惜しまれつつ閉館する原美術館、最後の展覧会『光─呼吸 時をすくう5人』が開催。

  • 文:川上典李子

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佐藤時啓『光─呼吸』2020年。美術館に向けた作家の視線も本展の見どころ。原美術館は本展終了後に閉館し、今後は別館であったハラミュージアムアークにて、「原美術館ARC」の名で活動を続ける。 ©Tokihiro Sato

世界がかつてなかった状況に包まれる中、気付くと季節は秋に変わろうとしている。私たちはいま日々の光景を心に留める時間もなく、過ごしてしまっているのかもしれない。

この展覧会で紹介されるのは、周囲の光や空気、流れる時間をていねいにすくおうとする5人の作家の世界だ。

写真を表現手段として日々の生活の延長線上の世界を捉える城戸保は、会場の原美術館を時間をかけて撮影した。「作品は時間への打点」と言う今井智己は福島の原発建屋方向を付近の山頂より撮る作品に加え、美術館屋上から同方向を撮った新作を披露する。

空間を丹念に観察した上で実現されるリー・キットの繊細なインスタレーションを再び体感できる機会でもある。また、オリンピックに向かう5年前の東京を尾行するかのごとく撮影し、一部トレースした佐藤雅晴のアニメーションも展示。癌を患っていた佐藤は昨年亡くなってしまったが、彼の捉えた時間は作品の中で呼吸を続ける。

佐藤時啓は原美術館で制作した新作を披露。同館の今後の拠点となる群馬のハラミュージアムアーク(現:別館)をモチーフとした制作も行った。

「視界から外れてしまうものに眼差しを注ぎ、心に留め置くことはできないかと考えた。どんな世の中になっても自らのスタンスで光景をすくっていくであろう彼らのたくましさも感じる」と企画した学芸員・坪内雅美さんは言う。本展は原美術館の現在の建物で鑑賞できる最後の展覧会。5人の世界が重なるかのような展示も醍醐味だ。

周囲を照らすだけでなく闇をもたらすのも光。忘却の波に飲み込まれることなく光景を留め浮かび上がらせるのも、光(photo)の絵(graph)であり映像だ。私たちを取り巻く空気を、時間を、感じたい。

城戸保『光と蜜柑』2019年。フィルムを巻き戻す際に入り込む偶然の光を活かした作品。 ©Tamotsu Kido

今井智己『Semicircle Law #42 2018. 9.11 / 33㎞』2020年。30㎞圏内の山頂から原発建屋方向を撮影。©Tomoki Imai

『光─呼吸 時をすくう5人』
開催期間:9/19~2021年1/11
会場:原美術館
TEL:03-3445-0651
開館時間:11時~16時(土曜、日曜、祝日は17時まで) 
休館日:月(9/21、11/23、1/11は開館)、9/23、11/24、年末年始 
料金:一般¥1,100(税込)
※日時指定予約制
www.haramuseum.or.jp
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。