自伝的展示で知る、横尾作品の「核」。

  • 文:赤坂英人

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『想い出劇場』2007年 個人蔵(横尾忠則現代美術館寄託)。 絵画を中心に600点以上の膨大な作品から、横尾のキャリアを振り返る。横尾は以下のコメントを出している。「私は絵画から目を外して来ませんでした。いまだに絵画は私にとって未知の領域です」。

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横尾忠則は1960年代からグラフィック・デザイナー、イラストレーターとして時代の先陣を切る存在として活躍。80年代には「画家宣言」をしてデザイナーから芸術家へと転身した。自身の活動領域を広げた彼は、いまや日本の現代美術界を代表するアーティストのひとりだ。このほど東海地方の美術館では初となる、大規模個展『GENKYO 横尾忠則』展が開催。

「原郷から幻境へ、そして現況は?」というサブタイトルが付くその展示内容は、自伝的エピソードや記憶がテーマとなる作品も多い横尾の全面協力による「作品による自伝」である。

初期のグラフィック作品から、60年代のアングラの香りが濃厚な横尾流ポップの代表作、80年代の表現主義的な絵画や、2000年代の『Y字路シリーズ』から近作の『原郷』までをも網羅。横尾の全貌に迫ろうとしている。

多彩な作品をつくり出してきた自身の芸術について、横尾はエッセー集『言葉を離れる』の中でこう語っている。幼少期から読書をしない子どもで読書から得られる知識や教養はもっていないと前置きした上で、「知性の欠落がかえって感性とアンファンテリズムを養ってくれました」と。横尾は、感性と幼稚性、このふたつを美術家としての「創造の核」だと言い、知性に代わる武器として「記憶」があるという。

また親交のあった作家の三島由紀夫は彼を以下のように評した。「横尾氏のやったことは、+に+を掛けて-にすることではなく、-に-を掛けて+にすることだったが、これは(中略)大衆化社会などとも反対の、人の一番心の奥底から奥底への陰湿な通路を通った、交霊術的交流なのだった」(三島由紀夫『ポップコーンの心霊術 横尾忠則論』から引用)

本展覧会は、横尾の絵画が誘う月並みな論理を超えた神秘主義的世界と交流する絶好の機会である。

『安らかに眠れ』1987年 作家蔵(横尾忠則現代美術館寄託)。

横尾忠則『ジュール・ヴェルヌの海』2006年 世田谷美術館蔵。

『GENKYO 横尾忠則  原郷から幻境へ、そして現況は?』
開催期間:1/15~4/11
会場:愛知県美術館
会場: 052-971-5511 
開館時間:10時~18時(金曜は20時まで)※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月 
料金: 一般¥1,500(税込)
www-art.aac.pref.aichi.jp
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。