いまこそフェラーリ黄金時代! 「ローマ」という名の甘く、官能的なグランツアラー

  • 文:小川フミオ

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昨年の発表以来、フェラーリ社の新たな方向性を体現する存在として注目を集め続けているフェラーリ ローマ。日本への上陸を果たした同車を試乗レビュー。このクルマはなぜこうも魅力的なのか?

夕暮れの道を疾走するフェラーリ ローマ。フェンダーが盛り上がった美しい造型で、反射する光がボディの美しさを強調する。

昨年11月、イタリア・ローマで発表されたフェラーリの優雅なクーペ、その名も「ローマ」がついに日本上陸を果たし、ドライブすることが出来た。車名はフェデリコ・フェリーニ監督「甘い生活」(1960年)の舞台、50年代から60年代にかけてのローマの有閑階級のライフスタイルからインスピレーションを得たそうだ。いったいなぜ、このクルマが世界中のクルマ好きの関心を集めるのだろうか。その魅力の源泉を探った。

テクノロジーは最新、だがその美しさは伝統的。

長いノーズは古典的なスタイルであるものの、同色グリルや薄いLEDヘッドランプなど現代的な要素を合わせている。

ローマはすばらしい。これが第一印象だ。都市のローマは、もちろん、いろんな顔をもった街だ。フェリーニがたびたびモチーフにしたこの街は、美しく、歴史の重みがあって、官能的で、ちょっと退廃的。そんなイメージにこのクルマを二重映しにしているのだろうか。

クルマのローマは、イタリアの首都から400キロ北上したマラネロという町にあるフェラーリの工場でつくられている。フェラーリ社も考えてみると、世界の富裕層を相手に、伝統的に官能と情熱とエレガンスをもったモデルをつくり続けてきた。

キャビンが後方でぐっとすぼまると同時に、リアフェンダーが大きく張り出し、パワフルな印象のリアビュー。

フェラーリの創始者、エンツォ・フェラーリがそもそもレーシングドライバーだったこともあり(老舗のスポーツカーメーカーの大半は同様)、フェラーリは1949年の創業時からずっとレース活動を続けてきた。

一時期はミッレミリアやタルガフローリオ、あるいは仏のツールドフランスなど、公道レースにも熱心だったが、観客が巻き込まれて死亡する事故が後を絶たなかった。公道でのレースが中止されたあとは、ルマン24時間レースで名を馳せ、のちに活動の中心はグランプリレースへと移っていった。

「レース活動のために公道を走れるクルマをつくって売る」とエンツォ・フェラーリが公言していたように、真のフェラーリファンは、レースを応援するためにフェラーリ車を購入していたとか。

印象的なサイドビュー。フロントエンジン、後輪駆動、それに後退したキャビンなど、フェラーリの美しさは普遍的だ。

いっぽう、米ヴェニスビーチや伊ポルトフィーノ、さらにモンテカルロでパーティに乗りつけるためにフェラーリを注文する富裕層も多かった。クルマの世界では、見せびらかすために乗るクルマのことを、プロムナードカーと呼んだりする。フェラーリは、しかし、どんなに優雅に見えるボディであっても、走らせて楽しめるクルマを作ってきた。

もし仮に、プロムナード(海岸沿いの散歩道)で映え、かつ長距離旅行も快適に行えるクルマを作る”伝統”がフェラーリに残っていたとしたら、2019年秋に発表されたローマも、正統なフェラーリのグランツアラーといっていいかもしれない。

ローマのよさは、スタイリングでも伝統的なスポーツカーの美しさを持っていることだ。長いノーズに、小さくまとまったキャビン。大きな存在感を持つタイヤに、後輪のうえに座るようなドラインビングポジション。これらが美しいプロポーションをつくる。

しかもそれだけでない。テクノロジーは最新。コネクティビティ技術もしっかり盛り込まれている。こんな時代でなければ、海岸での見せびらかしを楽しめる、あるいは、眺めるだけでも気分が盛り上がる最高のプロムナードカーとして、大いにありがたがられたはずだし、遠くまでのツーリングもまた喜びになっただろう。

フロントエンジン、後輪駆動、そしてすばらしいエンジン

デュアルコクピットというコンセプトでデザインされたインテリアで、タッチコントロールが多用されている。

ローマは、3855ccのV型8気筒エンジンをフロントに搭載した、後輪駆動のクーペ。最高出力は456kW(イタリア式に表示すると620CV)で、最大トルクは760Nmだ。

シートはフェラーリがいうところの「2プラス」。前席背後に、ひとはちょっと乗りにくいけれど、荷物が置けて便利なスペースが確保されている。ポルシェ911の人気の理由のひとつが、やはり後部に荷物が置ける点であることを思い出す。

ダッシュボードのコントロール類は、多くがタッチ式のデジタルだ。ステアリングホイールのスポークに設けられたエンジンのスターターボタンまで、タッチ式スイッチなのには驚いた。

TFT液晶を使ったメーターはスイッチで切り替えられ、ナビゲーション画面を最大にすることもできる。

メーターまわりも液晶で、ドライバーはそのとき必要な情報を自分の眼前に表示することができる。オーソドクスに速度計と回転計を並べられるし、F1マシンのように橫バーで表示される回転計をメインにすることも出来る。

あるいは、ナビゲーションの画面を最大に表示したり、音楽など車内のエンタテイメント装備へと切り替えることも可能。助手席からもインフォテイメントシステムの操作にアクセスできるようになっている。結果、かなり快適にドライブを楽しめるのだ。

デジタル技術を積極的に採り入れているいっぽう、基本はなにひとつとしておろそかにされていない。からだをしっかりホールドしてくれるうえ、人工スウェードを表面に張ってドライバーのからだがすべらないように考慮されているのが、スポーツカーっぽい。

センターダッシュボードでは空調やシートヒーターや、インフォテイメントなどさまざまな操作ができる。

しっとりと手に馴染むステアリングホイールを握りながら、正面をみると、フェンダーの峰が左右に盛り上がっているのが目に入る。グラマラスというのか、印象としては官能的であるいっぽう、ワインディングロードなどをとばすときは、車体のサイズの目安になる。

すばらしいエンジンだ。これこそ、伝統的なフェラーリ車の魅力を引き継いでいる最良の部分だ。最高出力は5750rpmから7500rpmにかけて発生するだけあって、アクセルペダルを踏み込んでいくと、しゅんっと一気にレッドゾーンちかくまで回る。

エンジン排気音をベースにした乾いたエンジン音が室内に満ちるのを聞きながら、どんどん加速していくと、車両は路面に張り付いたように疾走する(という表現がまさにぴったり)。みごとすばらしい安定感だ。

誰が見てもスポーツカーだと思ういっぽう、「とてもエレガントに仕上げた」とフェラーリは謳う。

8段のツインクラッチ式変速機はオートモードもマニュアルモードも選べる。エレガントなローマのキャラクターからすると、自動でギアシフトをしてくれるオートモードいれっぱなしというユーザーも出てくるだろう。クルマにまかせっぱなしでも、ごく低速域から力がでるので扱いやすい。ドライブモードセレクターでコンフォートモードを選択すると、低い回転数のままどんどんシフトアップしていくのには、少々驚かされるほどだ。

すぐに「8速」とか表示されるのを見ると、フェラーリといえども、CO2排出量を抑えて環境適合性を重視しなくてはいけない時代なのだとよく分かる。それでいて、高いギアで低い回転数でも、まったくかったるさなく走れてしまうのが、ローマの洗練性だ。

ゆったりと、長距離をこなすグランツアラー

1960年代のフェラーリのGTにインスピレーションを得たというスタイリング。

フェラーリではローマに「バリアブルブーストマネージメント」というシステムを組み込んでいる。選ばれたギアに最適なエンジントルクを配分するというものだ。アクセルペダルを強く踏んでの加速時は、シフトアップが抑えられ、トルクもふだんより多く後輪に回される。同時に、先述のように、シフトアップを早めて、かつトルクも抑えめで、燃料消費量を抑えることもできる。もっと積極的に楽しもうと思ったときには、マネッティーノ(伊語で小さなダイヤル)と名づけられたドライブモードセレクターを回して「スポーツ」を選ぶ。

サスペンションのダンピング、トラクションコントロールの介入度合い、電子制御ディファレンシャルギアのやはり介入度合い、それにギアのシフトタイミングなどが変わる。スポーツモードはさすがフェラーリだけあって、本当にスポーツカーだ。足まわりがびしっと締まり、ステアリングホイールのダイレクト感が増し、少しの切れ角だけで車体は即座に向きを変える。そして背後でエンジンが”吠える”。

静止から時速100キロまで加速するのにわずか3.4秒というから、かなりの駿足なのだ。

元気なときはより元気になる。ローマはまるで美食のように活力を分け与えてくれるのだ。ローマとドライバーは、ちょっと極端なことをいえば、血管でつながっているように錯覚してしまうほどだ。

エレガンスがセリングポイントのはずなのに、サーキットで走らせたらどんなに楽しいだろうと思う。グランプリマシンを開発するために量産車を作ったというフェラーリの伝説は、本当なんだろうと思う。昔からフェラーリのオーナーは、自分がグランプリドライバーになったらと、楽しい想像をしながら、”フツウ”のフェラーリに乗ったのだろう。

ゆったりしたい気分のときだって、ローマはいいパートナーになる。ドライブモードで(さきに触れた)コンフォートモードを選ぶと、エンジンは落ち着きを取り戻し、乗り心地はしっとりする。グランドツアラーとしてのローマに変貌するのだ。

私は、一般的にいって、コンフォートモードが好きではなかった。ダンピングといって車体の跳ねの制御が甘くなり、しまりのわるい、と言いたくなる乗り心地になってしまうことが多いからだ。ローマはちがう。びしっとしている。コンフォートでも、なよなよしたかんじがいっさいない。むしろ、コンフォートでじゅうぶん楽しめる。オーディオもブルートゥース接続が出来て、しかも音のバランスがよい。

音源は、音のダイナミズムが大きいベートベンの交響曲だろうと、ジャズのささやくようなボーカルだろうと、民族音楽の複雑な器楽構成だろうと、BTSだろうとブラックピンクだろうと、ていねいに再生される。やはり長距離をこなせるグランドツアラーなのだ。

パワフルな後輪駆動車を表現したリアセクションの作りかたは上手で、この角度はローマを魅力的にみせる。

私は、2019年にローマでオリンピック競技の会場を使った、このクルマの発表会に出かけたことがある。そのとき、会場には、冒頭で触れたフェリーニ監督の「甘い生活」のイメージが溢れていた。フェラーリがべつのイメージを援用するなんて、めったにないことなので、興味ぶかかった。

マルチェロ・マストロヤンニ(クルマ好き)、アニタ・エグベリ、アヌーク・エーメらの当時のスティル写真が、ローマにチネチッタと呼ばれる映画撮影所があり、俳優たちが夜は、ベネト通りなどに繰り出していた”黄金時代”を彷彿させた。

でははたして、黄金時代は過ぎ去ったのか。ことフェラーリに関しては、過去のモデルのほうがいまのモデルよりいい、なんていうことは動力性能の面からみたばあい、絶対にない。最新のモデルがつねに最上といってもいい。つまり黄金時代はいま、といってもいい。ローマはそう確信させてくれるモデルだ。

フェラーリ ローマ
●サイズ(全長×全幅×全高):4656×1974×1301mm
●エンジン形式:V型8気筒ツインターボ
●排気量:3855cc
●最高出力:456kW(620cv)
●最大トルク:760Nm
●駆動方式:ミドシップ後輪駆動
●車両価格:¥26,820,000
●問合せ:Ferrari.com