他者の記憶が、五感に問いかける。

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    『クリスチャン・ボルタンスキー ─Lifetime』

    国立国際美術館

    他者の記憶が、五感に問いかける。

    赤坂英人美術評論家

    クリスチャン・ボルタンスキーは1944年パリ生まれ。彫刻家であり、写真家、画家、映像作家でもある。80年代に発表された写真を使った独自のインスタレーションで一躍注目を集め、その後も衣類や電球を使った独創的な作品を発表し続けている。『モニュメント』1986年 作家蔵。© Christian Boltanski / ADAGP, Paris, 2019, Photo © The Israel Museum, Jerusalem by Elie Posner

    『ミステリオス』2017年 作家蔵。© Christian Boltanski / ADAGP, Paris, 2019, Photo by Angelika Markul

    『保存室(カナダ)』1988年 イデッサ・ヘンデルス芸術財団© Christian Boltanski / ADAGP, Paris, 2019, Ydessa Hendeles Art Foundation, Toronto, Photo by Robert Keziere

    フランス現代美術を代表するアーティスト、クリスチャン・ボルタンスキー(1944年~)の、日本で初めての大規模な回顧展が大阪の国立国際美術館で開かれる。初期の映像作品から最新作まで、ボルタンスキー自身による会場構成で展示される。彼は言う。 「私は展覧会をする時、既にある作品を、新しい文脈で再構成する。それは私にとって創造的な時間だ。展覧会とは与えられた時間と場所で行われる特別なイベントであり、劇場でのリバイバルのように、再生復活することは容易なことではない」
    彼の作品は写真や日常の品々を組み合わせるなかで、個人的な記憶や思い出、生と死、存在と不在、そして近代史といった主題を視覚や嗅覚、皮膚感覚など感受性のすべてを使って感じさせるインスタレーション・アートだ。
    僕は20年ほど前、セーヌ川沿いにあるパリ市立近代美術館で見たボルタンスキーの展覧会が忘れられない。10月、パリコレが開かれている時期で、ショーの取材の合間に現地で出会った記者とコーヒーを飲んでいる時だった。「もしあなたが現代美術に興味があるなら、ボルタンスキー展は行くべきよ」と彼女は言った。翌日の夕方、展覧会場に足を踏み入れた時、いったいこれはなんだと思った。
    たくさんの金属箱とそれに貼られた男女の肖像写真。着ていた人たちの体臭が残る大量の衣類の山。壁を覆う無数の肖像写真群。笑いかける人物の表情が、彼らが既にこの世のものではないことを告げていた。僕はさまざまなインスタレーションを通過しながら、死者たちの記憶の中にいると感じた。美術館を出て橋の上から暗い川を見た時の、生きもののように流れていく川の景色をいまでもよく憶えている。
    今回の展覧会の題名は「Lifetime」。ボルタンスキーはなにを見せてくれるだろうか。

    『クリスチャン・ボルタンスキー ─Lifetime』
    2/9~5/6
    国立国際美術館
    TEL:06-6447-4680
    開館時間:10時~17時(金曜、土曜は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで
    休館日:月(2/11、4/29、5/6は開館)、2/12
    料金:一般¥900(税込)
    www.nmao.go.jp