「セイコー プレザージュ」の腕時計に息づく日本の伝統技術を、職人と芸人で小説家の又吉直樹さんとの対談からひも解くシリーズ。第2回は、漆ダイヤルの魅力を語り合ってもらいます。
100年を超える時計づくりの伝統を受け継ぐ「セイコー プレザージュ」。日本の優れた伝統工芸を取り入れ、伝統と先端技術との融合を意欲的に行ったモデルを展開しています。今回紹介する漆ダイヤルモデルもそのひとつ。漆芸家で加賀蒔絵師の田村一舟(いっしゅう)さんが監修した漆の文字盤は、独特の艶と奥行きのある漆黒の色合いが魅力です。
縄文時代から受け継がれる、日本ならではの伝統工芸。
「普通の黒とは明らかに異なる、この黒色には特別な魅力がありますね」と語る、芸人で小説家の又吉直樹さん。漆ダイヤルの腕時計を手にして、まずその質感に心惹かれたようです。
田村一舟(以下、田村) 漆を何度も塗り重ねていくことで深みが出て、吸い込まれていくような黒色になります。漆の歴史は、わかっている範囲でも9000年前の縄文時代にまで遡るのですが、この漆黒という色合いは日本ならではの伝統的な色と言えます。
又吉直樹(以下、又吉) 見た目の美しさ以外にも必然性があるのですか?
田村 通常の塗料は塗った時から劣化が始まるのですが、漆はしだいに硬くなって耐久性が増していき、腐敗にも強くなる。だから当初は木の器、つまり漆器に用いられ、戦国時代には甲冑や馬具など、金属や革の強度を高めるためにも使われていました。
又吉 漆は植物の樹液を用いたものですから、その生命力の強さを感じます。植物の命の流れが、漆として塗られた後も続いているわけですね。
田村 漆塗りの製品には、それを後世まで残したいという願いが込められていると思います。私もこの漆ダイヤルモデルは、長く使っていただきたいという気持ちで携わっています。
又吉 未来への思いをつなぐ漆が、時を刻む時計と結び付いたということですね。とても興味深い話です。
繰り返すことで高められる、モノづくりのクオリティ
漆塗りは、塗りと研ぎを幾度も繰り返して仕上げられます。きわめて繊細な工程の一つひとつは、すべてが職人の手作業で行われるのです。さらに独特の艶と深みを出しつつも、針の動きを妨げない厚みに仕上げるためには、非常に高度な技術が必要となります。又吉さんはその技にも興味をもったようです。
又吉 色を重ねていく作業は、小説を書くことに似ていますね。初めに書いたものが重層的に仕上がっていることもありますが、基本的には推敲を重ねて密度を高めていく。漆塗りでいちばん気を使うところはなんですか?
田村 塗りの工程ですね。漆は気温や湿度によって乾き具合が違ってくるので、それを見極めることが大切です。乾燥しているほうがよく乾くと思われがちですが、漆は水分の蒸発ではなく、空気中の水分を取り込むことで乾きます。だから、湿気のある梅雨時のほうが乾きやすかったりするんですよ。
又吉 不思議な特性ですね。
田村 またこの漆ダイヤルに関しては、文字盤として使うために漆の厚みを0.1mmに抑えなければならない。塗りと研ぎを重ねて、正確にその数値に収めることが難しかったですね。でも私は、困難な仕事ほどやりがいを感じて楽しくなる。作業をしていて技量が極端に上がる瞬間があるのですが、今回もそれを感じることができました。
又吉 それはとても共感しますね。私は小説を書き始めて4年ぐらいですが、書けば書くほどよくなるし、もっとよくしたいと思っています。無駄を削ぎ落として、最小限の要素で最高の表現ができるように。かといってダラダラ考えていてもよくない。料理でも1回火を止めてしまうとおいしくならないように、ひらめきや勢いも大切です。漆塗りも同じなんだと思います。
文字盤に込められた匠の技に、又吉さんは同じクリエイターとして深く感じるものがあったようです。
セイコー プレザージュ 漆ダイヤルモデル
奥行きを感じさせる艶やかな漆黒のダイヤルは、白色のインデックスと金色の針とのコントラストが美しい。文字盤はセイコー初の懐中時計「タイムキーパー」のローマレイアウトを継承。金色の糸をアクセントにした黒革ストラップが、その完成度をさらに高めている。
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