自由な心が生んだ、美術やデザイン

  • 文:川上典李子

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『ブルーノ・ムナーリ こどもの心をもちつづけるということ』

神奈川県立近代美術館

自由な心が生んだ、美術やデザイン

川上典李子エディター/ジャーナリスト

写真上から『読めない本』試作、1955年、パルマ大学CSAC。
『無題』1930年、カーサペルラルテ=パオロ・ミノーリ財団。
『穴のあるコンポジション』1950年、カーサペルラルテ=パオロ・ミノーリ財団。未来派参加時代から晩年まで、日本初公開約150作品も披露。
© Bruno Munari. All rights reserved to Maurizio Corraini srl. Courtesy by Alberto Munari


「各々の人が異なったムナーリを知っている」。自身のことをそう述べていたブルーノ・ムナーリ。1907年、ミラノ生まれの彼は、91歳で亡くなるまでこの街を拠点に活動した。画家、彫刻家、グラフィック・デザイナー、工業デザイナー、理論家、著述家、啓発的な教育者と、多くの顔をもつ。 

活動の出発点は19歳の時。前衛美術運動である未来派の第2世代に参加し、空気の動きで軽やかに回転する細い木材やボール紙などを吊った『役に立たない機械』を発表。「幾何学的な形を静的な性質から解放した」機械だというこの作品には、人間こそが機械の主だとする考えも込められていた。 

40年代には具体芸術運動の旗揚げに関わり、新たな芸術思潮を表明。芸術、建築、デザインの統合を目指す試みは、工業デザイナーの道へと連なり、イタリア最高のデザイン賞、コンパッソ・ドーロにも3度輝いている。 

独創的なワークショップも考案し、晩年には子ども向けの造形教育に熱心に取り組んだ。日常的なものを観察、分析し、人間本来の感覚や知覚を大切にしたムナーリならではの活動だ。 

彼は記している。「子どもの心を 一生のあいだ 自分の中に持ち続けるということは 知りたいという好奇心や わかる喜び 伝えたいという気持ちを  持ち続けるということ」 

本展は約320もの作品を紹介。美術の文脈からのムナーリ紹介が充実しており、ダネーゼ製品など彼のデザインのファンにも発見が多いだろう。「完璧さとは美しい。が、愚かしくもある。完璧さを知り、使い、破壊しなければならない」との名言も残した偉大なる芸術家。美術とデザインの領域を跨ぎつつ進んだムナーリは、創造の力を信じ、その可能性を人々と分かち合おうとした。活動の源泉となる自由で柔軟な精神そのものを、本展では感じることができる。

『ブルーノ・ムナーリ
こどもの心をもちつづけるということ』

開催期間:~6月10日(日)
神奈川県立近代美術館
TEL:046-875-2800
開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月
入館料:一般¥1,200(税込)
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2018/munari/index.html