人と植物が取り交わした、感情と歴史を探る旅。

  • 文:川上典李子

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『Moving Plants 渡邊耕一展』

資生堂ギャラリー

人と植物が取り交わした、感情と歴史を探る旅。

川上典李子エディター/ジャーナリスト

『Moving Plants』シリーズから、写真18点に2点の映像を加えた展示。『Moving Plants#904』2005年。© Watanabe Koichi

『Moving Plants#704』2009年。オランダのライデン国立植物標本館が所蔵するシーボルト作成のイタドリの標本。© Watanabe Koichi

オランダのアースメール花市場を捉えた『Moving Plants#811』2009年。© Watanabe Koichi

「なぜだかわからないが、植物への興味が尽きない」と写真家の渡邊耕一は言う。大学での専攻は認知心理学。その後も「人が認識する環境の基底にあるもの」を、風景写真を介して捉えた。広大な平原に魅了されて北海道の風景を撮っていたのが15年前。その都度、どうしても視界に入ってくる野生植物があり、「オオイタドリ」と知る。 

日本各地に生息するイタドリは薬草や食材となった歴史もある。200年ほど前にはシーボルトにより日本から欧米に運ばれ、園芸用に販売されたが、その後、強い生命力で各国の生態系に影響を及ぼしている。それらを知った渡邊は、大型カメラを手にこの草の足跡と在り様を確かめる旅に出る。 

旅は10年続いた。イギリスの研究者を訪ね、オランダにある世界最大の花卸売市場にも向かった。各国の薮にも入り、5年ごとに同じ場所での撮影も行ってきた。「イタドリが旅してきた場所を辿り、イタドリの間に見えるものを確かめること。その中には人とイタドリとの間に取り交わされる感情の濃淡や歴史が織り込まれている」と渡邊は語る。「雑草」を巡る渡邊の旅は、資本主義の在り方やグローバルな流通経路も示してくれる。生態や繁殖する姿だけでなく、無秩序な「侵略」による「感染」を恐れ、防ごうとする人々の動き、人間社会の理屈もうかがえる。また、「Moving(動き)」という作品名は、庭師の立場で草や木の移動のダイナミズムに触れたジル・クレマンの著作『動いている庭』を思い起こさせ、さらに深い思考の旅へと私たちを誘う。 

人と植物の関わりを追った『MovingPlants』シリーズは、古今東西の社会の基底という複雑な茂みを示す意欲作だ。イタドリを介して世界のさまざまな関係が見えてくる。

『Moving Plants 渡邊耕一展』

開催期間:~3月25日(日)
開催場所:資生堂ギャラリー
TEL:03-3572-3901 
開館時間:11時~19時(日曜・祝日は18時まで) 
休館日:月
入場無料 
www.shiseidogroup.jp/gallery