【グランドセイコー、美しき「時」を伝える腕時計。】Vol.4 吉原義人の刀剣と共鳴する、精緻なモノづくり。

  • 写真:星 武志
  • 文:篠田哲生

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日本の美意識の象徴である「日本刀」は、研ぎ澄まされた技術と審美眼をもつ刀匠の手から生まれます。グランドセイコーのクオーツ時計もまた、職人の手から生まれる優れた機能性と造形美を備えています。ともに完璧な精度を追求するモノづくりから、時代を超える力を読み解いていきましょう。

刀匠・吉原義人の日本刀。刀の茎(なかご)には、銘が彫られている。グランドセイコー「SBGV205」は、シャープな造形美で目を楽しませる。

高精度であるだけでなく、視認性のよい太く大きな針やカレンダーを動かして、高級感のある表情をつくるグランドセイコーのクオーツムーブメント「キャリバー9F」。品質への飽くなき探求心は、まさに“日本ならではの美意識”の表れと言えるでしょう。それは火と鉄と妥協なき手仕事から生まれる、刀匠・吉原義人の日本刀にも当てはまります。芸術的な美しさのみを追求するのではなく、斬るという機能にも妥協しない、研ぎ澄まされた造形もまた、職人の手が生み出す精度の賜物。たゆまぬ研鑽から生まれた腕時計も日本刀も、本質を極めてこそ特別な存在になれるのです。

独自の進化と発展を遂げる、日本のモノづくり文化。

美しい刃文をもつ吉原義人作の日本刀。すさまじい斬れ味の刃物であり、純然たる武器でありながら、芸術的価値とともに人の心を揺さぶる神聖な魅力を有している。

世界的にもまれな、日本の刀剣文化。

刀鍛冶であった祖父や父の影響を受け、若くして刀づくりの道に入った吉原義人。20年に一度行われる伊勢神宮の遷宮の際に「御神宝」として奉納される御太刀を製作する超一流の刀匠である、吉原が手がける日本刀は、武器を超えた価値をもっています。

こういった刀への憧憬は、実は日本刀だけのものだそう。冶金術が発達していたヨーロッパでは、刀剣は単なる武器でした。ところがその技術が日本に伝播するのは奈良時代と遅く、先進諸国の特別な宝物として伝わりました。そのため日本において刀というのは、文化的価値の高いものとされたそうです。もちろん武器でもあるのですが、神聖な魅了を備えた作品であり、身に着けることで力を授かり、また鑑賞して楽しむ対象でもあったのです。

視認性を高める端正で機能的なデザインをもつグランドセイコー「SBGV205」。腕時計として美しいのはもちろんのこと、すらりと長い秒針が、寸分の誤差もなく一秒一秒を指し示す。その動きも楽しみたい。

“正確な時刻”という品質が、確固たる価値を生む。

古くから時計の世界では、時刻の正確性の指標である精度が品質の証しでしたが、セイコーはそのレベルを飛躍的に向上させました。1969年に完成させた世界初のクオーツ式腕時計「クオーツ アストロン」の登場以降、時計はほぼ誤差が生じないのが常識となったのです。

嗜好性を強める現在の時計業界では、ともすると機械式ムーブメント至上主義に陥りがちですが、グランドセイコーでは高精度という揺るぎない価値も探求します。高性能クオーツムーブメント「キャリバー9F」は、品質を重んじるグランドセイコーの文化と伝統であり、シンプルなダイヤルの上で刻々と刻まれてゆく“正確な一秒”は、流れ去る時を可視化することで、いまという瞬間を大切にしたいと思わせるのです。

シャープなエッジをつくり出す、横手と切先。高品質な材料と精度の高い職人技が融合することで、緊張感のある美しさが生まれるのだ。

日本刀とは、素材から生まれる作品。

日本刀は鉄から生まれますが、“普通の鉄”ではありません。日本刀の原料には、必ず玉鋼(たまはがね)という純度の高い鋼を使います。これは比較的低温で砂鉄を熱し、半熔解状態にした素材なのですが、大切なのは鉄が“一度も溶けていない”ということ。

水を凍らせた氷と雪が圧縮された氷河では密度感が異なるのと同じように、玉鋼を使うことで、鋭利な刃物でありながら衝撃を刀全体で柔軟に受け止めることができるのです。この玉鋼を熱し、ハンマーで叩いてはまた熱しという鍛錬の工程を繰り返しながら強度を高め、徐々に日本刀の姿へと仕上げていくという製法は、日本へと刀が伝来した時代から少しも変わっていません。これが日本刀をつくるための、唯一無二の方法なのです。

特別な性能や素材だけが、特別な作品へとつながる。

クオーツ式ムーブメントの常識を塗り替えた、太く堂々とした針と瞬間日送り式のカレンダー表示。グランドセイコーらしい精緻で美しい顔をつくるために、「キャリバー9F」は生まれたのだ。

理想を追求するために、新たに生まれた機構。

クオーツ式のムーブメントは、水晶振動子の振動数をICで計測し、正確なタイミングでステップモーターを作動して針を動かしています。しかし優れた精度を長時間維持するためには、電力消費をなるべく抑える必要があります。そのためモーターのトルクはきわめて弱く、大きな針やカレンダーを動かすのは困難とされてきました。

しかしグランドセイコーは、視認性や高級感の追求も重んじています。ダイヤカットを施した太く堂々とした美しい針を回すために、1秒間で2回針を動かすツインパルス制御モーターを開発し、時刻合わせ時の針のふらつきを防ぐために三軸独立ガイド構造を考案。さらにカレンダーも0時ちょうどに切り替わるようにしています。こういった「キャリバー9F」の性能が、この腕時計を特別なものにしているのです。

日本刀に表情を与える美しい刃文は、鋼が急速冷却される際に、成分変化によって生まれる模様。流派や刀匠によって異なる個性が表現される美のポイントでもある。

日本刀ならではの美的表現のカタチとは。

日本刀の美しさは、分子構造の異なる鉄によって形づくられるグラデーションにあると言われています。さらには日本刀の個性と表情を引き出してくれる刃文も、日本刀の美しさの象徴でしょう。刃文は刀身に粘土を塗ってから焼き入れするのですが、粘土を塗った部分と塗っていない部分、あるいは粘土の種類や厚みによって冷却する時間に差が生まれます。これが独特のグラデーションを生み出すのです。

さらに刀身にうっすらとした靄(もや)のような表情が生まれる「映り」という技法もありますが、これを復活させたのが刀匠・吉原でした。古い専門書などを読みながら研究を重ね、72年にその技術を会得したのです。伝統的な日本刀の世界ですが、その美的表現はいまも探求し続けられているのです。

ケースを横から見ると、平面には歪みのないポリッシュ仕上げを施し、斜面部分はヘアライン仕上げを施しているのがわかる。しかもその稜線はかん足(ラグ)へと向かい、切れのある造形美をつくり出している。

職人の手仕事が引き出す、稜線の美学。

高度なテクノロジーが投入される、究極のクオーツ式ムーブメント「キャリバー9F」は、職人が手作業で組み立て、約0.2mmというわずかな隙間で針を取り付けています。このような名機を搭載するケースの造形にも、グランドセイコー独自の美意識があります。直線的な平面を連続させる構造によって生まれる、陰影の美しさを見せることで、日本ならではの美の感性を表そうとしたのです。

こういった造形を実現させるためには、熟練職人の手作業が必須。ステンレススチールの鏡面の美しさやエッジを利かせた稜線の表情を引き出すことで、目を楽しませ、所有する喜びを実感させてくれます。クオーツ式時計は高精度に注目が集まりがちですが、グランドセイコーなら高級時計らしい手仕事も堪能できるのです。

モノづくりの姿勢が、新たな愛好家をつくり出す。

1971年に東京都葛飾区に「日本刀鍛錬道場」を開いた吉原刀匠。多くの弟子とともに作品をつくっており、彼が製作した「脇差し」の美しさには、ただ圧倒される。海外からの注文も多く、日本刀のイベントにも積極的に参加。日本刀文化を広める役割も担っている。

海外へと愛好家を広げる、日本刀の魅力。

日本政府は伝統文化の保護と継承を大切にしていますが、意外なことに現在は、刀匠の人間国宝は存在しないそうです。しかし日本刀文化の担い手は、途切れることはありません。吉原が主催する「日本刀鍛錬道場」では多くの若者が修行に励み、さらに日本刀の愛好家は世界へと広がっています。

吉原が海外進出を果たしたのは70年代前半。アメリカ在住の日本刀愛好家の招きでテキサスへと向かい、そこで日本刀を製作したのがきっかけでした。その時の作品はメトロポリタン美術館やボストン美術館に展示され、吉原の元には世界中の美術愛好家から多くの注文が入ったそうです。日本刀の技法は古くから現代へと変わることなく継承されていますが、その文化は世界へと広がり多くの人々を魅了しているのです。

グランドセイコーらしいシャープなケースに、高性能クオーツムーブメント「Cal.9F82」を搭載。グランドセイコー ヘリテージコレクション「SBGV205」¥345,600(税込)。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップ専用モデル。

グランドセイコーらしさを凝縮した腕時計。

世界で初めてクオーツ式腕時計を発表したセイコーの技術力を継承し、年差±10秒という高精度と、大きな太い針とカレンダーを動かすことで視認性を高めた「キャリバー9F」を搭載。グランドセイコーらしい端正な顔立ちには普遍的な魅力がありますが、キレのある秒針の動きで正確な1秒を表現し、時間の流れを明確に可視化させる哲学的な価値も楽しめます。

独自のデザイン哲学「セイコースタイル」を現代的に解釈した外装デザインをもつ「SBGV205」は、サンレイ仕上げを施したダイヤルをシャンパンカラーでまとめており、光の加減によって表情を変えることで、優雅な腕元を表現します。高精度で高視認性という実用的な腕時計ですが、所有する喜びを有し、いつまでも愛用できるものになっているのです。

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