スポーツカーの未来が見えた! ポルシェ初のEV「タイカン」試乗レポート

  • 文:小川フミオ 写真提供:ポルシェジャパン

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ポルシェから初のEVとして公式発表された「タイカン」がいよいよ日本への上陸を開始した。12月の京都で行われたプレス試乗会をレポート。気になるその乗り味はいかに?

従来のデザイン文法を踏襲しながらも、新しさを感じさせるフロントビュー。4つのLEDがひとつのケーシングに入ったヘッドランプは、ポルシェファミリーのアイデンティティである。

EV市場が世界中で急速に拡大するなかで、ポルシェ初のEVとして鳴り物入りで発表された「タイカン」の日本上陸がいよいよ始まった。スポーツカーの雄として、その動向が常に注目を集めるポルシェ。パワフルなモーターを前後輪に1基ずつ得たスペックに走りへの期待が高まるが、伝統といえる世界の魅力は失われていないだろうか? 多くのファンが気になるその乗り味をレポートする。

ポルシェの名が相応しい、素晴らしきドライブ体験。

フロントにエンジンを搭載しないタイカンは、ノーズ高がうんと低いのが特徴的だ。

You Really Got Me──  英国のロックバンド、ザ・キンクスが1964年に全英チャート1位に送りこんだ、元気あふれる楽曲とともに始まる「ポルシェ・タイカン」のプロモーションビデオは、実に印象的だった。

きみに夢中で、ぼくはなにをしていいかわからないというレイ・デイビスの歌声を背景に登場する、ポルシェ初のEVスポーツセダン。注目点は、スタイリッシュで速いこと。速いだけでない。ポルシェの名をもつのも納得の、すばらしいドライビング体験を提供してくれるのだ。

ホイールハウスまわりで整流効果を発揮する縦型のスリットと、ヘッドランプのケーシングが一体化。
21インチのリム径を持つ大径ホイールにセラミックブレーキの組合せはなんともぜいたく。

現在のポルシェのラインナップの特徴になっている4灯式のLEDヘッドランプを備え、ランプのケーシングの下には「エアカーテン」。前輪のホイールハウスまわりで空気の乱流が起きて空力性能が落ちるのを防ぐため、整流効果を発揮する縦型のスリットだ。これがタイカン独特のフロントマスクを生み出している。バッテリーからの電圧と周波数を一定に保つインバーター用の冷却気を採り入れる開口部はバンパー下に。それによって、フロントに大きなラジエーターグリルをもたないポルシェ911と通じるスタイリングアイデンティティが生まれている。

本来ターボチャージャーは、排ガスの圧力を利用してタービンを回し、吸気を高圧に圧縮して出力を上げるシステムだが、タイカンでは象徴的な意味として使われる。

2019年11月に発表されたタイカン。日本では20年6月に発売され、この12月にプレス試乗会が京都で開催された。2025年までに生産する車両のうち半数をピュアEVとハイブリッドにする計画を発表しているポルシェにとって、マーケットの探り針になるモデルといえる。

EV専用のシャシーに大容量のバッテリーを搭載。前輪用と後輪用に1基ずつモーターを備える4輪駆動である。日本には最高出力460kW、最大トルク1050Nmの「ターボS」、460kW・850Nmの「ターボ」、そして320kW・620Nmの「4S」が揃う布陣だ。

期待を裏切らない内装と、見たことのないディテール

しっとりした革張りのシート、スウェードレザーが巻かれ、しっかり握れるステアリングホイールと、スポーティな仕上げになっている。

「ポルシェが期待されるのはスポーツカー」とポルシェの役員が口にするくらい、全長5mの4ドアセダンタイプであるタイカンでも、ウィンドウグラフィクスは911を強く意識したもの。内装も同様にスポーティだ。太いグリップ径の革巻きステアリングホイールや、身体をしっかり支えてくれるスポーツシートを見れば、このクルマがどういう目的のもとに開発されたか、一瞬でわかるといっていいだろう。触れると手のひらに吸い付くようなレザー張りの仕様もあれば、昨今の高級車のトレンドを反映して本革を排除したレザーフリーパッケージを選ぶことも可能だ。その点はスポーツモデルとして新しさを感じる。

液晶をつかったフルデジタルの計器盤は視認性に優れ、かつその造形は審美的にもレベルが高い。
センターコンソール上の8.4インチの液晶タッチスクリーンで車両の情報がみられる上、ここからもインフォテイメントシステムの操作が行える。

一方で、これまで見たことのないディテールもいろいろ見つかる。ひとつは凹凸がなく、単に表面全体が湾曲しているだけのTFT液晶パネルを使った計器盤。ここに速度はもちろん、バッテリーの残量や道路地図が表示される。加えてダッシュボードには10.9インチの液晶ディスプレイが二つ。いずれもインフォテイメントシステム用で、ひとつはドライバー、もうひとつは助手席の乗員が音楽再生やナビゲーションシステムを操作するようになっているのだ。

充電口は車体側面、フロントフェンダー上の左右同じ場所に設けられている。
普通充電に加え、CHAdeMOによる急速充電にも対応する。

朝晩の空気がぴりっと肌を刺激する京都のさわやかな冷気のなか、最初はもっともパワフルな「ターボS」、次にベースモデルの「4S」で、比叡山や嵐山の屈曲路を楽しませてもらった。

加速がいいだけではない。驚くほどよく曲がる。そして、信じられないほどブレーキが効く。ターボSは、いってみれば走りのためのフル装備。路面状況や走りによってサスペンションを調節する機構をはじめ、車体のロールを最適制御するシステム、後輪を操舵して小回りを効かせるシステム、さらにブレーキを自動で操作してカーブで車体がふくらむのを抑えるシステムなど搭載。はたして、直線でもカーブでもとにかく速かった。

街中でも楽しめるという、ポルシェの基本は守られている。

ほとんど「天井いっぱい」というくらい大きなパノラマガラスルーフ(オプション)は、Low-E(低放射)複層ガラスによって高い耐熱性と遮熱性を備える。

ターボSは静止から時速100キロまで2.8秒で加速するだけあって、ロケットのようなスピードを誇るモデルだった。バッテリーを車体のもっとも低いところに積むことで、操縦安定性のために重要な低重心化を実現。重いバッテリーを搭載するEVの特徴を利点として活かしている。とにかく走りを楽しみたいひとは、911と同様、ターボSがいいだろう。いやフツウの911でじゅうぶん、というなら、4Sをお勧めする。性能が少しマイルドであり、乗り味も相応にしなやか。これがなかなか好ましい。4Sを選ぶ際のお勧めオプションがひとつある。ターボSと同等の性能を発揮する「パフォーマンスバッテリープラス」だ。これがよく合う。

後席にも大人ふたりが座っていられる余裕あるスペースが設けられているが、快適なのはやはりフロントシートだ。
低い位置にモーターが設置されているのでフロントには大きな荷室スペースが設けられている。

じつはタイカンのよさはもうひとつ。街中でも楽しめるところだ。走行スピードがごく低速でもスポーツカー、というのがポルシェを代表する911の特徴。タイカンも同様である。たとえば時速30キロで京都の寺町通りを走っても、ステアリングホイールへの応答性や、アクセルペダルを踏んだときの加速、そして自分の神経と直結しているように繊細に働くブレーキの素晴らしさはしっかり体感できる。ポルシェに乗ると、スポーツカーとは、どんな速度でも楽しめるクルマなのだと知れる。タイカンは電気モーターによる加速性に新しさがあっても、基本はポルシェのありかたに忠実なのだ。

タイカンのリアビュー。ウィンドウグラフィクスは911を強く意識したデザインになっているのが特徴的。

タイカンの航続距離は、すべてのグレードで400kmを越える。とくにターボでは450kmだ。電池の電圧が800V(通常は日産リーフなど400V)なので、短時間の充電が可能である。ポルシェジャパンは「ターボチャージャー」なる高速充電器を備えた専用充電ステーションを全国で展開中。液冷式ケーブルを使うため効率がよく、150kWと国内最速。80%の充電を24分で済ませるという。

もうひとつ、おもしろい話を試乗会で聞いた。航続距離が長いため、あまり距離を走らない人は、自宅に充電器を置かなくても、1カ月に1回程度充電ステーションに足を運べば事足りるそうだ。そう考えると、よりEVが身近になる気がする。

ポルシェ・タイカン・ターボS
●サイズ(全長×全幅×全高):4963×1966×1378mm
●動力形式:電気モーター×2
●最高出力:460kW
●最大トルク:1050Nm
●駆動方式:全輪駆動
●車両価格:¥24,541,000