パンテオングリルも橫に広がるデザインとなったのが特徴的。
いま、クルマ業界で世界中のラグジュリーブランドが、共通して目指していることがある。ユーザーの若返りだ。いわゆる高級ブランドでは、ユーザーの平均年齢が50歳を超えている。少し前でも、たとえば「ポルシェ911」に乗るのは、ふところに余裕ができた年配者の特権などといわれたものである。いまはどのブランドも、30代まで平均年齢が若返ることを目指してている。ロールス・ロイスも例にもれない。そのため、ゴーストのモデルチェンジよりひと足先に、ブランドロゴの刷新を行った。これもクルマのジャーナリズムの世界では大いに驚かれたできごとだった。
サイドビュー。ショートデッキ(トランクが短く見える)デザインで、スポーティな雰囲気が強調されている。
ロールス・ロイスは、このところ着実に”目標”に近づいており、現在のユーザーの平均年齢は43歳。
「いまこそ、私たちのブランドイメージの若返りを反映するタイミングだと思います。新しい購買層の年齢、その人たちのライフスタイル、そしてその人たちが好むラグジュリーな世界を、うまく私たちが取り込むときなのです」と、ロールス・ロイス・モーターカーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュ最高経営責任者は語る。思い出すのは、2019年に公開された「ファントム」のプロモーションフィルムだ。登場したのは、グェンドリン・クリスティ。英国を中心に高い人気を集めたTVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」の主演女優である。クリスティがファントムを縦横無尽にドライブ、ファントムは泥まみれになったりする。従来にないイメージだ。これはかなり好評だったそうで、ロールス・ロイスの狙いは当たったということだろう。
日光の試乗会場の駐車場に並べられたゴースト。車体色でだいぶ印象が異なるのがわかる。
若い層の獲得に成功しているのは、ちょっとワルなイメージで仕立てた「ブラックバッジ」というモデルに負うところが大きい。「ロールス・ロイスのオールター・エゴ(もうひとつの自我)」と、先のミュラー=エトヴェシュ氏は定義する。クーペの「レイス」やSUVの「カリナン」に設定されており、そのうちゴーストに登場してもおかしくない。並行するかのように、ロールス・ロイスは2020年8月に、英のデザインファーム「ペンタグラム」の手による新しいロゴを導入。選ばれた書体は「リビエラナイツ」といい、英国の有名なタイポグラファー、エリック・ギルによる「ギル・サン・オルト」の流れを汲んだものと説明される。注目点は「Motor Cars」の扱いがうんと小さくなったこと。「モーターカーカンパニーではなく、ハウス・オブ・ラグジュリーになる」と同社の”宣言”を受けたものと解釈できるのだ。
羽根を広げた精霊を表す、「スピリット・オブ・エクスタシー」「フライングレディ」など称されるマスコットも新たにデザインされた。
Instagramアプリ内での新ロゴ。左上に位置する場合を想定し、デザインが最適化されている。
マリナー・ウィラー氏ひきいるペンタグラムのチームでは、「スピリット・オブ・エクスタシー」とか「フライングレディ」と呼ばれるラジエターマスコットの二次元デザイン変更も手がけた。シンプルな描画となり、同時に、顔の向きが従来は左を向いていたものが、新デザインでは右向きに変えられた。理由は、タブレットをはじめスマート端末のアプリケーション開発をこれから積極的に行っていくとするロールス・ロイスの戦略ゆえだ。左上に置かれるアイコンとしては、右に顔を向けているのが自然なのである。「デジタルネイティブ(デジタル技術とともに育ってきた層)へのアピールを、スマート端末などを活用して積極的に展開していく」(ロールス・ロイスのブランドイメージ担当者)ための施策と説明されている。
従来の「世界で最も豪華でぜいたくなクルマ」という路線も守っていかなくてはならないロールス・ロイス。一方で、今回のゴーストをはじめ、SUVのカリナンや若い富裕層へアピールをはかる「ブラックバッジモデル」の拡充、さらに今後出てくるであろう新世代のクーペモデルなど、大きく変わる部分が増えていくのは確実だ。とある老舗のオーナーは「守るとは変わること」と言っていた。生き残りをかけ変わっていこうとしているロールス・ロイス、これからを見ていくのが楽しみだ。