忙しいふたりが顔を合わせるのは久しぶりだが、会ったとたんにトークセッションが始まる。
神奈川県中央北部に位置する愛川町は、自然に囲まれた緑豊かな町だ。中心部には巨大な内陸工業団地が存在し、そこで働く南米出身の外国人がたくさん住んでいる。町の外国人比率は5.5%で神奈川一。なかでもペルーとブラジル出身者が多く、全体の70%を占めている。町の中心がある通り沿いには、エスニックマートやレストランが並び、南米の食材やCD、雑誌なども売られている。そんな中、見知らぬ食材を求めて立ち寄った幹さんが、ほんの腹ごしらえのつもりで入ったのが、今回の舞台「deli’s ケーキ&コーヒー」だ。
森枝幹(以下、幹):コレ、何気に頼んだ砂肝の強烈なうまさに、のけぞりそうになった。めちゃくちゃうまいでしょ。しかも、この安過ぎる値段。
田中開(以下、開):ヤバい、うまい、これヤバい。ニュー・ジャンク!!
時折襲ってくる痛風の激痛に顔を歪ませながらも、やっぱり砂肝を完食する幹さん。
この数週間、渋谷パルコで行われたエスニック煮干しラーメンのイベント「チョンプー✖️凪」のため、煮干しガラを使ったフードロスゼロラーメンの試作を続けていた幹さん。とんでもない量の煮干しを食べ続けた結果、足の親指辺りに痛風発症による激痛が走ったのだという。 かつては美食家たちの持病とも言われた痛風に、モツと魚卵は最強の天敵。しかし、「ペルー風砂肝の鉄板焼き」は食べたい。シェフの宿命を前に笑顔で見守る開さんと、食欲と激痛の間で悶える幹さん。
開:しかし、ダメじゃん。「サーモン&トラウト(痛風を意味する英語のスラング)」という名前のレストランでシェフをやってた奴が痛風って。
幹:あの店は痛風になっちゃうくらい、罪つくりなおいしいモノを出すって意味だったんだけど……。まさか、自分がなるとは。開も早くなってみろよ、痛さわかるから。
なんてことなく普通に見えるハンバーガーも、ひと口頬張ると驚きのうまさが口中に広がっていく。
最初に幹さんが発見したのは、アメリカのダイナー風の店の入り口にかかるハンバーガーの垂れ幕。でも、注文して出てきたのは「写真に偽りあり」。素っ気ないほどクラシックな見た目のハンバーガーだった。でも、それは想像を裏切るおいしさと、初めて出合うフレーバーだった。
幹:なんだか、普通のハンバーガーも全然違うよね!?
開:アメリカン(フード)だけど、全然アメリカンじゃない。相模の端っこで、南米がこんな風にアメリカナイズされたんだって感じ。
幹:まずコレ、パテ自体にソースがかかってないよね。
開:でもパテそのものには味がしっかりついてる。
幹:なにが入ってるんだろう? スペアミントとニンニク、クミンも入ってるよね、パクチーは?入ってないか⁉
開:全然アメリカンじゃない(笑)
幹:なんかさ、めちゃくちゃいいでしょ、ここ。
開:懐かしいし、ファミレスだし、新しいし、ドキドキする。
「マヨチキンサンド」(左)、「ペルー風ポークサンド」(右)各¥550(税込)
ていねいに裂いた蒸し鶏が入った「マヨチキンサンド」は間違いのないうまさだが、ひと口食べて驚くのは現地で「チチャロンサンド」と呼ばれるポークサンドのうまさ。チチャロンは豚の皮を揚げたもので、ラテンアメリカ全域のソウルフード。もともとはスペインのアンダルシア発祥で、長らくスペインの植民地だった中南米ではソウルフードになっている。ペルー人にとっては朝食の定番。後述の「サルサ・クリオージャ」ソースをたっぷりかけて食べる。
幹:さっきのハンバーガーがヒントになると思うけど、肉にていねいな下味が付いてて大量のニンニクが入っていながらハーブ使いで結果さっぱり、みたいな……。
開:この味の感じ、なんだろ⁉ コロンビア行った時に食べた味の感じだ。パンの食感とか、素揚げっぽい感じとか……。あと、化学調味料を1ミリも使わない。
幹:油の感じとか、水分が少なくて、いい意味でパサパサした感じ。
開:なんだか、「つなぎ」がない感じだよね。
ソーセージとフライドポテトとベーコンの盛り合わせにチーズと目玉焼きがのった「サルチパパデリス」¥715(税込)
トマト、ジャガイモ、トウモロコシ、トウガラシ。日本でもお馴染みの食材たちの共通のルーツはアンデス。すべてペルー原産の野菜たちだ。「チリの着道楽、ペルーの食道楽」と言われるくらい食にこだわる人たちが多く、南米一の美食の国と呼ばれている。この店のていねいな下ごしらえや、スパイスやハーブの絶妙なバランスに、すっかりペルー料理にハマってしまうふたり。
幹:料理に使われている肉にそれぞれのうまさがあるよね。ていねいにマリネしたり、素揚げしたり。野菜の味と辛さと、すべてのバランスが抜群。
開:コレ、夜のゴールデン街とかで食べられたら最高でしょ。このソース、なに⁉ サルサ⁉ これかけると、なんでもうまい。