近代の「女性」に焦点を当てる試み。

『解放され行く人間性 女性アーティストによる作品を中心にコレクションによる小企画』

東京国立近代美術館

近代の「女性」に焦点を当てる試み。

赤坂英人 美術評論家

丸木俊(赤松俊子)『解放され行く人間性』1947年 

間所紗織『女( I )』1955年

山下新太郎『窓際』1908年ギャラリー4の最初の小さなスペースには、20世紀初頭および1950年代の男性画家による女性像、戦後から50年代にかけての女性アーティストの作品を展示。その後、60~70年代にかけての抽象美術、女性の役割にフォーカスを当てた70年代の映像作品、身体の「美しさ」を再考する写真などが続く。

東京国立近代美術館の所蔵作品展と同時に行われている小企画が、予想外に面白い。前者は20世紀初頭から今日までの日本における近現代美術史の流れを一気に語る、同美術館の本筋である試み。後者は、そこから生まれた余剰による新たな結晶だと言える。

美術館の英語略名を冠した「MOMATコレクション」の第1室、それは華やかな「ハイライト」だ。重要文化財とともに、日本画では平家物語の一節を描いた菊池契月の『供燈(くとう)』や、洋画では海外への貸し出しから帰国したばかりの藤田嗣治の『五人の裸婦』などが飾られ、時代と風俗をよく伝える作品が続く。その著名なコレクションに対して見事なコントラストをなしていたのが、ギャラリー4の小企画『解放され行く人間性 女性アーティストによる作品を中心に』だった。

美術館の解説によれば、東京国立近代美術館は昨年、『原爆の図』などで知られる画家の丸木俊の裸婦像を購入した。その絵の題名が『解放され行く人間性』。それにインスパイアされ、1950年代や20世紀初期の男性画家が描いた女性像、60~80年代の女性作家の作品などで構成した刺激的な展示が出来上がった。先の「MOMATコレクション」が既に高く評価されている一種の答えの提示だとすれば、こちらは明確なテーマに基づいたキュレーションによって、近代の「女性」並びに「性」というあまり語られてこなかった議題を観客に投げかけている。こういった美術展は珍しい。

日本の近代美術史に興味はないと言う人もいるかもしれない。しかし、東京国立近代美術館にはさまざまな作者による、日本の近代の多彩な作品があり、キュレーションの新しい展開、多様なテーマといった仕掛けがある。それによって我々は発見し、関心を深めるのだ。この展覧会は、その好例だと言えるだろう。

『解放され行く人間性 女性アーティストによる作品を中心にコレクションによる小企画』
開催中~10/20
東京国立近代美術館
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:10時~17時(10/6までの金、土曜は21時まで、以降は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(7/15、8/12、9/16、9/23、10/14は開館)、7/16、8/13、9/17、9/24、10/15
料金:一般¥500(税込)
www.momat.go.jp

近代の「女性」に焦点を当てる試み。