オメガは今年、あるキャリバーの誕生125周年を祝っています。その名も「19 ライン キャリバー」、通称”オメガ キャリバー”と呼ばれる、その後の時計づくりの歴史を一変させた世紀の大発明でした。19 ライン キャリバーの革新性とは何だったのか? 社名にもなったキャリバーの誕生に迫ります。
スイスのビエンヌ(ビール)に、世界有数の時計ブランド、オメガの本社があります。そこに隣接するオメガミュージアムでこの1月22日、1つの腕時計が披露されました。「デ・ヴィル トレゾア 125周年記念モデル」。赤い文字盤が印象的なだけでなく、様々な趣向を秘めた時計です。そしてもうひとつ、クラシックなポケットウォッチの制作も発表されました。この2つのスペシャルピースが、“オメガ”の名称の由来の「125周年」をめぐる物語をひも解くカギといえます。
世界有数の時計ブランドの名は、あるキャリバーから始まった。
時計製造で知られる街であるスイスのラ・ショー・ド・フォンで、後のオメガが創業したのは1848年のこと。そう、オメガはすでに、170年以上の歴史をもつブランドなのです。創業者はまだ23歳だった若い時計師、ルイ・ブラン。多くの同業者がそうであったように、彼は自分の名前を時計のブランドネームとしていました。ルイの息子であるルイ・ポールとセザールも時計師の道に進み、会社の名は「ルイ・ブラン&フィス(息子)」「ルイ・ブラン&フレール(兄弟)」社へと変遷していきます。そして1894年、発展をつづける会社は、重要なマイルストーンとなる節目を迎えました。それがルイ・ポールとセザール・ブランによる偉大な発明、「19 ライン キャリバー」です。
「19 ライン キャリバー」は、時計業界に初めて登場した、高品質かつ均質なムーブメントといえるかもしれません。1879年に創業者のルイ・ブランが没した後、事業を継承していたルイ・ポールと、遅れて参加したセザール・ブランの兄弟は、会社を工場ごと、創業地のラ・ショー・ド・フォンからビエンヌに移しました。ドイツ語圏との境目にあり、独仏語両方が話されるビエンヌは、今日でも精密工学機器の製造で知られる街です。進取の気質に富んだこのバイリンガル都市で、未来志向の工場が竣工したのは1892年。それまでの手工業的な方法から進化し、分業化による新世代の時計づくりを志向しました。その完成形のムーブメントが「19 ライン キャリバー」なのです。
「19 ライン キャリバー」は、徹底的な分業化によって高精度・高性能、均等な高品質、そして生産量を確保できる、従来では考えられない特長をもっていました。また現在の腕時計と同様に巻き上げと時刻合わせをひとつのリューズで行えるシステム、修理・部品交換が容易に可能という、極めて顧客重視の設計になっている点も見逃せません。ブラン兄弟はこのムーブメントに、“究極”の意味を持つギリシャ語アルファベット最後の文字から、“Ω”=オメガと名付けました。そして1903年、会社自体の名もその名に変わります。オメガは「19 ライン “オメガ” キャリバー」の大成功により、スイス最大の時計メーカーに成長していたのです。
「オメガ」キャリバー誕生から125年、挑戦はさらに続く。
「19 ライン “オメガ” キャリバー」のアニバーサリーを祝って披露された「デ・ヴィル トレゾア 125周年記念モデル」。そこに搭載されたのは、初めてお目見えした新ムーブメント「Cal.8929」です。“キャリバーを祝うキャリバー”という大役を担うこの新星は、期待以上の逸物です。なんと、マスター クロノメーター認定初の手巻きムーブメントなのです。マスター クロノメーターは、精度だけでなく耐磁性でも最高性能を認められたムーブメント。しかもオメガが誇るコーアクシャル脱進機を採用しています。当代最強の手巻きムーブメントと呼ばれてもおかしくない現代の名機には、その先祖たるオメガの伝説的な名ムーブメントを寿ぐ資格があるのです。
外見もとびきりのスペシャルな魅力に満ちています。ダイヤルはオメガのブランドカラーであるレッド。それをエナメルで、しかもなんとボンベシェイプのダイヤルに仕上げています。エッジに急な落差のあるボンベダイヤルをエナメルで仕上げるのは、ベースのメタルが熱収縮するため至難の技です。その問題を、文字盤の下地にセラミックを用いるという超絶技巧で解消しました。焼成時に収縮するセラミックの文字盤自体も製造が困難なのですが、それを克服した上で、焼成を終えたセラミックをベースにするという、絶妙のソリューションを得ているのです。同じくレッドのエナメルで仕上げたヴィンテージロゴなどスペシャルな文字が踊るケースバック。ストラップはこれ以上ないほどに艶やかな、バーガンディのアリゲーターストラップ。アニバーサリーモデル自体も、125年に1度の名品です。
125周年を記念するモデルは、もうひとつ発表されています。伝説の「19 ライン “オメガ” キャリバー」自体を、懐中時計として復刻しようというのが、オメガの驚くべき計画なのでした。それも、オメガミュージアムの保管室に眠っていたという「19 ライン “オメガ” キャリバー」の主要部品を、そのまま使うという夢のような話。遺されていたメインプレート、ブリッジ、テンワ、脱進機までを採用し、現代オメガの最新パーツと合わせて、伝説の時計を再現します。わずか19個限定の復活に、世界の注目が集まるのに不思議はありません。オメガの「125周年」は、伝説と現実、過去と現在を行き来しながら、オメガという稀有なブランドの魅力を紡ぎあげて見せるのです。
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