シェフ・小林圭が考える、時と料理の美しい関係。

  • 写真:小野祐次
  • 文:髙田昌枝(パリ支局長)

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今年、フランス版ミシュランで3つ星を獲得したフレンチ・シェフ、小林圭。革新とクラシックが融合するオーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」の愛用者である彼が、時について語る。

「時計は未来に飛ぶことも過去に戻ることもない。常に1秒ずつ前に進む時計のように、自分も料理人として、一日一日を積み重ね成長していきたい」

今年、ミシュラン3つ星を獲得したパリの「レストラン KEI」のオーナーシェフ、小林圭は語る。時計との出合いは10代の頃。やがて「世界三大時計」を知り、高級時計の技術と美学に興味をもつようになった。 「ミニッツリピーター、トゥールビヨン、永久カレンダーなどの機能があって、それを自社で手づくりするのがステータス。自分も、いいものを自分たちの手でつくり、お客さんに感動を与えたい。オーデマ ピゲの時計には、そういったところに共感を感じます」


時計写真:小林の愛用品「ロイヤル オーク ダブル バランスホ イール オープンワーク」。 職人の手で磨かれた300の部品が精密な動を見せる、西洋の美意識。
料理写真:小林のシグネチャー料理 「庭園風季節のサラダ」。 ムースの下に、季節で変わるいく種類もの野菜が隠されている。静謐な日本の美学を意識した一皿。

革新がクラシックになる。そんな料理をつくりたい。

小林 圭●レストラン「KEI」オーナーシェフ。1977年、長野県生まれ。98年に渡仏、プラザ・アテネの3つ星レストランでセカンドを務める。2011年3月、レストランKEIをオープン。翌年にはミシュランの1つ星、17年に2つ星、20年に3つ星を獲得。 www.restaurant-kei.fr

厨房に立つ小林の左手首で時を刻むのは、初代ロイヤル オークの復刻モデル「“ジャンボ” エクストラ シン」。1972 年に誕生し、サイズもデザインも革新的だったステンレス製ラグジュアリースポーツウォッチは、50年近く経ったいまも不滅の人気を誇る。

「誕生当時に革新と呼ばれたものが、いまはクラシックとして愛される。そういう料理が一品でもできたら、幸せな料理人だと言える。そんな思いを込めて、1つ星時代に購入した時計です」

2つ星を獲得した頃に出合ったのが、前ページの「ダブル バランス」だ。 ふたつのテンプが連動して精度を上げる姿は、従業員を育て、一緒に前進していくレストランの姿に重なった。

愛用する「ロイヤル オーク“ジャンボ”エクストラ シン」。いまでこそ小さめと言われるが、当時は腕時計の中では大型だった。

料理を始めて28年。「いまよりおいしく」を目指し、常に走り続けてきた。 「自分の時間は絶対に無駄にしない。 いま3つ星を取れたのは、28年間のすべてのおかげだと思っています」

だが、今年初めの3つ星獲得からわずか1カ月余り、コロナ禍を受けフランス全土でレストランが休業となった。小林も厨房に立てない日が続いた。

「その時間をなにに使うか。悔しがるより、3カ月でいろいろできる、と考える。いままでずっと走り続けてきたので、時計でいうならメンテナンスをしよう、と思いました」

これまで使ってきた食材を一から見直し、料理本を読み返し、料理人としての自分を見つめた。6月の再開以来、店は連日満席が続いている。

ランチは68ユーロから、ディナーは130ユーロから各4コースを提案。 日・月と、木のランチは休み。5, rue Coq Héron, 75001 Paris

「家庭でも食事はつくれます。でも外出禁止令で、やっぱりレストランに行きたい、とみんなが思った。それはレストランとは『体験』だからです。いい料理、いいサービス、いい空間で食事をし、いい時間が共有できれば、レストランは本当のシアターになる」

ゲストに提供するのは料理ではなく時間だ、と小林は言う。

「重要なのは、お客さんにどんな時間を過ごしてもらうかということ。喜びを分かち合うこと、それがガストロノミーだと思います」


※Pen 2020年12月1日号 No.508(11月16日発売)より転載


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問い合わせ先/オーデマ ピゲ ジャパン TEL:03-6830-0000

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