歴史的名品を次世代に伝える、「セイコー プロスペックス」のデザイン

  • 写真:岡村昌宏(CROSSOVER)
  • 文:まつあみ靖

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冒険家・植村直己に愛されたセイコーダイバーズウォッチの意匠を継承する「LXライン」。ブランドアドバイザー・奥山清行が、デザイン哲学を語る。

視認性、機能性をプレミアム感へと昇華。セラミックの表示板を配した逆回転防止ベゼルと、300m飽和潜水用防水、セイコー独自の表面加工技術を施したチタンケースを備える本格仕様のダイバーズウォッチ。シンプルで視認性の高いデザインの文字盤には、7時半位置に約72時間のパワーリザーブ表示を配した。セイコー プロスペックス「LXライン」SBDB027。自動巻きスプリングドライブ キャリバー5R65搭載、チタンケース&ブレスレット、ケース径44.8mm。セイコー ウォッチサロンのみでの取り扱い。¥693,000(税込)

1965年、セイコーは国産初となるダイバーズウォッチを発売した。当時としては画期的な150mの防水性を備え、南極の過酷な環境でも使用されるなど、信頼性の高さを誇った。以来、半世紀以上にわたりセイコーは本格機能スポーツウォッチを進化させてきた。そのヘリテージを受け継ぐセイコー プロスペックスの最高峰シリーズが「LX(ルクス)ライン」である。陸・海・空の3つのフィールドを横断する、このハイエンドコレクションのために、グローバルに活躍する工業デザイナー奥山清行が、ブランドアドバイザーに起用された。

奥山は、ブランディングやトータルなビジネスプロジェクトという幅広い視点の中でデザインを捉え、大きな実績を挙げてきた人物。このセイコー プロスペックス「LXライン」では、どのような方向が目指されたのか。

継承されてきたデザインに、 さり気ない変化を込める。

奥山清行●工業デザイナー。1959年、山形県生まれ。GM、ポルシェを経て、ピニンファリーナへ。イタリア人以外で初めてフェラーリのデザインを手がける。2007年にKEN OKUYAMA DESIGN設立。

「デザインや機能をいかに継承し、いかに進化させるかがテーマでした。もともとセイコーの陸・海・空を意識したスポーツウォッチは別々のケースデザインでしたが、同じストーリーで基本的なデザインを揃えました。もちろん、陸・海・空では要求される機能が違うので、回転ベゼルの素材や構造、ケースの厚み、インデックスやダイヤルデザインも異なります。それでいながら、LXラインというブランドとして、一体化されたストーリーを提供したいと考えたのです」

「LX」とは、光を意味するラテン語に由来するが、ブランドストーリー構築上も「光」が重要な役割を担った。

ルミブライトを塗布した太い針とインデックスにより高い視認性を確保している。

「セイコーには、高い精度で歪みのない鏡面に仕上げるザラツ研磨の技術があります。これを用いたセイコーのハイエンドモデルは、離れた場所からでも、その煌めきに気づくほど。このザラツ研磨による鏡面がケース外周を取り巻くデザインにしました。光の当たり方を考慮して面を上向きにしたり、全体の面構成もシンプルに変えたりしています。セイコーの魅力は何かと考えたとき、カタチには大きく手を加えず、素材や光り方を考えるべきではないかと思ったのです。日本のデザインや文化では、あっさりとした中にどこか違う佇まいを潜ませたりする。何気ないのに、よく見ると違うという美意識がある。LXラインも要素を減らしてシンプル化し、骨太にした。また重心を低く設計し、装着感を高めました。そうして5m先からでもわかる存在感を放つ時計を目指したのです」

セイコーが得意とする「ザラツ研磨」によって鏡面に仕上げたラインが目を引く。

スプリングドライブムーブメントを搭載したことも重要だ。ゼンマイを動力源として輪列で駆動しながら、水晶振動子とIC制御によりクォーツと同等の高精度を実現した、セイコー独自の技術の結晶というべきものだ。

「どんなムーブメントを搭載すべきか、かなり議論しました。やはりヘリテージの中で譲れないのは精度だろうと。また技術力を象徴し、海外での認知度の高さなどから、最終的にスプリングドライブに決めました。LXラインにセイコーの良心というべき価値を盛り込み、それを明確に伝えていくのが、僕らのデザインでありストラテジーでもあるのです」

切り込みを深くしたベゼル凸部は、上面をヘアライン、下面をポリッシュで仕上げ分けた。

長く残っていくような、“本物の”デザインを目指す。

冒険家・植村直己 photo:文藝春秋

セイコー プロスペックス「LXライン」のルーツをたどると、1968年に発表されたダイバーズウォッチに行き着く。これは前述した65年の国産初のダイバーズウォッチに次ぐもので、10振動のハイビートキャリバーを搭載し、防水性も300mに向上。4時位置のリューズが特徴である。70年5月11日、冒険家・植村直己が日本人として初めてのエベレスト登頂を成し遂げた際、このモデルを携行していたことがいまも語り継がれている。

「LXライン」は、このモデルをベースに、継承・進化を目指したものだが、セイコー担当者との議論の中で、奥山が気づかされたセイコーの製品哲学もあった。たとえばセイコーのダイバーズウォッチでは、ブレスレットを取り付けるバーをはめ込む穴が、ラグの裏から表まで貫通している。当初奥山は、この穴を貫通させる必要はないのではと主張した。しかしーー。

「塩水が凝固してピンが取れなくなることを避けるため、双方向から外せるようにするという社内規定があった。それについてかなり議論しましたが、これがセイコーのよさなんだと気づき、穴を残しました。セイコー社内で定めたダイバーズウォッチの規格が、後に国際的な規格のベースになったぐらい、セイコーは真摯な取り組みを続けてきた。それも守るべき企業文化ではないかと思ったんです」

セイコー プロスペックス「LXライン」の着想源となった、1968年ダイバーズウォッチのスケッチ。LXラインと見比べると、デザインの核となる要素に大きな変更はなく、継承されたディテールが顕著に見て取れる。

奥山は、世界初のクォーツ腕時計「クォーツアストロン」の開発を推進した元セイコーエプソン社長、故中村恒也との出会いをよく記憶している。

「ある方の紹介でご自宅にお邪魔した際、時計のデザインや判断基準について、いろいろ教えてくださいました。たとえば『主役は針だ、ダイヤルは舞台だ、だから主役の邪魔をするような舞台をつくってはいけない』とか、『シンプルでマット仕上げのダイヤルがいちばんいい』とか。日本のものづくりに欠けている“なぜ”を常に問う人でした。僕もイタリアでカーデザインに携わっていた時代、『なぜその機能を搭載するのか?』『なぜそれがそこになければならないのか?』と常に周囲から問われ続けていました。僕は、素材を素材らしく見せ、一本筋の通ったデザインだけが次世代に残ると信じています。腕時計のデザインについても同じです。ただ、その時代ごとのライフスタイルに合わせた変化をしなくては残っていけない。ヴィンテージを振り返りながら、次の世代のための新しいもの、つまり将来のヴィンテージになっていくものを目指さなくてはならないのです。未来に続くような、基本がしっかりした正直で本物のデザインが欲しいと思っています」

セイコー プロスペックス「LXライン」には、そんな奥山のデザイン哲学とセイコーのヘリテージが、しっかりと息づいている。

左:タフな使用を想定した、チタン素材の“陸”モデル。簡易方位計つき双方向回転ベゼルを備えた“陸”仕様モデル。厚みをもたせたチタンの武骨な佇まい。ブラックダイヤルとのコントラストが印象的な黄色の針によるGMT表示機能を装備。セイコー プロスペックス「LXライン」SBDB029。自動巻きスプリングドライブ キャリバー5R66搭載、セイコー独自の表面加工技術を施したチタンケース&ブレスレット、ケース径44.8mm、20気圧防水。セイコー ウォッチサロンのみでの取り扱い。¥583,000(税込) 右:黒と青にベゼルを彩った、空を感じさせるモデル。赤い針のGMT表示機能に加え、24時間表示つき回転ベゼルを操作することで、3つの時間に対応。ベゼルのブラック&ブルーのカラーリングやブルーダイヤルも目を引く。セイコー プロスペックス「 LXライン」SBDB031。自動巻きスプリングドライブ キャリバー5R66搭載、セイコー独自の表面加工技術を施したチタンケース&ブレスレット、ケース径44.8mm、10気圧防水、サファイアクリスタル風防。セイコーウォッチサロンのみでの取り扱い。¥638,000(税込)

問い合わせ先/セイコーウオッチお客様相談室
TEL:0120-061-012(土・日・祝を除く9時30分~17時30分まで受付)

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