ヴァン クリーフ&アーペルがサポートする、「レコール 宝飾芸術の学校」が日本にやってくる。

  • 写真:松永 学
  • 文:髙田昌枝(パリ支局長)

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パリを代表するハイジュエリー・トップメゾンの一つ、ヴァン・クリーフ&アーペル。同社がサポートする「レコール 宝飾芸術の学校」は、宝飾品を愛する人に知識と技術を伝えるために、2012年に誕生しました。これまでにも海外で移動講義を行ってきたレコールが、2013年以来再び東京にやってきます。期間は2019年2月23日(土)~3月8日(金)までの14日間、京都造形芸術大学 外苑キャンパスにて「レコール 日本特別講座」が開校されます。その開校を前に、茶人、木村宗慎さんがパリの本校で講義を体験しました。

「ダイヤモンドの魅力」の講義にて。真っ白な台紙に石を並べ、一定の角度から肉眼で石の色を見分ける実技に取り組む木村宗慎さん。

宝飾の歴史や宝石学,3〜4時間に及ぶ充実の講義。

レコールは、ハイジュエリーの中心地、ヴァンドーム広場のすぐ近く位置する。

レコールの目的は、宝飾品を愛する一般の人々に、知識と技術を伝えること。実技、アート史、宝石学を3本柱に、歴史学者、宝石学者、ヴァン クリーフ&アーペルのアトリエで働く宝飾職人など、30名以上の講師陣を揃えた贅沢な20種の講義が提案されています。
今回、木村さんが体験したのは、座学2コースと実技1コース。まずは、宝飾の文化史をたどる「タリスマンと貴重なシンボル」の講義からスタートです。

歴史上の人物たちがそれぞれにこだわったシンボルやお守りを紹介。講義では、石の価値だけではない、宝飾品のもつ、別の意味が解き明かされていきます。

四つ葉のクローバーやスカラベ、陰陽や魔法陣、星座や誕生石まで。タリスマン(お守り)とシンボルは、古代の昔から、人間が身を守るために、あるいは権力の象徴として存在してきました。講義では時代や文化の違いを超えて共通するタリスマンとシンボルの考え方を解説。シャネルの星や獅子座、ブルガリのへビ、ヴァン クリーフ&アーペルの四つ葉のクローバーなど、現代のハイジュエリーメゾンの作品にもその伝統が脈々と伝えられていることがわかります。
「タリスマンの歴史は、劔、鏡、勾玉という日本の三種の神器にも通じますね」と講義を終えた木村さん。
「ジュエリーが、ヨーロッパの人々にとって、大切な歴史を背負った文化であり、ファッションを超えた存在なのだと感じました。歴史的背景と物語性によって、人がつくり上げるものに対する敬意と愛情が生まれる。それは日本の工芸美術に対するものと同じです」

屈折率の違う三つの石、クリスタル、ダイヤモンド、トパーズを白い光の下で観察すると、輝きの違いを実感。
米国宝石学会では、無色から黄色までをD〜ℤで格付け。ダイヤモンドの色を見る実技では、真っ白な台紙に石を並べ、30度の角度から肉眼で色の違いを見極めます。

もう一つの座学講義は、宝石学から、「ダイヤモンドの魅力」。ダイヤモンドがどのように生まれるのか、その化学構造の解説から始まって、その硬度や輝きの秘密までを明らかにしていきます。大きさ、カット、色、不純物など、ダイヤモンドの価値を決定する基準について、実際に見本を手に、ルーペや特別なライトを使って観察する実技を交えた講義は、充実の4時間。人造ダイヤモンドの進化までが語られ、今後のダイヤモンド選びのための大きな力になりそうです。「教材も講師も真剣勝負、決して宝石学のさわり、といった程度の講義ではない、予想を超えた内容の濃さに驚きました」という木村さん。いよいよ次は、ジュエリー職人による待望の実技講習です。

「ダイヤモンドの魅力」の講義では、ダイヤモンドが人を魅了する理由を様々な角度から学びます。

ハイジュエリー職人直伝の実技講習。

実技では、ヴァン クリーフ&アーペルの職人の指導にしたがって、ロウの型を成形し、石の位置を記します。このロウの型から金属製のジュエリーの土台がつくられ、ひとつ一つ手作業で石がはめ込まれます。

教室にずらりと並ぶ、エタブリと呼ばれる作業台。半円形にカットされたエタブリには、手元に、細かな作業を行うためのシュヴィーユと呼ばれる突起があり、手元からこぼれ落ちる貴重な石や金属片の落下を防ぐ革製のタブリエがついています。エタブリの前に着席したら、気分は早くもジョアイエ。「黄金の手」と呼ばれるジュエリー職人の指導が始まります。
「ロウ型からセッティングへ」の講義は2部構成。まずは蝶の形をしたロウ型を手に、左右の羽根を対称に成形し、石をはめ込む位置を記していきます。このロウ型から、石をはめ込む金属製のジュエリー本体が形作られるとあって、ロウ型の成形は大切なステップ。ヤスリを手に、少しずつ蝶の羽根の厚みとカーブを整えていく繊細な作業が続きます。「職人さんがヤスリを手にする所作は、茶道の柄杓の扱いと全く一緒ですね」という木村さん。所作が決まれば肩の力が抜け、無駄のない動きで作業が進みます。

講師は、ジュエリーの本体となる金属部分を仕上げるジョアイエ。デザイン画から立体にするまでを手がける職人です。
エタブリと呼ばれる、半円形にカットされた作業台。作業台には様々なツールが並び、手前に突き出すシュヴィーユと呼ばれる木製の突起の上で、細かな作業を行います。


実習の後半は、一度はやってみたかった、石のセッティング。蝶の身体の部分に、ベゼルセッティングとプロングセッティングの技法で大小5つの石をはめ込みます。
最初は、この道10年のセッティング職人の説明に従って、一番大きな石のベゼルセッティングに挑戦です。シルバーの土台に石を置き、石がまっすぐ水平にはまったら、周囲のメタルをかぶせて固定します。石の表面がまっすぐにはまるように調整するのが意外に難しく、教室のあちこちから先生に助けを呼ぶ声が上がります。「左手で金属の土台がはめ込まれたシモンをもち、ツールをもった右手は作業台の上に肘を載せる形で。肩と作業台は同じ高さです」と改めて説明を受けると、自ずと姿勢が正され、石にうまく力がかかるようになるから不思議です。プロングセッティングでは、バスケットに石を入れ、周囲の4つの爪を折って石を固定。かぶせた金属を滑らかに磨く作業では、まるで歯科医のようなツールを手に、緊張感が漂います。こうして、金属が滑らかに石に寄り添う、美しいセッティングが出来上がるのです。

ロウの中に金属の土台をはめ込んで固定したシモンを左手にもち、石がぴったり水平になるようにはめ込みます。力の入れ具合がわからず、最初の石をセットするのはなかなかの難関です。

「職人さんたちの道具を触る仕草や扱い、石に触る時の優しい手つきは、無駄がなく、角が取れた穏やかな所作です。それは我々のお茶の文化や日本の伝統的な身体性の表現としての工芸と同じように物作りを支えている、と感じました」。歴史から石の価値、実技まで、授業を終えた木村宗慎さんはの思いは、日本と西洋の共通点へと広がります。「人の手がつくる不安定性にある柔らかさ、優しさが、ジュエリーを身につける人を癒すのではないでしょうか」。
石の価値以上の物語をもち、人の手がつくる優しさをたたえたジュエリー。レコールで学んだ12時間は、木村宗慎さんに、宝飾品との距離を縮め、より身近な存在として慈しむ気持ちを与えてくれたようです。

「教材も講師の先生も真剣で、講義に引き込まれ、真面目に聞いていました」、とレコールの体験を振り返った木村さん。講義ノートの詳細なメモに、思い出が詰まっています。

木村さんが感じた驚きのレコール体験が今回、東京でも味わえます。東京で開校する「レコール 日本特別講座」では、サヴォアフェール(匠の技)、ジュエリーの芸術史、原石の世界と3つのカテゴリー15の講義が用意されています。もちろん講師陣も充実。美術史、ジュエリー史、科学分野の専門家たちを始め、現役の宝飾職人やデザイナーなどが多数来日します。また、子どもと10代の若者を対象とした「クリエイティブ ワークショップ」、そして、芸術、科学、歴史、テクノロジーなど、各分野の専門家による対話形式の「イブニング カンバセーション」を開催。さらにジュエリーに関する知的好奇心を刺激するような、さまざまな「エキジビション」も行われるといいます。またレコール開催期間中、京都造形芸術大学 外苑キャンパス内に設えられる教室の内装デザインは。建築家、藤本壮介氏が手がけ、こちらも注目です。
講義は受講者の興味に応じて、受ける数も順番も組み合わせも自由自在。所要時間は2~4時間。講師は2~4名、1コースの定員は最大12名に設定されています。また受講料は13,000円(税込)~26,000(税込)です。
ヴァン クリーフ&アーペルの支援のもと、これまでに世界44カ国、30000人以上の受講者に学びの機会を提供してきた「レコール 宝飾芸術の学校」。この機会にぜひジュエリーと宝飾芸術の世界にふれてみてはいかがでしょうか。

開催期間:2019年2月23日(土)~3月8日(金)
開催場所:京都造形芸術大学 外苑キャンパス
東京都港区北青山1‐7‐15

お申し込み方法:レコール 日本特別講座 公式サイトにて受付
http://jp.lecolevancleefarpels.com/

●問い合わせ先/レコール 日本特別講座 事務局 TEL :0120‐50₋2895  
mail:contact.jp@lecolevancleefarpels.com