知的でエモーショナルな、空間芸術。

  • 文:赤坂英人

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『リー・キット「僕らはもっと繊細だった。」』

原美術館 

知的でエモーショナルな、空間芸術。

赤坂英人美術評論家

上:『僕らはもっと繊細だった。』2018年。下:『僕らはもっと繊細だった。』2018年。(参考図版)リー・キットのインスタレーションには独特の緊張感がある。自由で美しさに満ちていながら、目の前のすべてが一瞬で消え去るような儚さが同居しているのだ。ある時、ある場所でしか成立しない作品はまさに一期一会を思わせる。©Lee Kit, courtesy the artist and ShugoArts

2013年のベネツィア・ビエンナーレで一躍脚光を浴びたリー・キット(李傑)の、日本の美術館での初個展がスタートした。タイトルは、まるでジャン=リュック・ゴダールの短編映画の題名のようだ。『僕らはもっと繊細だった。』、題名を聞いただけでセンスのよさが伝わってくる。
リー・キットは、1978年香港生まれ。香港中文大学で学び、現在は台北を拠点にしている。世界各地で滞在制作を行い、その地の美術館やギャラリーなどで発表。アジアの現代アートシーンの寵児とも言える。
ベネツィア・ビエンナーレの香港館の作品もそうだが、彼の作品スタイルはインスタレーションだ。また彼は、さまざまな素材を使う。オブジェ、照明、近年は絵画やドローイング、プロジェクターの光や映像、そして家具や日用品を配置。まさに空間を形づくるエンヴァイロンメンタル・アート、環境芸術だ。それはどこか庭園をつくる作庭師の仕事に似ているようにも、また舞台の演出家のようにも思える。
そのシンプルなインスタレーションから伝わってくるメッセージは、容易に言語化できない、抽象的なものだ。知的で透明でニュートラルだが、ときに劇的にエモーショナルなものに変貌する。もちろん、そこでなにを感じるかは鑑賞者の自由だ。すると作品の意味は、無数にあるとも、決まったものはないとも言えるのではなかろうか。ポーカーフェイスのリー・キットに聞いてみたいところだ。
今回の個展の舞台は原美術館。戦前の建物で、住居に使われたり、GHQが使ったり、大使館にもなった、さまざまな記憶が重層する場所だ。
きっと彼は言うだろう。作品の意味なんか聞くのは野暮さ、きっと伝わっていたはずだよ、と。そう言って笑い、紙にある言葉を書き付ける。「僕らはもっと繊細だった」

『リー・キット「僕らはもっと繊細だった。」』
開催中〜2018年12/24 
原美術館 
TEL:03-3445-0651 
開館時間:11時〜17時(水曜は20時まで) 
※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(12/24は開館) 
料金:一般¥1,000(税込)
www.haramuseum.or.jp