10点以上もの「麗子像」で、 岸田劉生の革新性を知る。

『没後90年記念 岸田劉生展』

東京ステーションギャラリー

10点以上もの「麗子像」で、 岸田劉生の革新性を知る。

糸瀬ふみ ライター

『自画像』1921年 泉屋博古館分館蔵。

『麗子肖像(麗子五歳之像)』1918年 東京国立近代美術館蔵。藍色の浴衣を着て、犬蓼(イヌタデ)を手に持つ少女を描いた『麗子肖像(麗子五歳之像)』は岸田劉生の愛娘、麗子が初めて油彩画のモデルになった作品。多くの人がよく知る麗子像誕生の瞬間である。ここには不気味さはなく、段々変化した。

『道路と土手と塀(切通之写生)』重要文化財 1915年 東京国立近代美術館蔵。

岸田劉生(1891~1929年)は、日本の近代絵画史に深く刻まれる天才画家だ。本格的に画家としての道を歩み始めたのは20歳の頃。以降、フィンセント・ファン・ゴッホやアンリ・マティス、西洋古典絵画、さらには北方ルネサンスから大きな影響を受けた。また、水彩画や素描、東洋美術にも可能性を求め、日本画も積極的に取り組んだ。こうしてたどり着いたのが「デロリ」と呼ばれる表現である。これは、岩佐又兵衛などの初期肉筆浮世絵を評するために岸田が生み出した、「現実的、卑近味、猥雑、濃厚、しつこさ、皮肉、淫蕩、戯け等の味」「多少変態的な快感、グロテスクなものに対する牽引、こはいものみたさの不思議なる心の欲望」を指す造語だ。どんなに美しい花鳥や人間、景色にもどこかグロテスクなものが隠されていると考えた岸田は、生きとし生けるものの本来の姿を表現するためには、ただ見たままを写実的に描き出すのではなく、パースが狂っていようと、画家の心が捉えた真の姿を描き出すことが絵画の本質だとの意を強くする。そうして一見、目をそらしたくなるような不気味さと、人を惹きつける妖しさが混在する、独自の画風を誕生させた。

没後90年を記念して開催される今回の展覧会は、画業を制作年代順に初期から最晩年までの名品150点以上で紹介。愛娘を描いた、有名な「麗子像」が、途中展示替えはあるが前期・後期合わせて計17点も公開される。岸田は38年という短い生涯で、娘・麗子を100点以上描いた。この最重要モチーフを見比べて、初期の写実的な表現から「デロリ」化していく進化のさまを知ることは、画家の思考に触れる貴重な鑑賞体験となるであろう。

同時代の多くの画家たちが悲しくも西洋美術の後追いに終わってしまった。岸田の革新性とその道程を丹念に見ておきたい。

『没後90年記念 岸田劉生展』
開催中~10/20
東京ステーションギャラリー
TEL:03・3212・2485 
開館時間:10時~18時(金曜は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(9/23、10/14は開館)、9/17、9/24
料金:一般¥1,100(税込)
www.ejrcf.or.jp/gallery

10点以上もの「麗子像」で、 岸田劉生の革新性を知る。