際デザイン競技に提案した「古墳スタジアム」は、最終選考に残っている。現在は弘前市の芸術文化施設をはじめ、複数のプロジェクトが進行中だ。  
そんな田根の活動を紹介する待望の個展が、同時に2会場で開幕した。東京オペラシティ アートギャラリーでは、前述したリサーチ風景も登場。大型模型で代表作7プロジェクトを目にできる。数年後の完成に向けて始まった京都のプロジェクトも初披露されている。  
TOTOギャラリー ・ 間では実現しなかったプロジェクトも含め、考察過程を紹介。400以上もの模型やアイデアの種子となるオブジェも並び、こちらは考古学研究室といった空気だ。
「その土地のある時代、ある文化の『集合記憶』は強いメッセージであり、未来を生む原動力。それを建築としてかたちづくることで現在を動かし、未来を創出できると信じている」と語る田根。壮大とも思えるヴィジョンを実践してきた彼の言葉には説得力がある。
「建築でさらに先の記憶をつくる」という信念をもち、記憶と未来を結びながら新たな創造に挑む若き建築家。その試みは、私たちが遠くに目を向け、未来の可能性を考察する上での重要な点に気付かせてくれる。

『田根 剛│未来の記憶
Archaeology of the Future − Digging & Building』

開催中~12/24 
東京オペラシティ アートギャラリー 
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:11時~19時(金曜、土曜は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(12/24は開館) 
料金:一般¥1,200(税込) 
www.operacity.jp


『田根 剛│未来の記憶
Archaeology of the Future − Search & Research』

開催中~12/23 
 TOTOギャラリー・間 
TEL:03-3402-1010 
開館時間:11時~18時 
休館日:月、祝(11/3、12/23は開館) 
入場無料 
https://jp.toto.com/gallerma