「セイコー プレザージュ」の腕時計に息づく日本の伝統技術を、職人と芸人で小説家の又吉直樹さんとの対談からひも解くシリーズ。第1回は、琺瑯(ほうろう)ダイヤルの魅力に迫ります。
日本ならではの匠の技や美意識、豊かな精神性を表現した時計づくりを行っている「セイコー プレザージュ」。このシリーズでは、「琺瑯」「漆」「有田焼」など日本の伝統的な技法を文字盤に採用したモデルの魅力を、それぞれ手がけた職人の方と芸人で小説家の又吉直樹さんとの対談を通してひも解いていきます。
耐久性に優れ美しい、日用品にも使われていた伝統技術。
日本の職人技を取り入れ、100年を超える時計づくりの伝統と先端技術を融合させたセイコー プレザージュ。日本屈指の琺瑯職人である横澤満さんが手がけたモデルも、まさしくそのひとつです。1913年にセイコーが発売した国産初の腕時計「ローレル」に用いられていた琺瑯ダイヤルを匠の技で蘇らせ、100年経っても色褪せないと言われるモデルに仕上げています。果たしてそんな横澤さんと又吉直樹さんの感性は、同じクリエイターとしてどう響き合うのでしょうか。
又吉直樹(以下、又吉) 琺瑯を腕時計の文字盤に採用するというのは初めて聞きましたが、そもそも琺瑯自体は日本古来のものなのですか?
横澤 満(以下、横澤) 琺瑯の歴史は非常に古く、ヨーロッパから伝わり、明治になって本格的に製造されたと言われています。現在は建築物の壁面や、調理器具やバスタブといった日用品によく使われています。
又吉 どの家庭にもある、身近な存在ということですね。それを腕時計に用いたわけですが、文字盤と言えばいちばん目立つ部分ですよね。
横澤 琺瑯自体は耐久性に優れた素材なのですが、腕時計のダイヤルは直径3cm程度と非常に小さく、厚みなどにも制約があります。厚みにバラツキがあると針の動きを妨げることがあるので、塗布面の適正な厚さを見極め、0.01mm単位で仕上がりを調節しなくてはなりません。そうした制約をクリアすることで、琺瑯独特のやわらかい光沢や温かみが生まれます。
又吉 こうして腕時計を手に取って間近で見ると、光の当たり方によって表情が移ろい、変わっていくところが着物の生地のようで面白いですね。
アートとプロダクト、二面性を併せもつモノづくり。
琺瑯の大まかな製造工程は、まず不純物の少ない粘土とガラスを用いた釉薬を金属素材に塗り、それから高温焼成を行います。又吉さんは、繊細さを要するその工程に興味をもったようです。
又吉 その0.01mm単位の仕上がりは、どうやって調節するのですか?
横澤 被膜の厚さは、釉薬の調合や塗布時に使用するスプレーガンの噴射距離で調整します。薄いと色が出ず、厚いと針が回らない。気候で釉薬の付き方が変わるので、手作業で調整します。
又吉 手作業ということは、厳密に言うと個体差もあるのですか?
横澤 昔の焼き物なら個体差は魅力として受け入れられました。しかし腕時計のような精密機器はそうはいかないので、試行錯誤を繰り返しました。
又吉 焼き物というアートとしての魅力を提供する一方で、クオリティを維持しなければならない。その二面性が興味深いですね。クリエイターからすると同じモノをつくることは、アートから離れる行為と思われがちです。でも横澤さんは、同じモノを仕上げるために毎回違うことをやっている。
横澤 おっしゃる通りです。
又吉 気候や体調といった変化していくものに対応して同じ精度を保つためには、違うことをやり続けなくてはならない。そう考えると横澤さんがこの腕時計で表現していることは、アートより難しいものかもしれません。また横澤さんの技術は、後継者にどう受け継ぐのかも大切ですよね。
横澤 はい。知識はもちろんですが、長年の経験による“勘”が必要です。
又吉 僕は特別な技術というのは、人と切り離せないものだと思います。横澤さんの技術を数値化できても、それを渡すだけでは再現できない。それだけ繊細なものだからこそ、後世に残す価値があるのではないでしょうか。
どうやら又吉さんは、文字盤を介して受け継がれるべき伝統技術に、心を動かされたようです。
セイコー プレザージュ 琺瑯ダイヤルモデル
1913年、セイコーが発売した国産初の腕時計「ローレル」に用いられていた琺瑯ダイヤルを採用。文字盤はセイコー初の懐中時計「タイムキーパー」のローマレイアウトを継承している。
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