アロマ豊かな「ソーヴィニヨン・ブラン」に出合う、カリフォルニアワインの旅。【後編】

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:鹿取みゆき

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造り手の個性によって多彩な魅力を見せる品種、「ソーヴィニヨン・ブラン」のワイン。世界有数の産地であるカリフォルニアを巡り、人気のワイナリーを訪ねる旅の後編をお届けします。

カリフォルニアのソーヴィニヨン・ブランを巡る旅はまだまだ続きます。前編に続くこちらの後編では、まずはヨーロッパ出身のオーナーやワインメーカーが造る、ソーヴィニヨン・ブランのワインをご紹介しましょう。なかには、セミヨンというボルドー系の品種をブレンドしたワインもあるのです。こちらは、樽の中で熟成させることも多いようで、ボルドー地方の白ワインのように、より厚みのあるタイプに仕上がります。

また近年、各ワイナリーがますます力を入れている、ソーヴィニヨン・ブランのワインと食事とのペアリングについてもご紹介します。カリフォルニアのワイナリーのなかには、こうしたペアリングについて解説した小さなブックレットを用意したり、ホームページでわかりやすく説明したりしているところもあるのです。こうした楽しみ方を知れば、ワインと出合う悦びがさらに増すことは確実でしょう。

フランシス・F・コッポラが造る、華やかな芳香のワイン

ソーヴィニヨン・ブランはワイナリーが出しているふたつの白ワインのひとつ。2012年が初リリースです。キリッとした辛口ですが厚みがあります。樽熟せず、ステンレスタンクでのみ保管。

「ゴッドファーザー」など数々の名画を撮った映画界の巨匠、フランシス・フォード・コッポラがカリフォルニアでワインを造っているのをご存じでしょうか? じつはナパバレーには、彼のワイナリーがあるのです。ワインは、今年のアカデミー賞で唯一の公式ワインに選ばれています。 ワイン造りの采配を振るっているのは、今年の3月からボルドーの名門、シャトー・マルゴーの総支配人も兼ねることになったフィリップ・バスコール。近年のイングルヌックのワイン造りを築いてきた立役者です。

バスコールは、自社農園の一部に試験的にソーヴィニヨン・ブランを植えたところ、花のように芳香をもったワインに仕上がったため、この区画にソーヴィニヨン・ブランを増やすことを決断したそうです。5年間かけて植え替えを実施し、いまでは500ケースほどのソーヴィニヨン・ブランのワインが造られるようになりました。「この品種でよく感じられるグレープフルーツのような香りが顕著なわけではありませんが、私自身、飲んでみて品種がすぐにわかるようなワインを造っているわけではない」とバスコール。けれど、エレガントさと複雑さをとことん追求しているそうです。

イングルヌック取締役社長兼醸造家フィリップ・バスコール。「低アルコールでよりエレガントなスタイルは私自身が好みとしているスタイルで、かつコッポラ氏の好みでもあります」と話しています。
イングルヌックの歴史は1879年に遡ります。1887年に建てられたシャトーがいまも残っています。




熟成でソーヴィニヨン・ブランの可能性を拓く「ガーギッチ・ヒルズ」

創業者のマイク・ガーギッチはクロアチアからの移民です。イーヴォも叔父の仕事を継ぐためにこの土地にやってきたそうです。現在、栽培から醸造まで一手に引き受けています。イーヴォの後ろにあるのがエッセンスを発酵させ、熟成させた大樽です。

「私自身はソーヴィニヨン・ブランを愛してやまないのです」と、熱烈なソーヴィニヨン・ブラン愛を語ってくれたのは、ナパバレーにあるガーギッチ・ヒルズ・エステートで栽培醸造責任者を務めるイーヴォ・ジェラマーズ。
「この品種にはあまり手を掛けなかったワイナリーや造り手もいましたが、じつはソーヴィニヨン・ブランは、高貴で、洗練された品種で、さまざまなタイプのワインを造ることができます」とジェラマーズは熱弁を振るいます。彼によるとソーヴィニヨン・ブランで造られるワインの99%が若いうちに飲みきってしまうことを想定して造られているとのこと。けれど、ここのワイナリーでは、素晴らしい熟成を見せるこの品種のワインも造っているのです。

それがエッセンスというワイン。たとえば、7年間の熟成を経た2009年物を飲んでみましょうか? 主体になっているのは、紛れもない白トリュフの香り。飲む人の心をいっぺんに虜にしてしまいそうなほどの芳香です。そして質感はとろりとしており、とてもクリーミー。ソーヴィニヨン・ブランの可能性の広がりを感じさせてくれるワインです。
「このエッセンスというワインは10から15年は熟成していきます。ぜひ、蟹を使ったお料理と合わせてみてください」とイーヴォさんは話していました。

エッセンス(左)はわずか600樽前後の限定生産。ワイナリーではフュメ・ブラン(右)も1980年代から造っています。いずれも培養した酵母を加えることなく、自然に果汁が湧きつくのを待って発酵させています。
ワイナリーがあるのは、ナパバレーのラザフォードという地区の29号線沿い。ワイナリーの横を、ワイントレインが走っています。ワイナリーで販売しているオリーブオイルもお薦め。

食とのペアリングの楽しさを伝える「ケンダル・ジャクソン」

ソーヴィニヨン・ブランから始まって、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、そして甘口のミュスカといった、6種類のワインそれぞれに合わせて6種類のややポーションの小さめなお料理が出てきます。

最近のカリフォルニアのワイナリーでは、ワインに合わせたお料理を提案してくれるところも増えています。ソノマにあるケンダル・ジャクソンは、食とのペアリングの楽しさを伝えることにとりわけ力を入れているワイナリー。併設されたレストランでは、ワイナリーお抱えのシェフがつくった料理とワインのマリアージュを楽しめるようになっています。

「センサリー・エクスペリエンス(感覚の体験)」というペアリングコースは、ワインと料理の6つのマリアージュが堪能できる満足度の高いコース。未知なる組み合わせのペアリング体験は、ワインファンならずとも楽しめるに違いありません。

今回の旅のテーマであるソーヴィニヨン・ブランのワイン、グランレゼルヴ・ソーヴィニヨン・ブラン2014は、1杯目のワインとしてサーブされました。コーンミールのフライドグリーントマトと合わせることで、ワインの香りは、より豊かに、味わいはよりフレッシュに感じられるようになります。トマトの瑞々しさもよりいっそう引き立てられています。

シェフのジャスティン・ワングラー。2005年にケンダル・ジャクソンに入社。世界レベルのワインと、ガーデンの素晴らしい食材の組み合わせに思いをめぐらす日々は夢のような毎日だと語っています。
広々としたテイスティングルームとショップ。スタッフと会話を交わしながらワインの試飲をすることが可能です。

ワインと料理のペアリングにも力を入れているだけあって、ワイナリーの敷地内には、ブドウ畑だけでなく、本格的なベジタブルガーデンも営まれています。とりわけトマトについては150種類も栽培されており、年に1回、さまざまなトマトのテイスティングと地域の料理人たちがつくったトマト料理を味わうという、わくわくするようなトマト・フェスティバルも開催されています。

2016年のトマト・フェスティバルは9月24日に開催。2016年で20回目を数えました。参加費は95ドル、170ドル、250ドルの三段階。ワインのセミナーやシェフが対決するカリフォルニア版、「料理の鉄人」があったり、一日楽しめます。
トマト・フェスティバルでは、赤、黄色、オレンジといった100種類ちかくのトマトのテイスティングをすることができます。甘みも酸みも微妙に異なっています。
フェスティバルでは、地元の料理人たちがトマトを使った料理を提供。参加者はそれらの料理を食べて、投票をして、いちばんおいしかった料理を選びます。

クラシカルな造りを貫く「ピーター・マイケル」

曲がりくねった山道をぐんぐん登っていくと、突然視界が開けて、山の斜面にブドウ畑が広がっているのが見えてきます。そこはセントヘレナ山の西斜面にあたります。彼らは、冷涼な山の中のブドウ園で極少量生産の昔ながらのワイン造りを実現させたかったのです。

カリフォルニアでは、コッポラのような莫大な富を築いた富豪たちが、採算度外視で品質をひたすら追求するワイナリーを立ち上げるケースが見られます。イングルヌックのあるナパバレーよりもさらに北に位置するナイツバレー。その山間にひっそりと佇むピーター・マイケル・ワイナリーもそのひとつ。エリザベス女王からナイトの称号を授与されたピーター・マイケル卿夫妻が立ち上げたワイナリーです。ブドウ園の開園は1982年です。

ピーター・マイケル・ワイナリーがはじめに手がけたのがボルドー系の赤用品種ということもあり、ここのソーヴィニヨン・ブランにはボルドー地方のようにセミヨンがブレンドされています。ワインは、オーナーであるマイケル卿が、午後に飲むのがぴったりだとして名付けた「ラプレ・ミディ」(フランス語で午後という意味)と、さらにプレミアムなソーヴィニヨン・ブランとセミヨンをブレンドし究極のワインを目指した「クール・ア・クール」のふたつが揃います。

いずれも、房ごとそっと優しく搾って得た果汁を、最高級の樽の中で、自生酵母よって発酵させ、そのままゆっくりと寝かせます。生き生きとした個性が失われないように、リンゴ酸をそのまま残しているのも特徴です。一部は最新の機器を使いながらも、あくまでもクラシカルな造りを貫いているのです。




ソーヴィニヨン・ブランの多様性を実感する「マタンザス・クリーク」。

ワイナリーでは、木陰にピクニック・エリアが用意されており、外に出て、気持ちよさそうにワインを楽しむ訪問客の姿も見かけられます。アウトドアの食事に、軽やかなソーヴィニヨン・ブランはぴったりです。

カリフォルニアの中でも非常に多くの人から親しまれているのが、マタンザス・クリーク・ワイナリーのソーヴィニヨン・ブラン・ソノマコースト。ワインは、ソノマ・コーストというカリフォルニアでも少し涼しいワイン産地で約40カ所の畑の区画からブドウを集めて造られており、そうすることで、ソノマ・コーストという産地の個性を表現しようとしています。初リリースが1977年ですから、もう40年間も続いている人気アイテムなのです。わずかにセミヨンがブレンドさせていますが、この品種らしいグレープフルーツやレモンキャンディのような香りが印象的です。

ワイナリーでは、ソーヴィニヨン・ブランだけで、多いときには5アイテムのワインが揃います。いかにマタンザス・クリークがこの品種のワイン造りに力を入れているのかがわかります。ワインは前述のようなフレッシュで爽快なタイプから、スモモのような香りのきりっとしたタイプ、そして骨太な酸とショウガの香りが鮮烈で緊張感のあるタイプまで、ソーヴィニヨン・ブランの多様性が実感できるワイナリーでもあるのです。

ソーヴィニヨン・ブランのトップクラスのワインは、ジャーニーというワイン(右)。ステンレスのタンクや樽、そして卵型のタンクなどさまざまな発酵容器のなかで発酵させて、最後にブレンド。そうすることで複雑な味わいが生まれています。
マタンザス・クリーク・ワイナリーはラベンダー・ガーデンでも知られています。ラベンダーからは、ポプリやバームなどバス用品もつくられており、売店での購入も可能です。

さて、ソーヴィニヨン・ブランを求めて巡ったカリフォルニアの旅もこれで終わりです。ナパバレーからソノマまで、訪れたワイナリーは全部で10軒になりました。カリフォルニアの美しい光景とともに思い出すソーヴィニヨン・ブランのワインは、香りひとつとっても、グレープフルーツ、レモンの皮、パッションフルーツ、マンゴー、ハチミツ、そして白トリュフなど、じつに多様。フレッシュで爽快なものから、まったりとした味わいで10年以上熟成させたくなるものまで、味わいもさまざまです。ソーヴィニヨン・ブランのワインなら、昼のランチに気軽に、または夜のディナーにゆっくりと時間をかけてと、食のシーンによっての使い分けもできそうです。

そして、ワインと料理は、単独で味わうだけでなく、一緒に合わせてみると、すばらしい香りの世界が広がります。ここにご紹介した組み合わせもヒントにして、ぜひみなさんのテーブルに1杯のソーヴィニヨン・ブランを添えてみてください。


関連記事:アロマ豊かな「ソーヴィニヨン・ブラン」に出合う、カリフォルニアワインの旅。【前編】

カリフォルニア バイザグラス プロモーション
California by the Glass Promotion

「バイザグラス」とは、ボトルではなく、グラスでワインをオーダーすること。一度の食事で複数のワインを楽しむことが一般的なカリフォルニアでは、多くのレストランで10種類以上のワインが「バイザグラス」で提供されています。もちろんワインもカジュアルなものからボトルでは気後れするプレミアムなものまで多彩に揃えられています。個性豊かなワインをグラスで気軽にオーダーできることで、より自由に、そして奥深くワインを楽しめるのです。

そして、毎年4月から5月にかけて、関東・関西地区のレストランが多数参加して、この「バイザグラス」を楽しめるのが「カリフォルニアワイン バイザグラス プロモーション」です。1995年にスタートし、今年で23年目を迎え、毎年春の恒例として多くのワイン好きが楽しんでいます。ぜひ、あなたも楽しんでみてください。


バイザグラスキャンペーンサイトはこちらから