スコッチウイスキーの聖地を世界に知らしめた、シングルモルトの原点「ザ・グレンリベット」

  • 写真:小野祐次

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スコッチウイスキーの聖地、スペイサイドを代表するブランドで、本物の証しとして「ザ」を冠したザ・グレンリベット。洗練の味は、先見の明をもつ創業者から現代に受け継がれています。

「ザ・グレンリベット ファウンダーズリザーブ」(700㎖)¥5,184(税込)/ザ・グレンリベット(ペルノ・リカール・ジャパン お客様相談室)。創業者のジョージ・スミスが目指した、独特のスムースでフルーティな味を備えています。ボトルの後ろに見えるのは、蒸留所のすぐ近くにあるパックホースブリッジ。ラベル上のロゴにもなっている、ブランドにとって特別な場所です。

伝統と多彩な個性をもつ最大の生産地として、スコットランドはウイスキーの世界で特別な存在感を放っています。なかでも北部のスペイサイドはスコッチウイスキーの聖地ともいえるエリア。スコットランドで2番目に長いスペイ川流域を中心とするスペイサイドには、現在スコットランドに100以上あるという蒸留所のうち約半数が集中しています。

なかでも別格の知名度を誇るのがザ・グレンリベット。シングルモルト・ウイスキーの原点として世界中にファンをもつブランドは、どのようにしていまの地位を築いていったのでしょうか? 

密造の歴史に打ち勝った、果敢で優れた創業者。

スコッチウィスキーの産地は大きく分けて6つ。それぞれの風土や歴史から、異なる個性をもっています。

フルーティでほのかな甘味があり、軽やかでいて華やか――そんなスペイサイドのスタイルを形づくったのが、1824年創業、200年近い歴史を誇るザ・グレンリベットです。創業者のジョージ・スミスが選んだのは、スペイサイドでも上流側、グレンリベット(ゲール語で「静かな谷」)と呼ばれる人里離れた場所。豊富な地下水やスペイ川に流れ込む川があり、ウイスキーづくりには最適の土地でした。

1707年にイングランドと合同でグレートブリテン王国を構成することになり、中央への反発もあってウイスキーの密造者がひしめいていた時代。ザ・グレンリベットは1824年に政府公認蒸留所第1号として認可を受けます。これはスコッチウイスキーの歴史において、とても重要な意味をもっています。認可を受ける2年前、ジョージ・スミスのウイスキーの評判を聞きつけた当時の国王ジョージ四世が、その味わいを賞賛しました。当時は法律的には密造酒でしたが、国王に初めて飲み物として認められ、スコッチウイスキーの道を切り開いたのです。

小高い丘に囲まれた蒸溜所の遠景。豊富な水や澄んだ空気、寒冷な気候など、ここはウイスキーづくりに理想的な環境でした。
創業者のジョージ・スミス。他に先駆けて政府公認の蒸留所となった後、密造者から身を守るために、彼は2丁のピストルを常に携帯していたといいます。

ザ・グレンリベットの政府公認後、他のウイスキーも徐々に公認されるようになりました。しかし、ザ・グレンリベットの品質と評判があまりにも高かったため、名声にあやかろうと「グレンリベット」を名乗る蒸留所が周囲に乱立。品質の劣る模倣品と戦うため、ジョージ・スミスは裁判所に訴えました。長い戦いは息子の代まで続き、1884年にようやく訴えは認められ、ブランドは本物であることを示す「ザ」をつけたザ・グレンリベットとなり、他の蒸留所と区別されるようになりました。

創業者のチャレンジ精神と優れた技術は脈々と受け継がれ、シングルモルトの原点としてザ・グレンリベットは世界中で愛されています。

多彩なラインアップもザ・グレンリベットの魅力のひとつです。

これからウイスキーを楽しみ始める人にも飲みやすい、くせがなくフルーティなフレーバー。一方で、通をうならせるような複雑さや洗練も併せもつのがザ・グレンリベットのウイスキーです。絶妙なバランスをブレンデッドウイスキー(モルトウイスキーとグレーンウイスキーの原酒をブレンディング)ではなく、シングルモルトウイスキー(単一の蒸留所の原酒をヴァッティング)で実現しているのが、このブランドの凄みといえるかもしれません。左側の3本は最もよく飲まれているライン。左から「ファウンダーズリザーブ」¥5,184、「12年」¥5,800、「15年 フレンチオーク・リザーブ」¥7,242。中央の3本は、よりプレミア度が高いライン。左から「18年」¥12,284、「アーカイブ21年」¥24,840、「25年」¥45,360。右側の3本は、ザ・グレンリベットの中でも異色といえる、個性的な「ナデューラ」ライン。左から「ナデューラ オロロソ」¥9,072、「ナデューラ ファーストフィルセレクション」¥9,072、「ナデューラ ピーティッド」¥9,288。すべて700㎖/以上、ザ・グレンリベット(ペルノ・リカール・ジャパン お客様相談室)

エレガントでフルーティな味わいを生む、伝統製法。

約150年前から同じ形というポットスチル。奥に並ぶのが初留釜、手前に並ぶのが再留釜。1年間休みなしで稼動し、年間1050万ℓのニュースピリッツを生産しています。
広大な蒸留所の敷地内、メインの建物群から少し上ったところにあるのが「ジョシーズ・ウェル」です。ミネラルを多く含み、仕込み水として使われています。

ウイスキー街道と呼ばれ観光客を惹きつける、スペイ川流域の道。10月に訪れた時は、収穫を終えたばかりの大麦畑の黄色、羊がのんびりと草を食む牧場のグリーン、夏にはピンク色の花をつけるというヒースの赤茶が、小高い丘が連続する土地をパッチワークのように覆っていました。そのウイスキー街道をスペイ川の上流方面へと進んだ、スペイサイドの南部に位置するのがザ・グレンリベット蒸留所。この自然豊かな場所で、スペイサイドを代表するシングルモルトはつくられています。

広大な蒸留所の敷地内には、創業当時からウイスキーの仕込み水に使用されている源泉「ジョシーズ・ウェル」があります。この湧水はミネラル分に富んだ硬水で、ザ・グレンリベット特有の味わいが生まれているのです。

モルトづくりに始まり、糖化、発酵、蒸留、熟成と進めていくウイスキーづくり。蒸留所内で最も目を引く設備のひとつが、蒸留を行う巨大なポットスチルです。この蒸留器の形がピュアでクリアなアルコールをつくる秘訣です。

「背が高くて細いランタン形であることが特徴です。この構造によって、雑味をもった比重の重いアルコール蒸気は上昇せず、ピュアで軽いスピリッツだけが抽出できるんです」

案内をしてくれたのは、ザ・グレンリベットのインターナショナル・ブランドアンバサダーを務めるイアン・ローガンさん。ウイスキー産業に30年以上携わり、豊かな言葉でその魅力を紹介する人物です。

「ポットスチルの形は創業者のジョージ・スミスが設計したもの。150年近く同じ形のものを使っているんです」

大麦を加工してつくったモルト。発芽を止めるために最後に乾燥させるが、ザ・グレンリベットではピート(泥炭)は使いません。
樽工場で使用済みの樽を修理する職人たち。これまでに熟成させてきた酒の成分が、ウイスキーにマジカルな変化を与えていきます。

蒸留前のもろみ(発酵液、ウォッシュ)をつくる発酵槽も特徴的です。

「ステンレス製を使うところも多い中、ザ・グレンリベットではアメリカ・オレゴン州のパイン材の発酵槽を使っています。ステンレスとはまた違ったフルーティさが出るんです」とイアンさん。高さ約6・5mという巨大な発酵槽がいくつも並ぶ様子は圧巻です。

ウイスキーの味わいに大きな影響を与える樽は、多くはバーボンやシェリー酒を熟成させたものを使っています。熟練の職人が修理した樽にニュースピリッツ(蒸留液)を詰め、熟成させていきます。どんな材質と大きさと経歴をもつ樽を使うかもまた、ブランドの個性となります。

取材中、イアンさんが繰り返していたのが「一定であること」でした。同じ商品であれば、どのボトルもまったくフレーバーは同じ。それを実現するために伝統や経験を活かし、また最新のテクノロジーを採用したり、より効率的な工程を探っていくのだと言います。

「最も信頼されているシングルモルトであること。これがザ・グレンリベットを特徴づけています。そして複雑で複層的でフルーティ、個々の味覚に合う幅広い商品があります。いろんなボトルを試して、あなたに合うウイスキーを探してください」

蒸留所内にひしめく熟成庫のうち、とても小規模なもの。最近、樽詰めされたものから40年以上熟成を続けるものまでが並んでいます。揮発したウイスキーのいい香りが立ち込めています。

スコットランドの恵みを味わうバーと、誇りを体現する伝統料理。

「ザ・ドーワンズ・ホテル・オブ・スペイサイド(The Dowans Hotel of Speyside)」のバースペース、「ザ・スティル(The Still)」。壁一面にウイスキーボトルが並び、ウイスキー好きにはたまらない空間です。
ザ・ドーワンズ・ホテル・オブ・スペイサイドがあるのは、蒸留所からほど近い、アバラー(Aberlour)という町。お膝元ということもあって、定番から希少なものまで、ザ・グレンリベットの品揃えも充実しています。

ザ・グレンリベット蒸留所を後にして向かったのは、ウイスキー街道に点在する個性的なバーのひとつ。洗練された料理でも知られるザ・ドーワンズ・ホテル・オブ・スペイサイド内の「ザ・スティル」です。バーで目を引くのは、数え切れないほどのウイスキーボトルが並ぶ壁一面のウイスキーセラー。幅は7~8m、高さは3mほどあるでしょうか。ボトルを照らす光が琥珀色の液体を通過して、なんとも艶やか光が室内を覆っています。ザ・グレンリベットをはじめ、スペイサイドのウイスキーがずらり。日本やアメリカなど、スコッチウイスキー以外も取り揃えています。飲んだことがあるウイスキーを見つけたり、いつか飲みたいウイスキーを選んだり、こんなバーで過ごす時間はたまらないものです。

ウイスキー街道はとても静かなエリアで、昔ながらの石造りの家が立ち並ぶ小さな町と町の間は、大麦畑や牧場や森ばかり。そんな人口密度の低い土地ながら、「ザ・スティル」のような本格的なバー、カジュアルなパブ、地産地消にこだわるレストランがたくさんあります。こういった食やウイスキーを堪能する場所と蒸留所を目指して、世界中から人々がやって来るのです。

羊の胃袋にみっちり詰まったハギス。加える材料やスパイスの種類、茹でるか蒸すかなど、家庭や店によって味が違います。ナイフで切り分け、それぞれのプレートに取り分けられました。

同じく取材ツアーの一環で、イアン・ローガンさんをホストにした伝統ディナーが開催されました。ホストもゲストもスコットランドの伝統衣装を纏い、この地ならではの味に舌鼓を打つというもの。ハイライトは伝統料理「ハギス」です。羊の内臓にさまざまなスパイスやタマネギを加えてミンチにし、羊の胃袋に入れて茹でたり蒸すというこの料理、食べたことはありますでしょうか?

ハギスはスコットランドの家庭で一般的に食べられているものですが、最も食べられるのが1月25日。この地で生まれた詩人、ロバート・バーンズの誕生日で、「バーンズ・ナイト」と呼ばれている日です。バーンズは『蛍の光』『故郷の空』の作詞者としても知られるスコットランドの国民的詩人。『ハギスに捧ぐ(Address to Haggis)』というユーモラスかつスコットランド人を称える詩があり、この日は多くの人々がハギスを食べるのだそうです。

ディナーでは作法にのっとり、バグパイプ奏者に先導されてハギスが入室しテーブルを一周した後、その『ハギスに捧ぐ』をイアンさんが朗読してくれました。英語とこの地方の古い言葉でつくられた詩は、英語話者でも聞き取れない部分があるそうですが、迫力たっぷり。ハギスを食べて育った人々を「田舎者」と卑下しつつ、だからこそ勇猛なスコットランド人を、バーンズならではの力強い言葉を使って称えていくのです。イアンさんによる朗読が終わると、全員で乾杯。飲むのはもちろんスコッチウイスキーです。好き嫌いが分かれる食べ物だと紹介されることもあるハギスですが、臭みやクセほとんど感じず、でも不思議な歯ごたえと羊肉の旨みを楽しめるものでした。シェフの腕前によるところが大きいのかもしれませんが、スコットランドを訪れたらぜひ食べてもらいたい一品です。

イアンさんがロバート・バーンズ(1759~1796年)の『Address to Haggis』を朗読し、乾杯しました。バーンズは「農民詩人」「スコットランドの最愛の息子」と呼ばれた国民的な詩人です。

近隣で収穫したスコットランドで最良の大麦、この地に湧き出るミネラルたっぷりの水、そして選りすぐりの酵母。たった3つの原料を元に、先人の智恵や職人の経験と技術を駆使してつくられるザ・グレンリベットのウイスキー。シングルモルトの原点と知ると、飲み方や味わい方に流儀がありそうに思ってしまいますが、そんなことはありません。ストレートでもトワイスアップ(ウイスキーと水を1:1)でも、オン・ザ・ロックでもカクテルでも。最後に、イアンさんの言葉を引用します。「どんな香りかを大事に味わってください。でも味覚は誰もが違うものです。自分の感覚を信頼して、後は楽しんでください」

●問い合わせ先/ペルノ・リカール・ジャパン お客様相談室 TEL 03-5802-2756 www.theglenlivet.jp