【グランドセイコー、美しき「時」を伝える腕時計。】Vol.5 寺内卓己の柳行李と連なる、日本独自の機能美。

  • 写真:星 武志
  • 文:篠田哲生

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伝統工芸品である「柳行李」は、収納道具としてだけでなく手仕事の温かみを感じさせます。グランドセイコーの腕時計もまた、機能性だけでなく優雅なスタイルで感性を刺激します。ともに機能と形状が寄り添う機能美を宿したモノづくりを、日本というフィルターを通して読み解いていきます。

伝統工芸品である「柳行李」を、現代的な鞄としてアレンジした寺内卓己の豊岡杞柳(きりゅう)細工。グランドセイコーの「SBGE201」は、針もインデックスも切れのあるカットが特徴。

日本の伝統的な“収納ケース”として、長い年月を重ねてきた柳行李。その軽くて頑丈で、防害虫の効果があるという優れた性能はそのままに、現代的な鞄へと進化させたのが、豊岡杞柳(きりゅう)細工職人の寺内卓己です。伝統的なデザインをベースにしつつ、機能を現代的にハイスペック化し、現代人が求める性能を加える“伝統と革新の融合”は、グランドセイコーにも当てはまります。歴史と伝統に裏付けられた美しいフォルムや独特の質感をもつ製品に、現代のライフスタイルに合わせた機能が加わる時、さらなる価値が生まれるのです。

研ぎ澄まされた実用の美を、製品に昇華させる。

伝統的な柳行李の形状である「かぶせ蓋」を活かしつつ、現代の用途に対応させた「柳行李 手提げ行李鞄(大)」。ヌメ革のベルトを使って固定する仕様だ。

機能は変わらないが、用途が進化した。

コリヤナギという植物を材料とする「柳行李」の歴史は古く、約1200年前に製作された「但馬国産柳箱」が、東大寺の正倉院に所蔵されています。この柳行李の製造で有名なのが、兵庫県豊岡市の豊岡杞柳細工です。市内中央を流れる円山川の河川敷に自生していたコリヤナギを用いてカゴづくりを始めたのがルーツであり、近代になるとその技術を活かして鞄産業が発展しました。

今回紹介する寺内卓己は柳行李伝統工芸士に認定された日本唯一の職人ですが、伝統だけに縛られることはありません。柳行李のディテールと現代的な鞄を融合させることで、機能的かつ独創的な作品を創作。その代表例が旅行用の手提げ鞄であり、柳行李の軽くて頑丈という特性を十二分に活かしています。

20気圧防水をはじめとした頑強なスペックを実現した、スポーツコレクション「SBGE201」。回転ベゼルによって3つの時間帯が読み取れる、機能的なロングセラーモデルだ。

時代が求めた、現代的な実用機構。

高級時計における付加機構というのは、時代を映し出す鏡でもあります。グローバル化する現代社会において最も求められるのは、時差を簡単に修正できる機能ではないでしょうか。海外への出張や旅行はもちろんのこと、国内にいても海外のスタッフとのやり取りをする際には、手元で簡単に相手の時間がわかるというのはとても便利です。

この「SBGE201」は、世界を飛び回る活動的なビジネスパーソンに必要な機能を徹底的に突き詰めたロングセラーモデル。グランドセイコーでは長らくシンプルな3針モデルが好まれていましたが、現代的なニーズをくみ取ったこのGMTモデルが登場すると、すぐさま人気を獲得しました。赤い針でホームタイムを表示し、りゅうず操作でローカルタイムを表す時針を操作する使い勝手のよさも特徴です。グランドセイコーで初めて回転ベゼルを採用し、3カ所の時刻を表示できるようにしたのも、活動的な人にとっての利便性を追求したから。現代的なスペックは、伝統的な腕時計を魅力的に進化させるのです。

クラシックとモダンを融合させた「柳行李 アタッシェケース(中)」。内部にはキャンバス生地が張られ、中仕切りやポケットを完備する。

伝統を継承しつつ、さらに発展させる。

高度な熟練技術によってつくられ、実用性と美的価値の両方を兼ね備えるのが伝統工芸品です。コリヤナギを編み上げてつくる柳行李は、網目がしっかりとしており、その独特の光沢感も含めて美しい姿に仕上がっています。そもそも柳行李は収納ケースであり、大切な衣服を保管したり、食物などを輸送したりする際に使用してきたもの。

この柳行李のアタッシェケースは、そういった本来の使用用途を現代的にアレンジしたものであり、伝統工芸品としての価値をしっかりと守っています。その上でキャンバス地の内張や真鍮製の金具、レザーのハンドルといったディテールを凝らすことで、アタッシェケースとしての機能も果たしています。“使うための道具”であり続けるために、美しく進化しているのです。

日本のモノづくりならではの、素材がもたらす機能美。

赤い三角針で第2時間帯を表示するGMTモデル。シンプルなブラックのダイヤルで、メリハリの効いた表情になった。もちろん視認性も抜群である。

美しいディテールは、信頼の証しとなる。

この「SBGE201」は、グランドセイコーのスポーツコレクションにラインアップされています。大型ケースや装着感を考慮したりゅうず位置、さらには20気圧防水を実現させ、あらゆる状況下でも確実に時を刻みます。そのためアクティブな旅であっても、正確な時間で持ち主をサポートしてくれるでしょう。

とはいえ、タフさだけにとどまらないのも魅力。先端まで太い形状の時分針や、レギュラーモデルで初めて採用した高輝度蓄光塗料のルミブライトなど、飛行機内の暗い環境でも時刻を確認しやすいように配慮されています。また回転ベゼルのサファイアガラスは、成層圏をイメージしたもの。傷つきにくいという機能性とともに、奥行きのある美しさを実現しているのです。

コリヤナギは太くて光沢があるため、同じ植物原料である籐カゴなどとは違って網目が強く主張する。その迫力もまた製品の魅力となっている。

自然素材の力が生み出す、高い機能性。

現代のテクノロジーであれば、さまざまなハイテク素材で製品をつくることができます。しかし天然素材には、技術を凌駕した凄さがあります。柳行李の原料となるコリナヤギは、伸縮性に優れているので荷物を大量に入れて膨らんでも、すぐに元の形状に戻ります。また水分を吸収すると膨らむ性質があるため、雨に濡れることで逆に防水性能が高まるというのも面白い特性です。

その他にも、害虫を防ぎ、食物のおいしさを保ってくれるなど、天然素材でありながら高機能なコリヤナギですが、使っているうちに飴色に変化していくので経年変化を楽しむこともできます。こういった魅力は、どれだけ製造技術を高めたとしてもなかなか到達できるものではありません。人々の長年の経験の蓄積が、こういったモノづくりを可能にしているのです。

ケース径は44mmとやや大きいが、りゅうずを4時位置に配置することで手首への干渉を軽減させている。ラグに鏡面部分があることで、シャープな稜線をつくり出している。

素材の特性によって、理想を引き出す。

ここ数年、高級時計の世界では、さまざまなハイテク素材の特性を利用して、新しいデザインや機能を引き出す動きが目立っています。たとえば硬度の高いセラミックスは、耐傷性に優れるのでいつまでも美しい姿を保ち、チタンであれば軽くて耐アレルギー性能を有するというメリットがあります。

しかし、グランドセイコーが「SBGE201」に用いるのはステンレススチールです。この素材を用いるのは、スポーツモデルとしての重厚感を追求した結果であり、さらに加工性に優れ光沢面が美しく仕上がるためです。「SBGE201」のキレのある稜線や歪みのない鏡面の完璧な仕上がりは、ステンレススチールの特性を最大限に活かしたものだったのです。

機能と素材が寄り添い、独自のデザインを生み出す。

伝統を守り、そして進化させた「柳行李 アタッシェケース(中)」。今回掲載した作品は、杞柳細工職人・寺内卓己が代表を務める下記の工房兼店舗で購入することができる(ネット通販も可)。「柳行李 手提げ行李鞄(大)」(H39×W54×D15cm)¥270,000(税抜)、「柳行李 アタッシェケース(中)」(H32×W43×D15cm)¥218,000(税抜)。●たくみ工芸 住所:兵庫県豊岡市出石町魚屋99 TEL:0796-52-3280 http://takumi-yanagi.com

過去と現在が融合する、モダンな工芸品。

約1200年前からつくられる柳行李は、日本人の生活に欠かせない実用的な収納ケースとして親しまれてきました。コリヤナギの素材がもたらす機能的なメリットはもちろんですが、手触りの心地よさや使っているうちに増していく風合いも含め、日常の道具としての魅力があります。

そんな柳行李をモダンに進化させたのが、このアタッシェケースなのですが、その試みは100年以上前からありました。実は1900年に開催されたパリ万国博覧会に、革バンド付きの旅行用柳行李が出展されており、世界的にも大きな評判を呼んだとのこと。卓越した職人技から生まれる高い品質に、新しい価値観と遊び心が融合した時に、伝統工芸品は新たな魅力を放つ存在となるのです。

独自の機構である、スプリングドライブ・ムーブメントを搭載したGMTモデル。グランドセイコー スポーツコレクション「SBGE201」¥620,000(税抜)。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップ専用モデル。

王道の先を見据えた、モダンな進化系モデル

1960年に誕生したグランドセイコーは、67年に「セイコースタイル」というデザインコードを定め、以降そのスタイルを継承しています。それは20気圧防水やGMT機能など、タフで機能的な時計であっても守られています。4時位置にりゅうずを配置したのは「62GS」と呼ばれる傑作のデザインを継承したもので、斜面をカットして煌めかせる針やインデックスも定番の仕様です。

しかしその一方で、レギュラーモデルとしては初めて高輝度蓄光塗料のルミブライトを針などに塗布し、さらに回転ベゼルを組み合わせることで3カ所の時刻を同時表示できるようになりました。伝統的なスタイルや機能性をていねいにまとめると、誰の目にも美しく映る腕時計が出来上がります。これこそが世界を魅了した日本の腕時計の魅力なのです。

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