【電気自動車、 本当の話。】後編:欧州で売れているEVランキングと、日本が遅れている理由。

  • 文:寄本好則(EVsmartブログ編集長)

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日本ではまだ多くの人に理解されていない電気自動車(EV)。世界との意識の違い、クルマの速さ、価格、耐久性などを「数字」から考える。まずは、欧州におけるEV販売ランキングから紹介しよう。

10位:フォルクスワーゲン e-Up! 【ドイツ】 9,975台

フォルクスワーゲンのコンパクトカー「up !」のEVモデル。2013年のデビュー時は電池容量18.7kWhでドイツでの価格が2万6,900ユーロ(約332万円)。現行モデルは32.3kWhと大幅に大容量化しつつ、ベースモデルの価格は2万1,975ユーロ(約271万円)に抑えられている。デビュー当時は日本導入が計画されてメディア試乗会も開催されたが、チャデモ規格の急速充電器を使用できない機種があることが判明。いまだ日本での発売は見送られたままだ。輸入車EVとチャデモ充電器の相性が悪いケースはその後も複数車種で報告されており、輸入車のインポーターにとって悩ましい課題となっている。

9位:BMW i3【ドイツ】 10,495台

2013年に発売されたドイツの名門BMW製のEV。軽量化や電費向上のために炭素繊維強化樹脂製の先進的なボディや空力も考えた専用の幅が狭い大径タイヤを採用するなどEVならではのデザインが印象的。また、発電専用のエンジンを搭載した「レンジエクステンダー」モデルをラインアップしているのも特徴だ。日本でも14年に発売。電池容量の増加など改良を重ねつつ現在も販売されている。現行モデルの電池容量は42.2kWh。価格は499万円~。デビューから年数が経ちランキングも低迷気味だが、BMWからはSUVの「iX3」、スポーティセダンである「i4」など新型EVの投入が予定されている。

8位:キア e-ニーロ【韓国】 11,865台

韓国、ヒョンデグループのキア(起亜)ブランドがハイブリッド車として開発したコンパクトSUV「ニーロ」、そのEV版がこのクルマ。バッテリー容量は39kWhと64kWhの2タイプが用意されていて、英国での価格は39kWhモデルが2万6,620ポンド(約365万円)~、64kWhモデルが3万166ポンド(約413万円)~となっている。ヒョンデ同様に日本市場ではまったく馴染みのないメーカーだが、ことにコンパクトカーでは欧米の市場でも高い評価を受けている。電動化への意欲も高く、2020年5月には25年までにキアブランドとして11車種のEVをグローバル市場に投入する計画を発表している。

7位:日産リーフ【日本】 15,586台

量産電気自動車のパイオニアである「リーフ」だが、10年が経過した現在、欧州での販売台数は次第に順位を下げつつある。今後、「フォルクスワーゲンID.3」のデリバリーが始まると、同じCセグメントのEVとしてしのぎを削ることになり、海外メディアでも「大幅に値下げしないと選択肢としての魅力を失っていく」といった辛口の評価が目立ってきた。日本発の急速充電規格であるチャデモ普及に貢献したリーフだが、欧州CCS規格が高出力化を進めるなか、最大出力50kW以下で広がったチャデモがハンディキャップになることも懸念される。国内外ともに日産の巻き返しに期待したい。

6位:プジョーe-208【フランス】 15,850台

欧州市場には2020年初頭から投入されたコンパクトモデルのEV版。電動化を想定した新開発のプラットフォームを採用し、エンジン車とEVの垣根をなくし、好みに応じてパワートレインを選択できるコンセプトを提示している。20年7月には日本でも発売を開始した。電池容量は50kWhで、価格は389万9,000円~とリーズナブル。エンジン車よりおおむね100万円高い設定だが、補助金やランニングコストなどを勘案すれば月々の支払い額はさほど変わらないことがアナウンスされている。欧州規格のCCSでは最大100kWの急速充電に対応しているが、日本のチャデモでは最大50kWまでの対応。

5位:ヒョンデ・コナ エレクトリック【韓国】 15,971台

韓国最大手の自動車メーカーであるヒョンデ(現代)も、EVには日本メーカー以上に注力している。小型クロスオーバーSUVの人気モデルである「コナ EV」には64kWhの電池を搭載。欧州WLTPで278マイル(約447km)の航続距離をもちながら、価格は英国で3万150ポンド(約413万円)~と、アウディe-tron の半額以下で購入できるのも人気の要因だろう。日本市場には本格進出していないヒョンデブランドだが、欧州やアメリカでは一般の自動車はもちろんのことグローバルなEV市場でも着実に支持を広げつつある。既に世界の自動車市場では確固たるブランドイメージを築いている。

4位:アウディe-tronスポーツバック【ドイツ】 16,643台

昨年9月17日、日本でも発売されたアウディのフルサイズSUVのEV。日本初登場モデルの価格は1,327万円~。2020年4月に発売された欧州での価格はベースモデルで7万1,350ユーロ(約892万円)~ではあるが、この価格のモデルがこれだけ売れていることは注目に値する。フルサイズのいわゆるEセグメントの販売台数では、2位のポルシェ・タイカン(4605台)や3位のテスラ・モデルX(2590台)に大差を付けて堂々の第1位を独走中だ。アウディでは25年までに30車種の電動化モデル導入(うち20車種はEV)を宣言している。

3位:フォルクスワーゲン eゴルフ【ドイツ】 21,794台

国民車の開発を使命として誕生したフォルクスワーゲンの名車ゴルフのパワートレインを電動に置き換えたモデル。日本にも導入されていたが、既に新規受注は終了しており公式サイトのモデル一覧からも姿を消している。欧州では電気自動車専用プラットフォームで新規開発されたコンパクトハッチバックの「ID.3」やSUVの「ID.4」といったIDシリーズが発表されており、今後は欧州でも電気自動車の主力はIDシリーズに移行していく。フォルクスワーゲンジャパンによるとIDシリーズの日本導入は2022年以降とされているが、詳細は未定である。

2位:テスラ・モデル3【アメリカ】 34,014台

一昨年、2019年の年間販売台数は9万5247台。2位はこのランキング1位の「ルノー・ゾエ」の4万7408台だった。EVの年間累計販売台数として画期的なセールスを記録して多くのバックオーダーを抱えているが、コロナ禍の影響があり昨年7月の販売台数が856台にとどまった。今年の累計ではゾエと約1万2000台差の第2位となっている。21年半ばまでにはドイツ・ベルリンに建設中のギガファクトリーが完成予定。モデルYを含めてテスラの欧州でのデリバリー能力が大きく向上する。自動車の本場といえる欧州で、モデル3とモデルYの勢いがどこまで続くか注目したい。

1位:ルノー・ゾエ【フランス】 46,259台

ドイツやフランスといった自動車大国でも新車販売シェアが10%を超えている欧州のEV事情。販売台数ランキングには日本では買えない車種も多い。2020年に欧州で最も売れているEVは、日産とアライアンスを組むルノーのコンパクトEV「ゾエ」だ。2012年のデビュー当初は22kWhと電池容量が少なく苦戦したが、19年6月のモデルチェンジで52kWhへ。航続距離が390kmに延び、フランスでの価格は3万2,300ユーロ(約400万円)~と比較的手頃で人気となっている。日産と市場の役割分担をしていることから、日本に導入される予定はない。


関連記事:【電気自動車、 本当の話。】前編:独走するテスラ 、いったいなにがすごいのか?

データ出典:EV Sales http://ev-sales.blogspot.com (2020年1~7月)

8つの数字から読み解く、電気自動車を取り巻く現実。

50万台──量産EVのパイオニアである、日産リーフの10年累計生産台数。

2010年に世界の自動車メーカーに先駆けて発売された「日産リーフ」。20年9月には累計生産台数50万台を突破した。50万台目のリーフは日産イギリス工場で生産され、ノルウェーのマリア・ヤンセンさんという女性オーナーのもとに納車された。世界中のリーフの総走行距離は148億kmを超え、エンジン車と比較して約23億kg以上のCO2排出量が削減された計算となる。もちろん発電時の排出は無視できないが、ヤンセンさんが暮らすノルウェーでは使用する電力のほぼ100%を水力発電中心の再生可能エネルギーでまかなっている。

イギリスの工場で生産された、50万台目のリーフとオーナーのマリア・ヤンセン

62万台──リーフが達成した台数を、わずか3年でテスラ・モデル3は超越。

リーフは10年かけて50万台に到達したが、「テスラ・モデル3」は2017年の発売からわずか3年(20年第2四半期)で累計生産台数が約62万台に到達。中国・上海の工場が完成し、ドイツ・ベルリン工場も完成が近い。20年の目標としていた年間50万台はコロナ禍の影響でやや下回りそうな見込みだが、モデル3をベースに開発されたSUVのモデルYもラインアップに加わり、21年以降は年間100万台販売レベルに向けてさらに飛躍するだろう。欧米や中国で電気自動車の普及が加速したのはこのモデル3の功績が大きい。

2021年以降も、テスラの勢いは止まるところを知らない。

1分3秒382──モデル3が筑波サーキットで記録した、タイムアタックでの最速タイム

モデル3はテスラ車の中では低価格(日本では511万円~)だが、サーキット走行の性能ではむしろ格上の「テスラ・モデルS」をも上回っている。開発時期が新しいため、バッテリーやブレーキなどの冷却システム、また駆動力を制御するプログラムなどが進化。筑波サーキットコース2000のタイムアタックでは、エアロパーツやタイヤ交換などの簡易なチューンアップで、高性能スーパーモデルに匹敵する1分3秒382というタイムを記録している。ちなみに0-100㎞/hの加速は3.4秒。これもポルシェ911など高性能スポーツカーに匹敵する性能だ。

欧州に比べると、日本は EV後進国?

70%と0.7%──ノルウェーと日本における、 プラグイン車新車販売シェア

プラグイン車とは、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)のように外部から充電できる電池をもつモデルのこと。世界の中でも普及が進んでいるノルウェーでは2020年8月の新車販売におけるシェアは、EVが52.8%、PHEVが17.4%でプラグイン車のシェアが70.2%に達している。ドイツやフランスでもプラグイン車シェアは10%を超え、イギリスは9.7%、欧州では普及が本格的に進みつつある。一方で、日本のシェアはわずか0.7%程度。日産リーフや三菱i-MiEVをいち早く発売したものの、EV後進国になりつつある。

10年100万km──レクサスが欧州で販売する、バッテリーの保証内容。

バッテリーがすぐに劣化してしまうというのも、日本で広がってしまったEVへの誤解のひとつ。たとえば、欧州で既に発売されている「レクサスUX300e」では、10年または100万kmのバッテリー保証が発表された。初代リーフ登場の頃に比べてバッテリーそのものの性能が向上し、急速充電時などの温度管理技術が進化している。EVのバッテリーはボディなど自動車そのものの寿命よりもむしろ長くなっているのが現状と言える。EV用として役目を終えたバッテリーの定置型電池としてのリユースや、リサイクルへの取り組みも広がりつつある。

10年または100万kmのバッテリー保証が発表されたレクサス UX300e

10車種──ダイムラー社が、今後3年で投入するモデル数。

メルセデス・ベンツなどのブランドをもつドイツのダイムラー社CEOが「今後はすべての新型車でEVを最初に開発する」ことを表明。メルセデス・ベンツでは2022年までに10車種以上のEVを投入することを公表した。

さらに、アウディでは25年までに20車種以上のEVを発売することを宣言。フォルクスワーゲンもEV専用で開発されたID.シリーズをすでに発売、今後もEV車種の強化に意欲的な姿勢を見せるなど、欧州各社がEVに本気で取り組み始めたことがうかがえる。日本はこの分野で、置き去りにされつつある。

新モデル投入を急ピッチで進めるメルセデス ベンツ。写真は EQC 400 4matic

約45万円──中国で発売された大衆EV、その驚くべき値段。

EVは高価という常識も世界では打破されつつある。中国の上汽通用五菱汽車が2020年7月末に発売した電気自動車「宏光MINI EV」は、ベースモデルの価格が28,800元(約45万円)~。7月は月間7348台、8月にも9150台のセールスを記録。7、8月ともに月間約1万2000台を販売したテスラ・モデル3に次ぐ人気となっている。宏光MINI EVは電池容量が約9.3kWhと小さいが、同じ中国の長城汽車が発売する「長城ORA R1」は59,800元(約94万円)~で電池容量33kWh。一充電航続距離で225km程度は走行可能という実用性をもつ。

驚くべき価格で発売された、上汽通用五菱汽車「宏光MINI EV」

約9Kg──EV1台あたりに使用する、希少金属コバルトの量。

2019年に世界中で生産されたEV用バッテリーには、およそ1万9000トン、1台当たり約9kgのコバルトが使われたという報告がある。コバルトの全世界での埋蔵量は710万トンしかないとされ、中心的な産出国であるコンゴ民主共和国では鉱山労働者が過酷な状況を強いられるなど、SDGsの観点から深刻な課題も孕んでいる。テスラは9月23日に開催した「バッテリー・デー」でコバルトを使用せず、高性能で低価格な電池実現への取り組みを発表した。サステイナブルな電池生産への挑戦は、EV普及への大きな壁を打ち破る試みのひとつである。

●1ポンド=約137円、1ドル=約106円、1ユーロ=約125円、1元=約15.7円(2020年10月現在)
●車両価格やサービスの価格は予告なく変わる場合があります。
●発売予定のクルマは、仕様や細部などが変更になる場合があります。

1ポンド=約137円、1ドル=約106円、1ユーロ=約125円、1元=約15.7円(2020年10月時点)

●車両価格やサービスの価格は予告なく変わる場合があります。

●発売予定のクルマは、仕様や細部などが変更になる場合があります。

※Pen2020年11/15号「サステイナブルに暮らしたい。」特集よりPen編集部がは再編集した記事です。