【グランドセイコー、美しき「時」を伝える腕時計。】Vol.2 安藤忠雄の建築と響き合う、光と影のデザイン

  • 写真:星 武志
  • 文:篠田哲生

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グランドセイコーのデザインの特徴は、面と面が織りなす稜線の造形にあります。美しい平面がつくり出す光と影は、見る者に日本ならではの美意識を喚起させます。そして同様の世界観をもつのが、安藤忠雄が手がけた建築です。陰影が雄弁に物語る、両者のデザインを読み解いてみましょう。

緊張感のある造形美を体現した安藤忠雄の建築と、精緻な仕上げをダイヤルに施したグランドセイコーの腕時計。そこには相通じる審美性がある。

小説家の谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』は、光と影がつくり出す日本独自の美意識を語ったものです。この考え方は、日本の建築やプロダクトデザインにも多大な影響を与えました。その一例が、安藤忠雄が手がけた建築であり、グランドセイコーの腕時計もまた、光と影から美しいデザインを導き出しています。巨大な建築と小さな腕時計、スケールこそ対照的な両者ですが、そこには相通じる世界観や審美性が内包されています。移ろいゆく光とそこから生まれる影が織りなす表情は、とどまることなく刻々と変化し、やがて消え去ってしまいますが、その“はかなさ”もまた見る者の心に響くのです。

移り変わる季節と自然が、美しい建築と溶け合う。

木組みのアーチから差し込む太陽光が美しい影をつくる、青森公立大学 国際芸術センター青森の「四季のアーケード」。周囲の自然を巧みに取り入れ、建築と環境との共生を謳ったアプローチと言える。

自然と共存、共生する「見えない建築」。

地球は公転面に対して約23.4度傾いた状態で自転しています。そのため太陽光の当たる角度が変化し、それが四季を生み出します。特に日本が位置する北緯35度近辺は、夏と冬とで太陽の位置がまったく異なるため、季節や光の変化が明確です。このような四季の移ろいや光と影の調和を建築に巧みに取り入れたのが、2001年に青森県青森市に開館した「青森公立大学 国際芸術センター青森」です。

そのユニークさは、メインの展示棟にたどり着く前から明らかになります。建築家の安藤忠雄は、設置者の青森市から「なるべく樹木は切らないでほしい」という要望を受け、自然環境と共生する建物として「見えない建築」を提案しました。「四季のアーケード」は、そのコンセプトを最初に感じる場所。国道から続くアプローチでは、集成材を組み上げたアーチから太陽光が差し込んで美しい影をつくる中を、展示棟へと歩いていきます。そこから見えるのは広大な森の風景。来館者は光と影のコントラストや自然の木々の変化から、移ろいゆく時とその永続性を感じることができるのです。

施設の造形を映し出す「水のテラス」や、すり鉢状の屋外ステージなどが配された展示棟。周囲の樹木よりも建物を低く設計した、まさに“見えない建築”だ。

見る者の感性に訴える、特別な空間。

「四季のアーケード」を抜けると、周囲の木々に埋もれるようにして立つ展示棟が現れます。安藤がイメージした「見えない建築」というのは、建物が森の中に埋もれているようにすること。この地は縄文時代から人々が暮らしていた場所であり、野生動物も数多く生息する里山を残しています。そこで樹木が少ないエリアを選んで各施設をレイアウトし、森の中にすっぽりと建物が収まるようにしました。自然環境と共生し、その恵みを享受するためです。

展示棟は円形になっており、約半分のスペースは「水のテラス」や屋外ステージなど屋外の施設です。広大な敷地内には常設展示として、国内外のアーティストによる多数の野外彫刻作品が配置され、豊かな自然の中でのアート散策も楽しめます。また一方で、屋内にあるふたつのギャラリーに入ると雰囲気は一変。緩やかにカーブする巨大な馬蹄型の展示空間は、片面からのみ採光する仕組みになっています。このオープンとクローズという異なる光源がもたらす展示空間の違いが、アーティストの創作意欲と見る者の感性を強くゆさぶるのでしょう。

100m以上にもなる長いひさしと、等間隔に並ぶ柱で構成される創作棟のテラス。この創作棟からほど近い場所に、招聘したアーティストが滞在するための宿泊棟がある。

創作意欲を刺激する、アートの発信地。

青森公立大学 国際芸術センター青森は、国内外の芸術家が一定期間滞在して創作活動を行う「アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」を中心事業としています。そもそも青森県は、版画家の棟方志功や歌人で劇作家の寺山修司など、多くの優れた芸術家を輩出した土地。それは豪雪に象徴される厳しい環境で、己と向き合い思索する時間をもってきたからではないのか――。そう考えた安藤は、小川が流れる谷の上に橋を架けるように、100m以上にもなる長い直方体の創作棟をつくりました。平面で構成された、ミニマルなコンクリート建築のアトリエ。テラスに面した大きな窓からは、刻々と表情を変える森の緑が目に飛び込んできます。

このアートセンターは、芸術家と市民との交流を通じて、地域の芸術文化を醸成させることを目的とした施設。ここにアーティストが集まり、自然の営みや移ろいゆく光と影の中で自分自身と向き合い、創作活動に励んでいます。アートに触れる場所と言えばコレクション作品を展示する美術館を想像しがちですが、ここは人間的なつながりを含めた、アートを創造する場所なのです。

光と影の調和がもたらす、独自のデザイン理念。

ケースからラグにかけての明確な平面が、この「SBGJ201」の特徴。1967年製の「44GS」というモデルによってグランドセイコーのデザイン理念は完成し、現代に受け継がれている。

日本の美意識とともに、受け継がれるスタイル

グランドセイコーが考える腕時計とは、それ自体が主役になるのではなく、使う人と調和するデザインであること。また日本発の時計ブランドとして、日本独自の美意識と感性を体現すること。それはグランドセイコーがミラノ・デザインウィーク2019での展示で、「すべての営みを自然の一部として捉え、寄り添う日本ならではの時間意識や、移ろいゆく時とその永続性」を表現した姿勢からも見て取れます。

この「SBGJ201」は、計器としての“機能的なデザイン”と、感性を刺激するタイムピースとしての“装飾的なデザイン”が両立しています。平面と直線を主体とした構成は、建築や工芸品など日本の伝統的な様式にも見られるもの。シャープで立体的なケースデザインに、精悍な表情を引き出すフラットなダイヤル、わずかな明かりでも判読できるようにインデックスや針には多面ダイヤカットを施しています。こうしたデザインコードは「セイコースタイル」として、1960年代後半にまとめられ、グランドセイコー独自のデザイン理念として「SBGJ201」をはじめ現代のモデルへと受け継がれています。

これだけの平面を寸分の誤差もなく磨き上げ、さらに稜線まで美しく表現するのは至難の業。熟練した職人の技術の高さを堪能できるポイントと言えるだろう。

美しい鏡面を際立たせる、稜線の造形美。

グランドセイコーのデザインを読み解くには、“光と影”がカギとなります。ザラツ研磨という技法で磨き上げられたケースは、歪みやねじれのない美しい平面で構成され、面と面が接する稜線はまっすぐにラグへと向かい、シャープで精悍な造形美を体現します。その結果、光によって異なる表情を見せる独自のスタイルが生まれました。たとえるなら、屏風や扇子のような面と面との連続によって陰影をつくり、ケースデザインに立体感と奥行きをもたらしているのです。

日本人は光に心を配り、光と影の間に無数のグラデーションを感じ取ってきました。また光と同じように影を愛し、そのコントラストがもたらす表情を大切にしています。このような陰影が最も美しく表れる様式として古来より取り入れられてきたのが、歪みやねじれのない平面と直線による構成です。移ろいゆく時とともに変化する光を受け、無限に表情を変える腕時計は、特別なタイムピースとしての存在感や所有する喜びを感じさせてくれます。

繊細な彫り模様が入ったダイヤルは、岩手山の山肌をモチーフにしたもの。光と影の変化とともに、その表情は移り変わっていく。

製造の地へ、敬意を込めたモノづくり。

安藤が手がけた青森公立大学 国際芸術センター青森がその土地や自然との共生を図っているように、グランドセイコーの「SBGJ201」にも製造する土地への思いが込められています。グランドセイコーの機械式ムーブメント搭載モデルは、岩手県雫石町にある雫石高級時計工房で職人の手によってつくられているもの。ていねいに仕上げられたパーツを組み上げ、徹底した精度調整を行うことで完成する腕時計は、その卓越した技術力とクオリティで世界的に評価されています。

この「SBGJ201」のダイヤルには、時計工房の窓から見える雄大な岩手山の山肌をモチーフにした模様が取り入れられています。どれだけ優れた腕時計であっても、その地に生きる人々とそれを支える自然の恵みがなければつくることはできません。岩手県雫石町を象徴するモチーフをダイヤルに配することで、製造の地への敬意を表しているのです。

自然環境と共生し、光と影から生まれる美しい時間。

馬蹄型のふたつのギャラリーでは絵画や彫刻、インスタレーションなど多彩な企画展が開催されている。●青森公立大学 国際芸術センター青森 住所:青森県青森市大字合子沢字山崎152-6  TEL:017-764-5200 開館時間:9時~19時(展覧会10時~18時) 休館日:年末年始(12/29~1/3) 入場料:無料 www.acac-aomori.jp

豊かな森に佇む、アートの体験センター

2001年、青森県青森市に開館した「青森公立大学 国際芸術センター青森」は、アーティストと市民との交流を通じて、新たな芸術文化を創出する場として設立。国内外の芸術家を招いた「アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」を中心事業とし、この地からインスピレーションを受けた作品を、自然に恵まれた広大な施設に展示しています。

また創作棟などを使った市民参加型のワークショップやセミナーも行われており、“美術作品の鑑賞”にとどまらない、アート体験を楽しめる場所になっています。安藤忠雄が手がけた建築は、豊かな自然環境との共生を図り、可能なかぎり樹木を伐採せずに建物を配置。森の木々の中に埋もれるように佇む施設は、四季の移ろいや時間の経過さえもひとつの展示作品のように見せてくれます。

機能性と美しさを両立させた、ヘリテージコレクション「SBGJ201」¥723,600(税込)。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップ専用モデル。

どの角度からでも見やすく、美しい王道モデル

ダイヤカットで視認性を高めたインデックスや針、歪みのないポリッシュ仕上げの平面で構成したケースをもつ「SBGJ201」は、グランドセイコー独自のデザイン理念である「セイコースタイル」を継承した王道モデル。鮮やかなブルースチールのGMT針を備えています。ホームタイムを示すこの針は、りゅうずを操作することでセンターのローカルタイム時針がジャンプして動き、簡単に異なる地域の時刻を表示できる仕組みです。

搭載する完全自社製ムーブメントの「Cal.9S86」は、GMT機能を付加しながらも、ムーブメントの振動数を毎時3万6000回というハイビート仕様にすることで高精度を実現。またダイヤルには、製造の地である雫石高級時計工房から見える雄大な岩手山の山肌をイメージした彫り模様を配して、個性的な美しさをよりいっそう引き立てています。

問い合わせ先/セイコーウオッチ お客様相談室 グランドセイコー専用ダイヤル
TEL:0120-302-617
www.grand-seiko.com