グランドセイコー、伝統とテクノロジーの見事な融合。

  • 写真(ポートレート):森山将人(mili) 写真(時計):岡村昌宏(CROSSOVER)
  • 文:篠田哲生

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デジタルメディアのアーティスト、真鍋大度さんと、グランドセイコーによるアナログ表示の真っ黒な腕時計。正反対と思われがちな両者だからこそ、惹かれあう感性がありました。

真鍋大度(メディアアーティスト) 1976年生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、ゲームやDJ、ヒップホップに熱中する。東京理科大学理学部数学科を経て、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に入学。2006年にウェブからインタラクティブデザインまで幅広いメディアをカバーするデザインファーム「rhizomatiks」を立ち上げる。

プログラミングとインタラクションデザインを駆使するメディアアーティスト、真鍋大度さん。彼の名が世間に広まったのは、テクノ・ポップ・ユニット「パフューム」のステージ演出のテクノロジーサポートがきっかけ。カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルでのパフュームのパフォーマンスは、ニュースでも話題に。さらにはミュージシャンのMVや企業CFなども手がけており、気付かぬうちに彼の作品に触れている人も多いでしょう。

人間と最も近い機械、それがアナログウォッチ。

実体のないプログラミングからさまざまな表現をつくり出すメディアアーティストにとって、19世紀後半から連綿と受け継がれてきた、アナログの極みのようなプロダクト〝腕時計〞の姿は、どのように映るのでしょうか?

「現在の僕にとっては、腕時計は必ずつけるものではありません。しかし、仕事で人前に出る時などは、意識的につけるようにしています。だから道具というよりはファッションやアクセサリーに近いですね。セイコーには思い入れがありますよ。中学生の時に両親からプレゼントしてもらい、大学生まで大切にしていました。グランドセイコーも当然知っています。しかし〝伝統を守っている〞というイメージが強かったので、この真っ黒な新作を見たときは驚きましたね。しかしこの立体感や艶感は、デジタルの世界にはない表現ですし、光のとらえ方で見え方が全然違ってくる。この豊かな表情をスマートウォッチで実現しようと思うといまのスペックでは難しいですね」

軽量で頑強な上に、独特の艶感をもつセラミックスでケースをつくることは、グランドセイコー始まって以来の挑戦。しかも搭載するムーブメントは、機械式とクオーツ式のハイブリッドであるスプリングドライブを採用しました。

「伝統とテクノロジーは本来であれば、正反対であるはず。その両者のバランスを保ちつつ、プロダクトに落とし込む作業は、相当難しかったでしょうね。ぜひとも技術者の方々に開発時の裏話を聞きたいですね。スマートウォッチは身につけるコンピューターとして、多くの試みが行われていますが、まだまだうまく行っていないことが多いです。生活に入り込むためにはこの腕時計のように機能以外の魅力も必要になってきます。でも針で時刻を表現するアナログ腕時計は見事な形でさまざまな問題をすでに解決しています。今後はウェアラブルなデジタル機器は増えるでしょうし、やがては身体の内部にデバイスを埋め込むこともあるでしょう。そういう時代になったとき、研究開発を進める上で腕時計と人間の関係性は、大きなヒントになるかもしれません」

「細部に光があたることで、腕時計の立体感が際立ちますね。その豊かな表情が、腕時計の魅力になっています」。ケース素材は前衛的でも、美しくカットした針やインデックスは、グランドセイコーのデザインコードをしっかり守っている。縦目配列のインダイヤルやGMT針の先端に入れた赤いポイントなど、細部までしっかりとデザインされており、複雑な機構にもかかわらず視認性も確保している。
「普段は目に触れない場所でも、ていねいに仕上げてクオリティを高めようとする信念が、見ているだけで伝わってきます」。シースルーバックからは、セイコー独自のスプリングドライブ機構を搭載した自社ムーブメントCal.9R96が見える。細部までこだわり抜くことで、高精度の時計が生まれる。デザインや素材は前衛的でも、時計自体はセイコーの伝統に則ってつくられているのだ。

曖昧な感覚が、 想像力を刺激する。

「rate」は、人間の感覚の外側にある表現を、スマートフォンのカメラを通じて発見し、体感するというインスタレーション。Daito Manabe + Motoi Ishibashi, rate-shadow, 2016 (Installation view of the exhibition Fertile Landscapes at Maison de la culture du Japon à Paris) photo: Motoi Ishibash(i Rhizomatiks Research)
虹色に見える提灯だが、これはあくまでもカメラを通して見た表現であり、肉眼では白色にしか見えない。それが人間の曖昧さなのです。2014 photo by Toshitaka Mochizuki(Rhizomatiks Research)

真鍋さんは2014年のミラノサローネにて、インスタレーション「rate」を発表。この作品は2015年にオランダで開催された世界最大のメディアアートのイベント「STRP」にも出展しました。これは人間の曖昧な感覚に気が付くインスタレーション。

「人間のもっている感覚って、非常に曖昧なんです。目も耳も感じ取ることができるのは、ほんの一部分ですよね。しかし人間はそういういい加減な部分を許容できるから生きていける。『rate』は会場に10個の光る提灯を吊るしました。肉眼で見ていると白く光っているだけなのですが、実は1/10,000,000秒という猛スピードで点滅しており、スマートフォンのカメラで撮影すると、提灯にストライプ模様が現れるという仕組みです。〝時間の解像度〞を上げることで、普段何気なく接している時間の新しい側面を見せることができました」

真鍋さんにとっては、時間さえもアートの題材のひとつになるのです。

「僕にとって時間は〝味方〞ですね。締め切りというタイムリミットがあるから、コストとスケジュールが明確になり、リスクを背負ってでもギリギリまで攻めることができますから。自分の中でも締め切りに対する感覚が変わりました。10年前までは作品を出すことによって、それが古くなってしまうことを恐れていました。しかしいまは逆。どんな作品だって古くなる可能性はあるし、外に向けて発表するときは〝その時代に合った素晴らしさ〞がある。古くなっても、また新しいことをすればいいだけですからね」

窓から差す光を意識しながら時計のディテールに目を凝らす。デジタルアートとは異なるアナログ表現の面白さを体感してもらった。

だからこそ、伝統を守りながら新しいことにチャレンジを続けるグランドセイコーに惹かれるのでしょう。

「外国での仕事が多いのですが、意識していなくても〝日本っぽいね〞と言われます。おそらく、見えないところまで緻密につくろうという姿勢が、日本らしく見えるんでしょうね。このグランドセイコーは裏側からムーブメントが見えるようになっていますが、見えない部分まできっちり磨き上げていると聞きました。そういう細やかさが、最終的な品質につながるという点は共感できます。僕らは誰から頼まれたわけじゃないですが〝日本代表〞という心持ちで仕事をしていて、グランドセイコーからも同じ姿勢を感じます。実は先日も、とある町工場にお邪魔して、技術の話を聞かせてもらいました。さまざまなジャンルのテクノロジーと自分たちの考えることが、どのように融合するのかを考えるのが楽しいんです。なにも思いつかないことの方が多いのですが(笑)、それでも知見を広げることで作品やプロジェクトのきっかけになる。グランドセイコーのことも、もっと深く知りたくなりました」

デジタルアートの世界は、矢継ぎ早に進化します。それならば、グランドセイコーだって進化を止める必要はありません。黒いセラミックケースは、未来への第一歩にすぎないのです。(篠田哲生)

ブラックの美しさと、機械の表現力を愛でる。

「グランドセイコー ブラックセラミックス リミテッドコレクション スプリングドライブ クロノグラフGMT(SBGC015)」ブラウンのレザーストラップが高級感を高めており、パーティなどのハレの場でも映えるだろう。自動巻き(手巻き付き)スプリングドライブ、ジルコニア・セラミックス+ブライトチタン、ケース径46.4㎜、パワーリザーブ約72時間、クロコダイル革ストラップ、世界限定500本。¥1,512,000 ※国内では、グランドセイコーマスターショップのみでの取扱いです。

写真家の作品が、ストラップに。

二人の写真家の作品を、腕時計ストラップにするキャンペーンが全国のグランドセイコーマスターショップで展開中。9月30日までに「グランドセイコー ブラックセラミックス リミテッドコレクション」を購入した人の中から、抽選で各135人に、それぞれの作品をプリントしたオリジナルバンドをプレゼント。

上写真:右は荒木経惟氏作品コラボレーションバンド。左が森山大道氏作品コラボレーションバンド

※「グランドセイコー アヴァンギャルド」とキャンペーンの詳細は、www.seiko-watch.co.jp/gs/avant-garde

●問い合わせ先/グランドセイコー専用ダイヤル TEL:0120-302-617(9:30~21:00、土日祝日は17:30まで)