誰もが振り返り、思わず触れたくなる! 新型「MAZDA3」が指し示す、“魂動デザイン”の深化をひも解く。

  • 文:サトータケシ

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ロサンゼルス自動車ショーで発表された新型「MAZDA3」が、世界中から注目を浴びています。その理由はエクステリアやインテリアに、カーデザインの新たな潮流が表現されているからです。では、MAZDA3のどこが新しいのでしょうか。皆さんと一緒に確認していきましょう。

これまでの自動車デザインにおける「キャラクターラインで個性を演出する」という手法を、あえて排したチャレンジングな造形が特徴。

この新型「MAZDA3」を目にして、「カッコいい」とか「他とはちょっと印象が異なる」などさまざまな感想をもたれたと思います。ファッションや音楽と同じように、クルマのデザインの好き嫌いを直感で判断してもまったく問題ありません。

けれどももう一歩踏み込んで、なぜMAZDA3が新しいと感じるのかを知りたい人も多いのではないでしょうか。そこでここではエクステリアのみならずインテリアのデザインまで、すべてを新しく感じる理由を探りたいと思います。そのために、まずはマツダにおけるMAZDA3のポジションから説明していきましょう。


マツダのカーデザインの深化を示す、第1弾の市販モデル

写真左のセダンはオーセンティックでありながらハッとする美しさを、右のハッチバックは常識にとらわれない自由な美を表現した。

2003年のデビュー以来、グローバルで累計600万台以上が販売されたMAZDA3。日本国内では「アクセラ」という名称で親しまれてきた、マツダにとって重要なモデルです。それは単に売上を支えるだけでなく、ブランドのイメージを世界に向けて発信するという役割があるからです。ちなみにMAZDA3が属する「Cセグメント」と呼ばれるミドルサイズのカテゴリーは、フォルクスワーゲン「ゴルフ」やアウディ「A3」など世界中の自動車メーカーの主力車種が集まる激戦区になっています。

そして新型MAZDA3は、もうひとつ大きな役割を担って登場しました。それはマツダの新しいデザイン路線の表現とともに、新時代の幕開けを伝える、第1弾の市販モデルだということです。

押し出しの強いキャラクターラインではなく、周囲の景色を艶やかなボディ曲面に映り込ませる借景のような手法がMAZDA3のデザインの特徴。

マツダは2010年より「魂動(こどう)-SOUL of MOTION」というデザイン哲学のもと、まるで生き物のように感じさせるダイナミックなデザインを標榜してきました。12年に発売された「CX-5」や「マツダ6」以降、そのデザイン手法が高く評価されたのはご存じの通りです。

そして新型MAZDA3は、魂動デザインを深化させることに挑みました。ただしマツダが選んだ表現は、“盛る”方向のデザインではありませんでした。押し出しの強いフロントグリルや鋭利なライン、あるいは複雑な面構成などとは正反対の手法を選んだのです。無駄を削ぎ落とし、引き算の美学でシンプルな美を表現すること、それがマツダの選んだ道なのです。

MAZDA3を見ると、あえてキャラクターラインを使っていないことがわかります。マツダは、美しく湾曲したボディパネルだけで構成するという斬新な手法を採用しました。そしてその艶やかなボディ面には周囲の景色や青空、雲が映り込み、空の色や流れていく雲が季節や時間の経過を感じさせてくれます。日本庭園における借景のような手法で、日本独自の美意識に基づいた「新たなエレガンス」を表現したのです。

ドライバーの眼前を左右対称の造形で構成。このようにレイアウトすることで、ドライバーは自分が主役であることを自然に実感できるのだ。

MAZDA3のデザインで感心するのは、エクステリアとインテリアの世界観が通底していることです。エクステリアと同様に、インテリアも引き算の美学で構築されています。

コックピットに座ると、ドライバーは自分を主役としてデザインされていることを実感します。その理由はふたつ。ひとつはドライバーを中心に左右対称の造形となっていること。そしてもうひとつは、ドライバーがノイズだと感じる要素を排除することで、クルマとダイレクトに会話ができると感じられるからです。

限られた空間に豊かな時間が流れる、茶室のような内装。

エアコンのコントロールパネルと助手席側のルーバーを水平軸の帯状にまとめることで、すっきりとした美しいデザインが実現した。

先述した「ドライバーがノイズと感じるような要素を極力排除した」というポイントを、もう少し具体的に説明しましょう。

たとえばエアコンのコントロールパネルや助手席側の空調の吹き出し口を見ると、水平方向に伸びる一本の帯の中にすっきりと収まっていることがわかります。この部分からも“盛る”方向ではなく、“削ぎ落とす”ことを第一に考えたデザインであることが実感できます。

ハンドルやシフトノブなど触れた時の質感や手触りにまでこだわったことで、思わず触りたくなるような“タンジブル”なインテリアデザインが完成した。

MAZDA3のインテリアデザインへのこだわりは、見た目だけに留まりません。触れた時の質感や手触りを「タンジブル」と呼びますが、そこにもこだわった設計になっているのです。たとえば本革部分にはマツダ独自のシボ加工を施し、この素材がもつ本来の温もりや豊かさを表現、思わず触れたくなるようなデザインとなっています。

またシフトパネルには、黒のメタリック層と光を透過するカラークリア層からなる2層成形という技術を採用し、黒の精緻さと透明感を両立。光の変化によって多彩に表情を変えることが、所有する喜びにもつながります。

このようにきわめてミニマルな造形でありながら、もてなしの心に満ちているMAZDA3のインテリアは、限られた空間に心地よい時間の流れを表現した茶室にも通じるものがあるのではないでしょうか。

「人生の幅や世界観を広げるコンパクトクロスオーバー」というコンセプトで開発され、ジュネーブ国際自動車ショーで初披露された「CX-30」。

今年3月のジュネーブ国際自動車ショーでは、新しいデザイン路線の第2弾となるコンパクトなクロスオーバー、マツダ「CX-30」が発表されました。矢継ぎ早にニューモデルを発表するあたりに、現在のマツダの勢いが感じられます。

CX-30もMAZDA3と同様に、引き算の美学が貫かれています。無駄な要素を削ぎ落とし、美しい曲面に周囲の光と影を映し込む考え方は共通しているものです。

そこにSUVというスタイルに求められる力強さが加わり、他に類を見ない魅力的なクロスオーバーが完成しました。MAZDA3にもCX-30にも共通しているのは、自分がそのクルマを運転するシーンを想像するとワクワクするということです。一日も早い、日本での発表を待ちたいものです。