美しく、リーズナブル。思わず手に取りたくなるテーブルウェアシリーズ 「HIBITO」に込められた、セシリエ・マンツの思いとは?

  • 写真:遠藤宏
  • 文:猪飼尚司

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現代のデンマークを代表するデザイナー、セシリエ・マンツがアクタスから新たなカトラリーと器のコレクション「HIBITO(ヒビト)」を発表。静かな佇まいと滑らかなライン。テーブルを囲む時間を美しく彩るコレクションに託した思いとは。来日したマンツに話を聞きました。

家具、照明にはじまり、音響機器、ファブリック、ガラス、セラミックなど、幅広い分野でデザインを手がけるセシリエ・マンツ。1972年にデンマークに生まれ、コペンハーゲンとヘルシンキでデザインを学んだ彼女が独立したのは98年のことでした。

「独立した当時、デンマークではまだ1950年代の北欧デザインの黄金期の名残が残っており、新たなデザインの兆しはそれほど感じられませんでした。現代に生きる自分がすべきことはなにか。常に自身に問いかかけてきたように思います」

身の回りに状況に注意深く目を配り、そこにいかに自然かつ新鮮な感覚を見出すことができるか。そこにセリシエ・マンツのデザインの本質があります。

2005年にデザインを手がけ、セシリエ・マンツの名前を一躍世界に知らしめたライトイヤーズの照明「カラヴァッジオ」。
2016年にアクタスとタッグを組んで初めて発表した椅子「モク」。丸みを帯びたフレームが身体を優しく包み込みます。

自問自答を重ねることで、成長する。

今回発売されたヒビトのシリーズ全容。
リムの立ち上がりが美しい「ヒビト」。重ねて並べても、美しいバランスを保つように考えられている。

今回発表したコレクション「ヒビト」では、ダイニングテーブルの上を美しく彩るために必要なものを、セシリエ・マンツがフルセットで考え抜きました。磁器の皿は、平皿、ボウル、豆皿とサイズ違いで全6種、カトラリーはディナー用、デザート用、ティースプーンなど全6種。そしてグラスもウォーターグラス、ワイン&焼酎用、ビール用の3種。今秋からは、ブラウンのリム付平皿や、遠州織物のコースターとランチョンマット、箸や竹細工のカゴなどがシリーズに加わります。

「和のテイストを意識したように思われるかもしれませんが、ヨーロッパの食卓に並べても美しく映えることを考え、私自身が自宅で使いたいものであることを念頭においてデザインしています。いろんな食文化が多様に入り混じる現代においては、こうしたユニバーサルな感覚が大切だと思っています」

「いろいろと組み合わせを変えては、新しいテーブルセッティングのあり方を考えるだけでも楽しい」と語るマンツ。

テクスチャーやディテールの実現には、一切の妥協を許しません。

「私と仕事をした経験がある人は、『ひと筋縄ではいかず、大変だった』と口を揃えることでしょう。面倒な人間だと思われても、その役割をあえて買って出るのもデザイナーの役目。努力を惜しまないことで結果はさらに良くなり、最終的には全員がハッピーになるのですから」

以前、アクタスから発表した椅子「MOKU」では12回も試作を繰り返したと聞きますが、今回もプロジェクトのスタートから発表までにかけた年月はなんと2年。

「少しでも疑問に思うことは、すべて解決したい。デザイナーも製造者も、自問自答を重ねることで一歩ずつ成長を重ね、そこから未来が訪れるんです」

磁器の皿や鉢は、長崎の波佐見焼の工房に依頼。皿の中央に設けた白いリング模様は、セシリエいわく「ちょっとした個性」だとか。中段奥からボウル、¥1,620、マメプレート¥1,404、デザートプレート¥1,836、ブレックファストプレート¥2,700(すべて税込)。上段最下部、ディナープレート¥4,212(税込)
左から、ビールグラス(335ml)¥1,080(税込)、ウォータグラス(345ml)¥1,080(税込)、ワイン&焼酎グラス(265ml)¥1,080(税込)の3つ。飲み物だけでなく、料理を入れても良さそう。

「テーブルウェアは食卓の装飾品でなく、料理を食べるための道具」

口調はいたって穏やかですが、彼女が発する言葉は実にまっすぐで、確信をついています。
カトラリーのメインとなるディナーセット。それぞれに特化した機能を追求しつつ、くびれの形状で共通性を持たせています。左からディナーフォーク¥972、ディナーナイフ¥1,296、ディナースプーン¥972(すべて税込)。

「テーブルウェアは美しく食卓を飾る装飾品ではなく、料理を美味しく食べるために必要な道具です。私に託されているのは際立ったデザインをすることではなく、手に持ったときの扱いやすさや、口に入れた瞬間の感触をいかに自然にサポートできるか。その形を追求することなのです」

重さやバランス、微妙な凹凸や曲線の角度、ナイフの切れ味、フォークの刺し具合、スプーンのすくいやすさ、グラスの口当たり……。チェックすべきポイントは無限にあります。マンツは、自宅にあるものだけでなく、のみの市でありとあらゆるタイプのテーブルウェアをかき集めて検証。既存のプロダクトを超える、より良い製品づくりを志しました。

口に含んでから引き出すときにスムーズなように、フォークの枝先は平滑ではなく、少し丸みを帯びた形状に。
スプーンも、口に含む分量が適切になるように深さと幅を緻密に計算したといいます。
グラスのデザインでは、手で持ったときの安定感と口当たりの良さを追求しました。

クオリティの高さと価格のバランスが整った、日本のモノづくり。

今秋発売予定のザルや箸、ランチョンマットはマンツがセレクトした日本の伝統工芸。クオリティの高さを考えると、それぞれの価格が手に取りやすいのも魅力的だとマンツは語ります。
縁にラインのついた磁器のシリーズも、今秋から販売されます。

今回のコレクションはすべて日本で生産を手がけているというのも大切なポイントです。

「日本には地域ごとに特色のあるモノづくりの現場が残っているのが特徴。伝統に培われた技術力や確かな審美眼、細やかな対応力などは、メイド・イン・ジャパンの代名詞のようにこれまでも多く語られています。なによりもクオリティが高いにもかかわらず、価格のバランスが完璧に整っていることは、なかなかほかの国では実現できないこと。これこそ日本が世界に誇るべきメイド・イン・ジャパンの実力だと思います」

「自分が使いたいものしかつくらない」と語るマンツ。そこには使いやすさを徹底的に考え抜いた心地よささえ存在しているのです。

発表会の際にも、こまかにテーブルセッティングを直しながら、アイテムを一つひとつチェックしていきます。

「モノをつくり出す人間として、すぐに消費され、消えてしまうような無駄は絶対にしたくありません。自分が使いたいと思えるものしかつくりませんし、それを子どもやその先の世代にも残すことができるか。彼らも好んで使い続けてくれるか。デザインするときはそんなことも考えています」

これまでカイ・ボイスンがデザインしたカトラリーセットをずっと使い続けていたマンツですが、今回このコレクションの発表とともに自宅のテーブルウェアを一新。ヒビトとともに時間を過ごす時間はとても心地よく、豊かだといいます。

「デザインの段階であれだけさまざまなシーンを描いたのに、実際にユーザーとして使ってみると、また新たな魅力や使い方に気づきます。日本のみなさんも自由な感覚で、このヒビトに触れていただきたいです」

●アクタス青山店 TEL:03-5771-3591