社会が大転換を迎える中、 新しい日本画を模索した巨人。

  • 文:赤坂英人

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『生誕150年 横山大観展』

東京国立近代美術館

社会が大転換を迎える中、 新しい日本画を模索した巨人。

赤坂英人美術評論家

写真上から『或る日の太平洋』1952年。東京国立近代美術館。17点もの試作を経て、この波の形に決まったという。
『群青富士』(右隻)1917年頃。静岡県立美術館。東京展では5月6日まで展示。
『生々流転』(部分)1923年。東京国立近代美術館。水の一生の物語を描いた、全長40ⅿの画巻だ。

明治元年に生まれた横山大観(1868〜1958年)は、近代日本画壇において最も重要な存在のひとりだ。その大観の生誕150年、没後60年を記念する大回顧展が始まった。 

大観は師である岡倉天心(覚三)らとともに、近代化する明治、大正、昭和という新しい時代の中で、新しい日本の絵画、つまり「西洋画」に対する「日本画」をつくり出そうと悪戦苦闘した。日本の絵画の伝統と、西洋美術の情報の狭間で試行錯誤を繰り返しながら、「朦朧体」という独自の技法も用いて優れた作品を制作したのである。今回は、日本一長い画巻の『生々流転』(1923年)をはじめ、『夜桜』(1929年)、『紅葉』(1931年)、新しく発見された作品を含め約90点の代表作を展示する。 

個人的には、最晩年の傑作である『或る日の太平洋』(1952年)に改めて注目したい。そこには神聖な山である富士山を目指して、一心不乱に波頭を蹴散らしながら太平洋の荒波を越えていく龍が描かれている。この絵には、さまざまな解釈が語られてきた。 

私には、この絵は亡き師、岡倉覚三が書いた思想書である『茶の本』(1906年)の最終章の一節をコンセプトとして、その概念を絵画化した作品ではないかと思う。岡倉はこう語る。「われわれは心の安定を保とうとしてはよろめき、水平線上に浮かぶ雲にことごとく暴風雨の前兆を見る。しかしながら、永遠に向かって押し寄せる波濤のうねりの中に、喜びと美しさが存している。何ゆえにその心をくまないのであるか、また列子のごとく風そのものに御しないのであるか」「日本画」と生涯を懸けて格闘した横山大観らしい作品ではないか。今春は、日本美術の優れた展覧会が時を同じくして開かれている。面白い日本画を見る好機だ。


『生誕150年 横山大観展』

開催期間:~5/27(日)
東京国立近代美術館
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:10時~17時(金曜・土曜は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月
入館料:一般¥1,500
http://taikan2018.exhn.jp