シャネル、香りの革命史。

  • 写真:尾鷲陽介

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香りの着こなし術:58年前の「プール ムッシュウ」からいま人気の「ブルー ドゥ シャネル」まで。

シャネルのフレグランスの原点「No.5」が発売されたのは、1921年のこと。それまで香水というものは、ジャスミンやスズラン、ローズなど具体的な香りだったのに対し、調香師エルネスト・ボーが生み出したのは、「エレガンス」や「ミステリアス」といった単語で表現される、抽象的な香り。時代を超えて愛される、普遍的な香りづくりががここから始まったのです。

メンズ初のフレグランス「プール ムッシュウ」(上写真)は、それから34年後の1955年に登場します。ガブリエル(ココ)・シャネルが存命中に発売された唯一のメンズフレグランスは、当時男性のグルーミングが流行しつつあったのに先駆けて、2代目の調香師、アンリ ロベールによって作られました。レモン、ネロリ(花)、プチグレイン(葉)の爽やかな香りが広がり、少し経つとカルダモン(種子)、ホワイトペッパーのスパイシーさ、最後にはセダー(樹皮)、ヴェチヴァー(根)の香りが漂います。オリジナリティに富み、エレガントで気品溢れるフレグランスは、まさに普遍的な香りとして58年経ったいまも紳士たちから支持を集めています。
左から、「アンテウス オードゥ トワレット」(50mL)¥7,560、「エゴイスト オードゥ トワレット」(50mL)¥7,560、「エゴイスト プラチナム オードゥ トワレット」(50mL)¥7,560
次のメンズフレグランス「アンテウス」(上写真左)が誕生するのは、26年も後のことでした。3代目の専属調香師、ジャック ポルジュによる1作目のフレグランスです。大地の女神ガイアと海の神ポセイドンの間に生まれた、“神のように逞しく、人間のように寛大な英雄”、アンテウスというギリシャ神話の登場人物の名前がつけられました。香りは、90種類以上ものエッセンスで構成されたとあって非常に複雑。ラベンダーの芳醇さからクラリセージ(葉)、最後はラブダナム(樹脂)のまろやかな蜜を連想させる甘みが放たれます。情熱と繊細さ、相反する性質が合わさった香りは、“神のように逞しい”ながら繊細な面もあったというアンテウスのキャラクターと重なります。

「エゴイスト」(上写真中央)は、シャネルのメンズフレグランスの人気を決定づけたともいえる一本。メンズには珍しくローズが香り、バニラやサンダルウッドが濃厚に感じられる個性が、その圧倒的な存在感をもたらしています。エゴイストはもうひとつ「エゴイスト プラチナム」(上写真右)というフレグランスもあります。こちらも同様に華やさが香りの特徴ですが、成熟さを表現したエゴイストに対し、その男性が同時にあわせもつ若々しさ、溌剌さの側面にフォーカスをあてています。

多彩に展開する、アリュール オム

左から、「アリュール オム オードゥ トワレット」(50mL)¥7,560、「アリュール オム スポーツ オードゥ トワレット」(50mL)¥7,560
1999年に誕生した「アリュール オム」(上写真左)は、その後さまざまなタイプが登場する人気シリーズとなります。アリュールの意味は「魅力」。人それぞれの異なる魅力によって、さまざまな香りが生まれるという構成で作られたフレグランスです。トップ・ミドル・ラストノートの区分けがない、新しいメンズフレグランスの提案となりました。フレッシュ、センシュアル、ウッディ、スパイシーの4つのファセットからなり、個性や気分、季節によって微妙に香り方が変わる多面性をもっています。さらに、4つのファセットのうちの「フレッシュ」と「センシュアル」を強調した「アリュール オム スポーツ」(上写真右)が2004年に発表されます。そのアレンジによって、躍動感あふれる、また違った個性の香りができあがりました。
左から、「アリュール オム スポーツ コローニュ スポーツ オードゥ トワレット」(75mL)¥8,925、「アリュール オム スポーツ オー エクストレム オードゥ トワレット コンサントレ」(50mL)¥8,925、「アリュール オム エディシオン ブランシュ オードゥ トワレット コンサントレ」(50mL)¥8,925
アリュール オム スポーツの4つのファセットそれぞれにアレンジを加え、新たな構成に仕上げたのが「アリュール オム スポーツ コローニュ スポーツ」(上写真左)。レモンやベルガモット、グレープフルーツの柑橘系がはじけるフレッシュのファセット、シトラスのシャープさを和らげるホワイトムスクが効果的なセンシュアルファセットなど、そのクリアなボトルが象徴するような爽快感を備えたフレグランスです。次に発売されたのは、シャネルにとって象徴的な色、白を全面に押し出した「アリュール オム エディシオン ブランシュ」(上写真右)です。「センシュアル」のかわりに「オリエンタル」のファセットが入り、なめらかさが強調された印象です。そしてもっとも新しいアリュール「アリュール オム スポーツ オー エクストレム」(上写真中央)は、4つのファセットのうち、「フレッシュ」が「アロマティックフレッシュ」、「センシュアル」が「ムスク」に置き換えられ、文字通りアロマによって個性が強調されています。

誰も予想できない、シャネルのブルー

「ブルー ドゥ シャネル オードゥ トワレット」(50mL)¥7,560
これまでさまざまな魅力溢れるフレグランスを世に送り出してきたシャネルで、いま最もシャネルらしいといえば、2010年に登場した「ブルー ドゥ シャネル」(上写真)ではないでしょうか。革新的なデザインでつねにファッション界を揺さぶってきたシャネルならではの、意外性に満ちたフレグランス。通常果実系の香りはトップに来ますが、ブルー ドゥ シャネルにはそのような法則は通用しません。オレンジとレモンのシトラスがトップに香りたち、ミドルにも不意にグレープフルーツがやってきます。結末の予想が困難で、自由な展開を見せてくれます。生き生きとして率直で荒削りな香りは、ダイナミックに流れていくかのようです。あらゆる法則や拘束から解放された自由が、ブルー ドゥ シャネルの瓶から放たれています。
左から、「ブルー ドゥ シャネル オードゥ トワレット」(100mL)¥11,550、「ブルー ドゥ シャネル オードゥ トワレット」(50mL)¥7,560、「ブルー ドゥ シャネル トラベル スプレイ」(20mL リフィル2本付)¥9,450
ボトルのデザインにも意外性が仕掛けられています。一見するとブラックのボトル。「ブルー ドゥ シャネル」なのにブラック。でも光が当たった瞬間、それが実は闇夜のように濃いブルーであることがわかります。辺がわずかにカーブする絶妙なスクエアのエッジは、とくに鮮やかにブルーを映し出し、水平線の境界から明るくなっていく夜明けを連想させます。キャップには強めのマグネットが施されており、閉めるときのクリック感も爽快です。シャネルのメンズフレグランスの系譜を忠実に受け継ぎつつ新しい展開をみせたブルー ドゥ シャネルという存在を、象徴的にあらわしたボトルデザインではないでしょうか。

シャネル2代目の調香師アンリ ロベールや3代目のジャック ポルジュらは、香りに魅力的な物語を詰めました。彼らが作ったフレグランスをつければ、私たちは日常とは少し違うその物語に足を踏み入れることができます。シャネルのフレグランスには、そのような力が確かに備わっています。

問い合わせ先/シャネル カスタマー・ケア・センター TEL:0120-525-519