生誕100年記念の展覧会が各地で開催。石元泰博が東西に向けた、モダニズムの眼差し。

  • 文:赤坂英人(美術評論家)

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日本の伝統建築をモダニズムの視点で切り取った代表作。「桂離宮 中門の乗越石」1953-54年、高知県立美術館蔵。「シカゴ、街」は東京都写真美術館、その他は東京オペラシティ アートギャラリーの展示作品より。 photos : ©高知県,石元泰博フォトセンター

「シカゴ 街」1959-61年、東京都写真美術館蔵。 photos : ©高知県,石元泰博フォトセンター

1921年にアメリカ西海岸のサンフランシスコに生まれた石元泰博は、日本を代表する写真家である。彼は、通称「ニュー・バウハウス」と呼ばれたシカゴのインスティテュート・オブ・デザインで学ぶが、そこで身につけたモダニズムの造形感覚は、戦後の写真界をはじめ、建築、デザインなどにジャンルを超えたインパクトを与えた。

その石元の生誕100年を祝う最大級の回顧展『生誕100年石元泰博写真展』が、9月から来年春にかけて3カ所の美術館の共同企画として開催される。まず、東京都写真美術館では「生命体としての都市」をテーマに、石元の中期から晩年にかけての都市のイメージに焦点を当てる。東京オペラシティアートギャラリーでは「伝統と近代」をテーマに、石元の前半期までの多様な作品を通して彼の視線の原点に迫る。来年には高知県立美術館で前2館の展示を再構成し展示する予定だ。

石元には「シカゴ、シカゴ」と「東京」という大都市の街や風景、人々の生活を撮ったライフワークといえる膨大な写真群がある。またカラフルな「多重露光」シリーズや、自然の“うつろい”を写した「刻」シリーズなど作品は多彩を極める。だがシカゴで制作された初期の実験的作品から、晩年の渋谷の街を行く若者をノーファインダーで捉えた「シブヤ、シブヤ」まで、彼の写真は常にアポロ的ともいえる透明で理知的な光に充ちている。

なかでも彼の名を世界的にした京都の桂離宮を撮ったシリーズは石元の代表作である。バウハウスの創設者で建築家のヴァルター・グロピウスも絶賛した17世紀に創建された庭園建築を、石元はモダニズムの視線から幾何学的な線と面と空間で構成された簡潔な美の構築物として写し出した。思えばそれは、西洋とは異なった、もうひとつの感受性としての論理さえ映し出していたといえるだろう。

「セルフ・ポートレート」1975年、高知県立美術館蔵。 photos : ©高知県,石元泰博フォトセンター

舞踏家の土方巽や作家の三島由紀夫など、時代を映す表現者の姿も撮影していた。「ポートレート(土方巽)」1968-69年、高知県立美術館蔵。 photos : ©高知県,石元泰博フォトセンター

『生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市』
開催期間:9/29~11/23
会場:東京都写真美術館
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(11/23は開館)
料金:一般¥700(税込)
https://topmuseum.jp

『生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代』
開催期間:10/10~12/20
会場:東京オペラシティアートギャラリー
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:11時~19時 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は開館、翌日休み)
料金:一般¥1,200(税込)
※日時指定予約制
https://www.operacity.jp/ag/

※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。