ヴァシュロン・コンスタンタン 目利きが選ぶ、特別な時計であるために。

  • 写真:蛭子 真(ポートレート)、宇田川淳(時計)
  • 文:笠木恵司

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老舗時計メゾン、ヴァシュロン・コンスタンタンが日本正式上陸から100周年を迎えました。今秋、来日したキーパーソンふたりに、メゾンの現在と未来について話を聞きました。

1755年創業のヴァシュロン・コンスタンタンはスイスでも最老舗とされる歴史ある時計メゾンです。1917年に貿易会社のシイベルヘグナー社に日本での独占販売権を委任、日本に正式上陸を果たすことになって、2017年でちょうど100周年を迎えました。この記念年を祝して「トラディショナル」の限定モデルを発売するのみならず、今秋にはルイ・フェルラ新CEOらが、ジュネーヴ本社から来日を行いました。近年、世界いち複雑な時計を発表したり、人気モデルオーヴァーシーズのリニューアルを行ったり、多方面で積極的な展開を行っているヴァシュロン・コンスタンタンですが、新CEOにとってその姿はいかなるように見えているのでしょうか。貴重なインタビューをお届けしましょう。

「日本は歴史的にも、そしてこれからも大切な市場です」

ルイ・フェルラ( Louis Ferla、ヴァシュロン・コンスタンタンCEO)●2001年リシュモングループに入社。アルフレッド・ダンヒル、カルティエなどを経て16年からヴァシュロン・コンスタンタンに参加。17年4月から現職。海外経験も豊富。

「ヴァシュロン・コンスタンタンにとって、日本は歴史的にも、そしてこれからも、非常に大切な市場です」と語るフェルラCEO。まずは日本の印象を聞いてみました。

「日本は美しい国であり、文化的にも洗練されています。それだけに美に対しても鋭い感性をもっています。だからこそ、私たちの時計づくりを理解して、密接な関係をつくっていくことができるのではないでしょうか」

これは決してお世辞ではなく、実際にヴァシュロン・コンスタンタンは上陸当初から、日本の顧客からのさまざまな要望に応えて特別な仕上げなどを行ってきたのです。薄型のケースや細身のベゼル、さらには「ジャパニーズ・スタイル文字盤」と呼称されるモデルの記録が残っており、他の市場向けの時計にも大きな影響を与えたそうです。

「そうした歴史を踏まえて私たちの個性を説明するなら、フランス語でコノエサー(connoisseur)、つまり時計の目利き、愛好家向けのメゾンです。見た目はシンプルかもしれませんが、ムーブメントも含めディテールにはていねいに手をかけており、きわめて複雑。それを理解いただける感性や知識を備えた時計通の皆さんに高く評価されるメゾンであり続けたいのです」

こうしたコノエサーとメゾンとの深い関係を端的に象徴するのが、時計のビスポーク(特別注文)である「レ・キャビノティエ」といえるでしょう。たとえば2015年には、ある顧客のオーダーによって裏表合計で31本の針をもち57もの機能を備えた懐中時計が製作され、これが現在における「史上最も複雑な機械式時計」となりました。

「レ・キャビノティエの時計にはそれぞれ興味深いストーリーが隠されています。ただ、これからはお客様の要望だけでなく、メゾン主導のモデルもつくっていきたい。1年に30本程度のユニークピースをご提案します」

その一方で、昨年リニューアルされた「オーヴァーシーズ」もエレガントなスポーツモデルとして高い人気を誇ります。

「お客様の要望は多彩になってきたのです。私たちはエクスクルーシヴで革新的、伝統的な卓越性を追求しながら、そのニーズに応えていくつもりです」とフェルラ氏。これからの100年に向けてどんな新作が登場するのか、興味と期待は尽きません。

タイムレスでクラシカルなディテールをもつ薄型の手巻きモデル。スレートカラーのダイヤルに繊細な手彫りギョーシェ。上品な佇まいのダイヤルの外周には、秘かに「Japan 100 years limited edition」のサイン。「トラディショナル 日本100周年記念モデル」18Kホワイトゴールド、ケース径38㎜、日本限定75本。¥2,997,000(税込)

「ずっと変わらない特徴は、控えめなエレガンス」

クリスチャン・セルモニ(Christian Selmoni、スタイル・アンド・ヘリテージ・ディレクター)●1959年スイス生まれ。ヴァレ・ド・ジュウの時計職人一家に育ち、90年にヴァシュロン・コンスタンタン入社。2010年アーティスティックディレクター就任、2017年スタイル・アンド・ヘリテージ・ディレクター就任。

CEOとともに来日を果たしたのが、ブランドの重要なキーパーソンであるクリスチャン・セルモニです。ヴァシュロン・コンスタンタンで20年以上商品開発を努め、現在はスタイル・アンド・ヘリテージ・ディレクターというユニークな肩書きをもつ彼は「新商品を開発する際、ヘリテージを意識することでブランドのアイデンティティを強化したり、ブランドの認知度を高めて理解を深めていくためにヘリテージを活用したり。そういったことを考えています」と、その役割を説明してくれました。入社から27年を数え、時計づくりの中枢に長く関わってきた彼に、肌で感じてきたブランドの特徴について聞きました。

「ヴァシュロン・コンスタンタンはご存じのとおり1755年から存在する、オートオルロジュリーのマニュファクチュールをもつ最古のメゾンです。これだけの歴史に支えられ、最高級の品質をずっと追求してきていたこと。それが、このブランドならではの特徴です。そして、ずっと変わらずにあるのが『エレガンス』ということです。どの商品にも必ず存在し、けれども前面に出ることはない。控えめなものとしてあるのです」

昨年リニューアルした「オーヴァーシーズ」は、セルモニがアーティスティックディレクターとして深く関わったコレクションです。彼のいう “エレガンス”は、特にシンプルなモデルで追究されているそうです。現在のヴァシュロン・コンスタンタンは、このオーヴァーシーズに象徴される、日常づかいにふさわしいシンプルな時計で評価を得ると同時に、時計の限界に挑むような複雑時計においてもハイペースで新作を発表しています。2005年にセルモニは、そうしたブランドの現在に繋がる重要な時計を手がけました。

「トゥール・ド・リル、16のコンプリケーションが搭載されたダブルフェイスの腕時計です。ブランドの創設250周年記念モデルとして製作され、当時もっとも複雑な腕時計となりました。この時計によって、われわれはオートオルロジュリーを究めるブランドという立ち位置を固めましたし、実際にそれ以降、トランポリンに乗ったようにハイコンプリケーション時計の開発が続きました。その第1段である企画に携われたことを、個人的にも光栄に思っています」

「今後、ポイントになる二つの戦略は、女性向けのラインナップ、そしてミドルコンプリケーション。日本語でプチコンプリケーションのラインナップを増やすことです。また、私自身がこういった新しいポジションになって分かったのですが、ヴァシュロン・コンスタンタンの認知度を高めて理解を深めていくために、これまでの歴史とのつながりを、より的確にお客様にアピールしていくことが必要なのではないでしょうか」

ヴァシュロン・コンスタンタンという稀有なブランドのヘリテージと、優れた時計づくりのノウハウを知り尽くしたセルモニ。その役割は、これからますます重要になっていくに違いありません。

2014年に日本初の直営店としてオープン。銀座のメインストリートに面している。希少なヘリテージピースの展示会など、直営店ならではのイベントも実施される。
2階は落ち着いた内装のサロンのような雰囲気。ブティック限定モデルなどを、じっくり選ぶことができる。

ヴァシュロン・コンスタンタン銀座ブティック 
東京都中央区銀座 7-8-8 
TEL:0120-63-1755
営業時間:12時~20時(月~金) 11時~20時(土) 11時~19時(日・祝) 
無休(年末年始をのぞく)

●問い合わせ先/ヴァシュロン・コンスタンタン TEL:0120-63-1755 www.vacheron-constantin.com