【グランドセイコー、腕に輝く9の物語。】Vol.5 愛着を育てていく、「9F」クオーツの独自構造。

  • 写真:溝口 健
  • 文:迫田哲也

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日本が世界に誇る最高級の腕時計ブランド「グランドセイコー」。長い年月をかけて生み出された“クオーツを超えるクオーツ”キャリバー9Fと“伝統と革新のメカニカル”キャリバー9S、ふたつのキャリバーを紐解きます。

日本が世界に誇る最高級の腕時計ブランド「グランドセイコー」。デザイナーと技術者が限界に挑戦し生み出されたキャリバー9Fとキャリバー9S、ふたつのキャリバーの秘密に迫ります。

高精度を誇る、グランドセイコーのキャリバー9F。長期間の使用に耐えるため、その機構にはクオーツ式では通常考えられない独自構造が選ばれました。果たしてその機構とは、いかなるものだったのでしょうか。

永く愛されるために、必要なこと。

写真の初代グランドセイコーをはじめ多くの機械式ムーブメントを徹底的に研究し、“クオーツを超えるクオーツ” キャリバー9Fは誕生した。

油断大敵とは、寺院で法灯を絶やさぬため、油を切らすべからずという戒めがその語源だという。油切れに注意すべきは腕時計も同じだ。潤滑油が切れると部品の磨耗が進み、故障の原因になる。機械式だろうがクオーツだろうが、長期間使用するなら、アナログ式の時計に共通するメンテナンスの要である。

ある時、裏ぶたが開けられた形跡がない初代グランドセイコーの内部に約30年前の潤滑油が保たれていたという話が、キャリバー9Fの開発陣の耳に入った。その腕時計がどれほどの歳月、稼働したのかは不明だが、油が残っていた理由については想像することができた。

クオーツは機械式と比較すると、歯車にかかる力が小さいため特別な保油機構は必要ないと考えられていた。しかしキャリバー9Fの開発陣は、その耐久性を極限まで高めたかった。そのため機械式ムーブメントに採用されていた、潤滑油の飛散、流失を防ぐ保油機構についてリサーチしていたのである。その結果、キャリバー9Fではローターの軸の先端「ほぞ」をスプリングとふたつの微細なルビー、その間に満たした潤滑油で守り支える機構が必須という結論を得た。

こうして、それまでのクオーツムーブメントにはなかった「組み合わせ軸受け」が採用される。キャリバー9Fは、年差を誇る高精度クオーツムーブメントであるだけではなく、人生の同伴者として永く愛用されるべきグランドセイコーのムーブメントだからである。

キャリバー9Fを読み解く。

「ダイヤフィックス」とは何か。

「組み合わせ軸受け」採用のキャリバー9F。

セイコークラウンが発売されたのは1959年。この時計に初めて採用されたのが、「ダイヤフィックス」と呼ばれる「組み合わせ軸受け」による保油機構です。それが初代グランドセイコーに継承され、クオーツであるキャリバー9Fでも活躍しています。その仕組みは、歯車の軸を保持するルビーの「穴石」の先に枠を設け、そこに同じく赤いルビーの「受石」をセットし、U字型スプリングで押さえるというもの。穴石と受石の間隔が一定になるので、潤滑油の量が適切に保たれます。もちろん、これによってメンテナンスフリーとなるわけではありませんが、保油性は格段に高まり、腕時計のムーブメントにとって致命的な故障を未然に防ぐのです。

ムーブメントを磁気から守る。

耐磁板の配置にも配慮と工夫があります。

腕時計にとって、油切れと同様に警戒する必要があるのが磁気です。テレビ、携帯電話、バッグの留め具など、我々の身の回りにある永久磁石は機械式、クオーツを問わずムーブメントに悪影響を及ぼします。その磁気からムーブメントを守るため、キャリバー9Fは磁気経路を確保したモーターを搭載したうえで、耐磁板を組み込んでいるのです。この純鉄の耐磁板は盾のように磁気を跳ね返すのではなく、磁気の「避雷針」として働きます。その耐磁性能は4800A/mで、ISO規格に定められたダイバーズウオッチと同等の耐磁性能を実現しています。とはいえ、携帯電話に腕時計を近づけたり、密着させたりは避けるべきです。

強度を4倍に高めた、タフな「地板」。

9Fを搭載したある腕時計の断面図。タフネスを実現する構造です。

キャリバー9Fを搭載したグランドセイコーを手にすると、ずっしりとした重みに気がつきます。その理由の一つは分厚い地板(じいた)にあります。腕時計ムーブメントの地板は自動車でいえば「シャシー」にあたる、いわばムーブメントの骨格となる基盤。キャリバー9Fの地板には、一般的なクオーツムーブメントに使われている地板と比較して約2倍の厚さをもたせました。強度でいえば約4倍。キャリバー9Fの開発陣は、ムーブメントの耐衝撃性、耐久性を高めるために、「軽く、薄い」というクオーツムーブメントの利点を、ある意味で「捨てた」のです。

25年目のタフネス。

究極のクオーツを目指して開発された、キャリバー9Fの誕生25周年を記念したモデルが登場。年差という高精度をベースとして、視認性、耐久性など、腕時計に求められるさまざまな要素を徹底的に追求したキャリバー9Fの数々の美点のうち、「タフネス」をコンセプトとして大胆にデザインされています。

Grand Seiko SBGV247(左)
ブルーのダイヤルにキャリバー9Fの25周年を象徴する意匠を施した限定モデル。時分針とインデックスにルミブライトを採用し、視認性をさらに向上させています。20気圧防水、16,000A/m という耐磁性能、ねじロック式りゅうず、軽く強いコーデュラ® 1680Dストラップなど随所でタフネスを実現。クオーツ、ステンレススチールケース、ケース径40.0㎜、世界限定1000本、330,000円+税

Grand Seiko SBGV245(右)
ストラップがコーデュラ®︎1000Dであること以外、ルミブライトや防水性能、耐磁性能、ねじロック式りゅうずなどのスペックは左の限定モデルと共通です。ケースの造形は直線を活かしたシャープなもの。目を引く縦筋目の仕上げは、一度鏡面にしてから仕上げられています。ブラックダイヤルのモデルも同時に発売。クオーツ、ステンレススチールケース、ケース径40.0㎜、300,000円+税

※価格は2018年7月現在のメーカー希望小売価格(税抜き)を表示しています。