忘れかけていた一大転機、 80年代を思い出すという試み。

  • 文:赤坂英人

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『起点としての80年代』

金沢21世紀美術館 

忘れかけていた一大転機、 80年代を思い出すという試み。

赤坂英人美術評論家

上:大竹伸朗『家系図』1986〜88年、セゾン現代美術館蔵。下:横尾忠則『うまい作り話』1982年、高松市美術館蔵。
この展覧会は「Ⅰ:メディウムを巡って」「Ⅱ:日常とひそやかさ」「Ⅲ:関係性」「Ⅳ:記憶・アーカイヴ・物語」と4つの章で構成される。中原浩大や松井智恵など関西系のアーティストも網羅した回顧展だ。

テレビをつけると、軽快なリズムに乗って『ダンシング・ヒーロー』を歌う歌手の荻野目洋子の姿が目に飛び込んできた。彼女のバックには1980年代のファッションに身を包んだ女性たちが踊っていた。この曲は85年にリリースされ、大ヒットした荻野目の代表曲だ。それが昨年、大阪の府立登美丘高校ダンス部が踊る「バブリーダンス」とともにリバイバルした。
こうした現象と関連があるのか、現在、日本の80年代の美術に焦点を当てた『起点としての80年代』展が金沢21世紀美術館で開催されている。参加した作家は時代の寵児的画家だった大竹伸朗をはじめ、森村泰昌、横尾忠則、日比野克彦、舟越桂、宮島達男など19名。実力も人気もある作家たちばかりだ。リアルタイムで作品を見た人間には懐かしさがこみ上げるとともに、当時は気がつかなかった発見もある。
この展覧会は金沢21世紀美術館と高松市美術館、静岡市美術館の共同企画展であり、主催者にはひとつの目論見があった。近年、海外における日本の戦後美術への関心が高い。「具体」や「もの派」、70年頃までの戦後の前衛美術についての展覧会がアメリカで相次いだ。しかしそこに80年代の姿はない。一方で村上隆など90年代以降に登場した作家たちへの関心はあるが、彼らを準備した80年代の影は薄い。いまこそ70年代と90年代の狭間である80年代の美術に注目すべきだ、という主催者からのメッセージは明確だ。
それは、80年代とはインスタレーションという形式や、社会との関係への意識、オルタナティブスペース、メディア・アート、また「ポスト・モダン」をはじめ美術をめぐる多様な視点と議論を生んだ大きな転換期だったという仮説である。「平成」という時代が終わろうとしている日本。時代の無意識は「昭和」末期の「80年代」を思い出そうとしている。

『起点としての80年代』
開催期間:開催中〜10/21 
金沢21世紀美術館 
TEL:076-220-2800 
開館時間:10時〜18時(金曜、土曜は20時まで) 
休日:月(9/17、9/24、10/8は開館)、9/18、9/25、10/9 
料金:一般¥1,000(税込)
www.kanazawa21.jp