【TRUME、時を刻むアナログの鼓動】Vol.5 直観に訴える、ディテールの遊び。

  • 写真:岡村昌宏
  • 文:ガンダーラ井上

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腕時計ブランド「TRUME」に識者が迫る連載企画。第5回はシューデザイナー、勝川永一さんがものづくりのコンセプトを軸に語ります。

TRUMEのファーストモデルはGPSセンサー、気圧・高度センサー、方位センサーを内包し、各種の情報をアナログ針で表示。アクセサリーのエクスパンデッドセンサーとの連動で気温・紫外線・歩数・消費カロリーの表示も可能。腕時計本体は光発電だけで稼働。TRUME TR-MB8002エクスパンデッドセンサー付きモデル¥302,400(税込)

TRUME(トゥルーム)は、エプソンが立ち上げた新コンセプトウオッチのブランド。さまざまなセンサーを搭載しながらも、その表現をすべてアナログの針で行うという大胆な発想で注目を集めています。シューデザイナーの勝川永一さんにTRUMEを使ってもらい、自身と共鳴するものづくりの哲学について語ってもらいました。

時代感にフィットする、 アナログなコンセプト

東京都目黒区出身。大学卒業後に国内の靴メーカー勤務を経て渡英。靴のデザインと製作を学ぶ。2007年より独自の皮革にこだわったコレクションを発表。シューデザイナーとして独自のポジションを確立している。http: //hkatsukawafromtokyo.net

天然皮革とコルクそして生ゴムというナチュラルな素材を用いて手作業でつくられたスニーカーライクなスタイルの靴。あるいはアッパーに皮革とデニムを使いながら、高機能素材のソールと組み合わせたモデルなど、勝川永一さんのデザインした靴には、常識の垣根を超えた発想と、それを形にする確かな技術が詰まっています。

「いまの時代感と過去の技術を融合させて、僕がつくる意味のある靴を探求しているつもりです。アプローチとしては手工芸的な要素が強いですが、フットウエアとして機能性をどこまで実現していくのかを常に考えています」

アッパーには荒々しいテクスチャーのニベレザー、ソールは天然ゴムとコルクを用いた『すべてが土に還る』シューズ。既成概念と逆のアプローチが、根源的な美しさへと昇華しています。

人間が身に着ける道具として、心に響く仕立てであることと同時に、現代的な機能も盛り込む。1ページ目で、勝川さんのシューズとともにある腕時計。それがエプソンの新コンセプトウオッチ、TRUME(トゥルーム)です。高精度GPSセンサー、気圧・高度センサー、方位センサーを腕時計本体に内蔵し、エクスパンデッドセンサーには紫外線、温度、歩数、消費カロリーを測るセンサーも搭載。計測値は、すべて文字盤のアナログ針だけで表示されます。

「昨今はデジタルの情報がすごく増えていますが、腕時計に関しては針の物理的な動きで伝えるアナログが好きです。TRUMEが意図している、様式としてのアナログと機能としての電子制御の融合というコンセプトに、いきなり共感しています」と勝川さん。

「TRUMEの見た目は、すべて針で表示しているのでベーシックな印象があります。クラシカルな意匠をあえて残しながら、機能的には進化していることが伝わります。一方、服飾の世界では、アスリートが着用するような最先端の衣類を着て街を歩くことはないですよね。TRUMEは、そんな最先端技術をもファッション的に落とし込めているのだと思います」



制約の中で考え抜かれた機能に、魅力を感じる。

岡山デニムのアッパーとビブラムソール(左)、ホースヘアとイタリア製のラバーソールなど、異素材のハイブリッドでユニークな靴をつくりだす勝川さん。アナログとハイテクを融合させる手法は、TRUMEと通じるものがあります。

独創の高機能アナログウオッチとして彗星のごとく姿を現したTRUMEには、腕時計サイズの中にセンサーやソーラーパネル、アナログ針を駆動するための複数のステップモーターなど、エプソンの培ってきたメカトロニクス技術が凝縮・実装されています。

「男って、機能があるものが好きですよね。腕時計も靴も道具で、しかも身に着けるものとしての絶対条件がある。その制約の中で考え抜かれた機能に魅力を感じるのだと思います。TRUMEは、道具好きに響くギアですね。僕たちは都会で生活をしていて、デジタル情報に浸っている。そんな状況の中で人間としての根本的な感度をあげるギアになり得る気がします」

TRUMEのコンパスを起動すると、ぴたりと北を指し示すのではなく、本物のコンパスのようにあえてやや揺らぎながら北を示すよう工夫されています。

勝川さんが靴づくりで心がけていることは、ユーザーに本質的な気づきを提供すること。皮革素材であれば、あえて凹凸の感じられる部分を使うのも手法のひとつ。この考え方は、TRUMEのコンパスを起動した際に、赤いセンター針が我々の記憶の中にある方位磁石のような揺らぎを再現しながら北を示すようにプログラミングされていることに通じるものがあります。

「デジタル機器では肉体のアクティビティと連動するイメージが希薄ですが、TRUMEはアナログであり、あえて遊びを設けているから肉体との連動感があります。僕は初めての資材屋さんや海外など、知らない場所によく出かけます。肉体の動きと同時に情報をくれて、自分の状況を把握できるのは心強いです。これを腕にして、いろいろ感じながら歩いてみたいですね」

刻々と変化する状況に対応し、未来へ進む人の感性を刺激するギア。それがTRUMEなのです。